ラグード王子の魔物退治?

「それにしても……これだけ進んでも魔物の気配がしないな」

 洞窟を進みながらマオルーグが呟く。
 それなりに長くのびた道をだいぶ歩いているが、魔物の遭遇はせいぜい入口付近でちょこっとあったぐらいで、簡単に追い払えてしまった。
 だからスカルグがくれた剣も、今は鞘に納められたまま出番がない。

「……遥か昔、魔王が勇者に倒されて、統率を失った魔物は現代では野生動物とそう変わらぬのだったな」
「凶暴で人を襲うようなものも多いけど、凶悪性をもって集団で襲ってくるようなのはほとんどいなくなったようだね……そして中には無害なもの、友好的なものもいる。それが現代の魔物さ」

 紅の目を伏せて自分のことを語るマオルーグは、少し寂しそうだった。
 今は新しい人生を歩んでいるとはいえ、昔の記憶も残っているんだし複雑だよな……俺自身も含めて。

「たぶんですけど、この奥にいるという魔物を畏れて洞窟の魔物が逃げてしまった……とか?」
「ああ、俺もそうなんじゃないかと思うよ……ユーシア姫、もしもの時は俺が食い止めるから全力で逃げてくれ」
「冗談っ!」

 ぶりっこやめろって言われたから、少し本音を出すぞ。

「勝手について来ておいて他国の王子を置き去りにして逃げるなんて、リンネの恥だ。逃げるなら、一緒にな?」
「ユーシア姫……」

 ほんとは一緒に戦うと言いたいところだけど、こいつらが敵わないような相手に、今の俺じゃまだまだ足手まといになりかねないだろう。
 もちろん、いつかはそうならないように鍛えていきたいんだが。

……と、

「!」
「なにか……いる」

 奥に何者かの気配を察知して、全員が動きを止めた。
 地の底から響くような声も漏れ聴こえる……ようやく騒ぎの大元とご対面らしい。

「これは……“彼女”は……」

 一瞬、ラグード王子が怪訝そうな顔をした。
 けれども彼が何か言い出す前に、俺たちは“そこ”に辿り着いた。

 ちっぽけな人間など見下ろすような巨体の全身を覆う鱗は黄金色に煌いて、洞窟内の僅かな光を反射する。

「こいつは、ドラゴン……でかいぞ!」
「ま、待ってくれ!」

 マオルーグとファイがそれぞれ剣を構える。
 が、ラグード王子がその前に立ち、二人を制止した。

「王子、何を……」
「……このドラゴン、なんだか苦しそうなんだ……それに、俺たちを前にして襲ってくる様子がない」

 見ればドラゴンは王子の言葉どおり、じっとこちらを見るだけでおとなしくしている。

 そういえば、近くの村に被害が出たって話はないな?

「急に押しかけてすまない。ただ、近くの村人が洞窟から聴こえてくる君の声を怖がっているんだ。良ければ、事情を聞かせてくれないかい?」

 村人には俺が話すから、とラグード王子はドラゴンに優しく語りかけた。

 すると……

『うっ、うう……』

 ドラゴンはその目に涙をいっぱい溜めて、泣き出すのだった。
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