ラグード王子の魔物退治?

 遠くおとぎ話に語られる勇者と魔王の戦いから時は流れ、平和で穏やかな時代。
 小さな国、リンネの小さな姫……その実は伝説の勇者の生まれ変わりであるユーシアは、日当たりの良い城の中庭をゆったりと優雅に散歩していた。

……なんて、今日は剣の稽古に誰も付き合ってくれなかったからなんだけどな!

「くそう、ファイはともかくマオまで……しかも俺を一人にするなんて……」

 どっかのおてんば姫みたいに脱走しちまうぞー?
 って、さすがにそこまではしないけどなんだか面白くないのは事実。
 だから、あちこち見回りながら気晴らしの散歩なのだ。

「……ん?」

 と、何やら見覚えのある……そして珍しい人物の組み合わせを見かけて俺は足を止めた。

「マオにファイ、こんなところに……それに、ラグード王子も?」

 三人の表情は真剣で、どうやら真面目な話をしているらしい。
 俺は三人の死角からやや遠回りに、なるべく音を立てないようにしてぐるりと回り込んだ。

(何話してんだ……?)

 そっと近づいてみると、ようやくその内容が明らかになる。

「……では、その洞窟の魔物を退治するために王子が?」
「王子自らって……大丈夫なのですか?」
「ああ、これでもリオナットでは勇猛で通しているからね。魔物退治も最初は周りから反対されたんだけど……」

 なになに、なんか面白そうな話してる?

 茂みに身を潜め、息を詰めて耳に神経を集中させていると、突然話し声は止まった。

「こら」
「にゃあ!?」

 いきなり首根っこを掴まれたかと思えば体ごと視界が上昇し、呆れた顔のマオルーグと目があった。
 いやーん、バレてーら。

「盗み聞きとはいい趣味だな、勇者」
「だってだってぇ、みんなが俺を除け者にするからー」

 さみしかったんだもん、としおらしく上目遣いをするとマオルーグが息を詰まらせる。
 ぬははは、貴様の弱点は知っているんだぞー!

「くそ……おっさんがぶりっこをするな! 腹が立つ!」
「今は美少女ですぅー!」

 なんて騒いでいるとくすくすと笑う声に我にかえった。

「いやぁ、仲良しで羨ましいなあ」
「ユーシア様もマオルーグさんも、その辺にしてくださいね」

 うっ、ラグード王子はともかく後ろのファイのじとりとした視線が痛い……!
 あれ絶対「王子の前ではしたないところを……」とか思ってる顔だ……
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