マオルーグの休日
なんだかんだうろついたり話をしていたら結構な時間になってしまって、結局何も用意ができなかった。
い、いや、別に勇者への贈り物を用意する必要などないのだ!
「む、そこにいるのは……」
と、城の廊下を歩く見覚えのある後ろ姿に気づき、呼び止めた。
成人男子にしてはやや小柄だが鍛えられた肉体がよくわかる、跳ねた茶髪の青年は、
「ファイ」
「あっ、マオルーグさん」
「勇者は一緒ではないのか?」
前世でも今世でも勇者を守る戦士のファイ・シルト。
いつもべったりくっついている護衛が、我もいないのに一人とは珍しいな。
「ユーシア様ならお部屋にいます。ただ、しばらくはお一人になりたいそうで……」
「……そうか」
勇者も今は年頃の女子、そういう時もあるか……中身はおっさんだが。
「マオルーグさんは今日はお休みでしたね。何か良いことありましたか?」
「良いこと……?」
そう言われて今日という一日を脳内で振り返る。
「むう……良い、こと……ぐぬう……」
「あっ、な、なんかすみません!」
「い、いや、いい」
特に前半、びっくりするほど良いことがなかった。
疲れてばかりの休暇だったな……これならまだいつもどおり護衛として勇者と過ごしていた方が、
(いや待て、今我は何を考えた……?)
この我が、魔王である我が、宿敵である勇者との生活に安らぎを覚えている、だと……?
「そんなはずはなぁいっ!」
「ひえ!? な、何がですか?」
む、しまった動揺のあまり声に出してしまっていた。
なんでもないと咳払いで誤魔化して、話題を変えよう。
「……ファイは勇者との付き合いが長いのだったな」
「え? あ、はい」
「その……勇者は何が好きなのだ?」
一瞬の間、妙な沈黙。
若緑の大きな目がじっとこちらを見つめてくる。
「……何かおかしなことを聞いたか?」
「マオルーグさん、ユーシア様を喜ばせたいんですね!」
「はぁ!?」
待て、なんでそうなる!?
「ユーシア様が言っていました。誕生日に貰ったプレゼントを眺めていたらマオルーグさんが面白くなさそうにしていたと……それでてっきり、マオルーグさんも何かプレゼントが欲しくて拗ねたのかと……」
「我は子供か!」
そんな理由で不機嫌になる魔王など聞いたことがないわ!
「オレもそれはちょっと変じゃないかなって思ったんですけど、なるほど……ユーシア様を笑顔にしている物の中にマオルーグさんからのものがなかったからなんですね!」
「なっ……」
そんな訳がっ……!
そんな……
そう……なのか?
「むうう……そんなはずは……」
「そういうことなら喜んで協力しますよ。ユーシア様の好きなもの、ですね?」
ほんの話題変更のつもりで振った話が妙なことになってきたぞ……
まあいい、変な物が出てきたら今度思いきり馬鹿にしてやろう。
「えーと、チータラ以外にもスルメやナッツにチーズ……」
「酒のつまみばかりだな」
「その辺はだいたい好物ですね」
「酒飲みのおっさんか」
というか、だいたい予想通りだな。
「それから良い剣や武具を見ると目を輝かせます」
「ぶれぬ奴め……」
「あ、でも犬猫とか小動物が大好きなんですよ。見かけるとすっごく幸せそうな顔になります」
小動物か……小動物のような見た目で小動物と戯れるのか……
「ああいう無邪気な姿を見ていると、ユーシア様も年頃の女の子なんだなーって」
中身はおっさんだがな。
しかし知らぬ方が良いこともあるだろう……言ったところで、信じてもらえるとも思えぬが。
い、いや、別に勇者への贈り物を用意する必要などないのだ!
「む、そこにいるのは……」
と、城の廊下を歩く見覚えのある後ろ姿に気づき、呼び止めた。
成人男子にしてはやや小柄だが鍛えられた肉体がよくわかる、跳ねた茶髪の青年は、
「ファイ」
「あっ、マオルーグさん」
「勇者は一緒ではないのか?」
前世でも今世でも勇者を守る戦士のファイ・シルト。
いつもべったりくっついている護衛が、我もいないのに一人とは珍しいな。
「ユーシア様ならお部屋にいます。ただ、しばらくはお一人になりたいそうで……」
「……そうか」
勇者も今は年頃の女子、そういう時もあるか……中身はおっさんだが。
「マオルーグさんは今日はお休みでしたね。何か良いことありましたか?」
「良いこと……?」
そう言われて今日という一日を脳内で振り返る。
「むう……良い、こと……ぐぬう……」
「あっ、な、なんかすみません!」
「い、いや、いい」
特に前半、びっくりするほど良いことがなかった。
疲れてばかりの休暇だったな……これならまだいつもどおり護衛として勇者と過ごしていた方が、
(いや待て、今我は何を考えた……?)
この我が、魔王である我が、宿敵である勇者との生活に安らぎを覚えている、だと……?
「そんなはずはなぁいっ!」
「ひえ!? な、何がですか?」
む、しまった動揺のあまり声に出してしまっていた。
なんでもないと咳払いで誤魔化して、話題を変えよう。
「……ファイは勇者との付き合いが長いのだったな」
「え? あ、はい」
「その……勇者は何が好きなのだ?」
一瞬の間、妙な沈黙。
若緑の大きな目がじっとこちらを見つめてくる。
「……何かおかしなことを聞いたか?」
「マオルーグさん、ユーシア様を喜ばせたいんですね!」
「はぁ!?」
待て、なんでそうなる!?
「ユーシア様が言っていました。誕生日に貰ったプレゼントを眺めていたらマオルーグさんが面白くなさそうにしていたと……それでてっきり、マオルーグさんも何かプレゼントが欲しくて拗ねたのかと……」
「我は子供か!」
そんな理由で不機嫌になる魔王など聞いたことがないわ!
「オレもそれはちょっと変じゃないかなって思ったんですけど、なるほど……ユーシア様を笑顔にしている物の中にマオルーグさんからのものがなかったからなんですね!」
「なっ……」
そんな訳がっ……!
そんな……
そう……なのか?
「むうう……そんなはずは……」
「そういうことなら喜んで協力しますよ。ユーシア様の好きなもの、ですね?」
ほんの話題変更のつもりで振った話が妙なことになってきたぞ……
まあいい、変な物が出てきたら今度思いきり馬鹿にしてやろう。
「えーと、チータラ以外にもスルメやナッツにチーズ……」
「酒のつまみばかりだな」
「その辺はだいたい好物ですね」
「酒飲みのおっさんか」
というか、だいたい予想通りだな。
「それから良い剣や武具を見ると目を輝かせます」
「ぶれぬ奴め……」
「あ、でも犬猫とか小動物が大好きなんですよ。見かけるとすっごく幸せそうな顔になります」
小動物か……小動物のような見た目で小動物と戯れるのか……
「ああいう無邪気な姿を見ていると、ユーシア様も年頃の女の子なんだなーって」
中身はおっさんだがな。
しかし知らぬ方が良いこともあるだろう……言ったところで、信じてもらえるとも思えぬが。