それぞれの後日談

 近頃、休みを戴く回数が増えた。
 それというのもオレが仕えるユーシア様に、新しい護衛がやってきたからなんだが……個々の負担が減ったのは、素直に喜ぶべきだろう。
 なにせ花のように可憐な姫君だと名高いユーシア様の実態は、やんちゃ盛りの全力全開少年とガサツなおっさんを足して二で割ったような割らないようなものなのだから、振り回される身としては結構疲れるんだ、これが。

(手袋と靴を新調しておきたかったんだよなー。あとはユーシア様に何か……)

 きょろきょろと城下町を見回せばさまざまな露店が広げられており、なかなかの賑わいだ。
 まずは先に買うものが決まっている自分の用から済ませてしまおうか、などと考えていた時だった。

「やあ、ファイ」
「えっ?」

 妙に爽やかな声に呼び止められて振り向くと、遠目からでも眩しいキラキラ……隣国リオナットのラグード王子だ。
 スラリと長身の絵に描いたようなイケメンは、童顔気味であまり背も高くないオレと一緒に並ぶとどっちが年上かわからない。
 き、筋肉量なら負けてない、はず……!

「姫と一緒ではないところを見ると、君は休暇中かい?」
「あ、はい。ラグード王子はどうしてこちらに……?」
「……いやなに、少し気分転換がしたくてさ」
「気分転換、ですか?」

 そう言った王子は視線を彷徨わせ、言葉を濁した。
 いつもにこやか爽やかでハッキリしてるこの人にしては珍しい反応だ。

「まあ俺のことはいいとして、ファイは何を買いに来たんだ?」
「ボロボロになってきた手袋や靴を新調しようと思ったのと、あとは……ユーシア様に」

 ちら、とラグード王子の様子を窺いながら。
 隣国の王子様、うちの姫様のことどう思ってるんだろう……

「お土産かい? 彼女が好きなチータラとかスルメなら確か向こうの店に……」
「いや、それだと王子の贈り物と被っ……」
「ん?」
「……いえ」

 ユーシア様の誕生日、ラグード王子は彼女の好物をリサーチして贈っていた。
 このキラキラした隣国の王子がチータラを買う姿なんて、想像しただけで違和感凄まじいけど。
 マージェス王子は冒険小説、スカルグさんは剣……みんな、ユーシア様の好みそうなものばかりだ。

「オレは、何を贈れるんだろう……」

 つい、声に出してしまうとラグード王子がキョトンとして俺を見た。

「そんなに難しく考えなくていいんじゃないか?」
「へ?」
「たとえばファイが姫の好みを知っているならそれを贈ればいいし、彼女に似合いそうなアクセサリーを見つけたらそれでもいい。姫は可愛らしいから逆に迷いそうだけど、彼女の微笑みを思い浮かべながらだと悩む時間も楽しいよ」

 うっ、爽やかスマイルが眩しい……!
 自信に満ち溢れた王子様はやっぱ世界が違う……なんて思っていると、

「俺はファイ達が羨ましいな」
「オレが、ですか?」
「だってユーシア姫の本当の笑顔が見られるんだから」

 本当の笑顔、と言われて思い当たるのは公の場でユーシア様が頑張って作っている『姫』の顔ではない……やんちゃで、ガサツな素の表情。

「俺はああしている方が素敵だと思うけどなあ」
「振り回される方としては大変なんですよ、あれ……すぐ危険に首突っ込みたがるし……」
「ははは、心配が絶えないね」

 そうだよ、心配してばっかりだよ!
 こないだだって暴走した魔物に立ち向かったっていうし、心臓がいくつあっても……!

「あ」
「ん?」
「ユーシア様への贈り物、思いつきました!」
「それは良かった」

 そうだ、お守りを買おう。
 スカルグさんが言っていた、持ち主の身代わりになってくれる魔法のお守り。
 無茶ばっかりするユーシア様を、オレがいない時も守ってくれるように……

「そうと決まれば店に行こうか!」
「はい! えっ、ラグード王子も……?」
「ほらほら、早くしないと陽が落ちてしまうぞ!」

 王子と一緒に買い物なんて、実質これ護衛の仕事なのでは……?
 そんな事を考えながら引っ張られていったオレは、やはりというかなんというか、手袋と靴を買い忘れてしまうのだった。
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