それぞれの後日談
我が国リンネの姫様は、少々変わっている。
……いや、多くの民の前では普通に姫らしくあろうと振る舞ってはいるのだが……
「スカルグぅー! 剣の相手してくれよ!」
何故か一部の者の前では男……それも、騎士団にいる同僚達のような粗野な言動に変わる。
先日も騎士にチータラを可愛らしくねだり、陰で「たまらねーなぁ!」などと言いながらかじりついていた。
一応未成年のはずなのだが、あの時はチータラの脇にジョッキに注がれた麦酒を幻視してしまった。
「ファイやマオルーグ殿には言ってあるのですか?」
「ファイは別の用で出かけてるよ。マオはスカルグになら任せても問題ないだろうって」
ああ、またそうやって一番反対するだろうファイの外出中を狙って……
そしてまだ出会って間もないはずのマオルーグ殿の、私に対するその信頼は一体何なのだ。
いや、それ自体は嬉しいと思うのだが……何か体よく押しつけられた気がする。
「剣ならそれこそマオルーグ殿に……」
「しょっちゅう付き合ってもらってるよ。ただ、同じ奴とばかりやるよりも……な」
そう言って姫様が抜いた剣は、先日私が差し上げたもの。
鏡のように曇りなく磨かれた魔法金属の刀身が、美しく輝く。
「その剣は……」
「おう、お前の言葉どおり軽くて扱いやすいな」
「あ、いえ……とても丹念に手入れをして戴いて、驚いたというか……」
手入れをしたのは護衛のファイかマオルーグ殿だろうか、などと考えていると、
「そりゃあ、剣は戦士の命を守る大事な相棒だからな」
剣に視線を落とす姫様の表情に、直感で彼女自らの手によるものなのだと思った。
花のようだとか小さくて愛らしいとか、そんな評判の姫様だが……不思議なことに、凛とした、戦士の誇りのようなものを時折彼女から感じられる。
「やはり貴方には剣が似合う……」
「え、マジで?」
「あ……ファイには内緒ですよ、私がそんなこと言ったなんて」
どうしてだろう、剣を手にした姫様を見ていると胸が高鳴るのは。
……強くなった彼女と刃を交えてみたい、と思うのは。
いつか来るかもしれない未来に思いを馳せていると、姫様がじっとこちらを凝視していたことに気づく。
「……スカルグ」
「はい?」
「お前、そんな顔もできるんだな」
「えっ、なんですか? いま変な顔してました!?」
「……いや、いい」
もしかして、考えが顔に出てしまったのだろうか?
慌てて頬に手をやっても自分がどんな表情だったかなどわかるはずもなく。
呆れたように笑う姫様が「じゃあ、始めるか!」と剣を構え、私の思考はそこで中断されてしまった。
……いや、多くの民の前では普通に姫らしくあろうと振る舞ってはいるのだが……
「スカルグぅー! 剣の相手してくれよ!」
何故か一部の者の前では男……それも、騎士団にいる同僚達のような粗野な言動に変わる。
先日も騎士にチータラを可愛らしくねだり、陰で「たまらねーなぁ!」などと言いながらかじりついていた。
一応未成年のはずなのだが、あの時はチータラの脇にジョッキに注がれた麦酒を幻視してしまった。
「ファイやマオルーグ殿には言ってあるのですか?」
「ファイは別の用で出かけてるよ。マオはスカルグになら任せても問題ないだろうって」
ああ、またそうやって一番反対するだろうファイの外出中を狙って……
そしてまだ出会って間もないはずのマオルーグ殿の、私に対するその信頼は一体何なのだ。
いや、それ自体は嬉しいと思うのだが……何か体よく押しつけられた気がする。
「剣ならそれこそマオルーグ殿に……」
「しょっちゅう付き合ってもらってるよ。ただ、同じ奴とばかりやるよりも……な」
そう言って姫様が抜いた剣は、先日私が差し上げたもの。
鏡のように曇りなく磨かれた魔法金属の刀身が、美しく輝く。
「その剣は……」
「おう、お前の言葉どおり軽くて扱いやすいな」
「あ、いえ……とても丹念に手入れをして戴いて、驚いたというか……」
手入れをしたのは護衛のファイかマオルーグ殿だろうか、などと考えていると、
「そりゃあ、剣は戦士の命を守る大事な相棒だからな」
剣に視線を落とす姫様の表情に、直感で彼女自らの手によるものなのだと思った。
花のようだとか小さくて愛らしいとか、そんな評判の姫様だが……不思議なことに、凛とした、戦士の誇りのようなものを時折彼女から感じられる。
「やはり貴方には剣が似合う……」
「え、マジで?」
「あ……ファイには内緒ですよ、私がそんなこと言ったなんて」
どうしてだろう、剣を手にした姫様を見ていると胸が高鳴るのは。
……強くなった彼女と刃を交えてみたい、と思うのは。
いつか来るかもしれない未来に思いを馳せていると、姫様がじっとこちらを凝視していたことに気づく。
「……スカルグ」
「はい?」
「お前、そんな顔もできるんだな」
「えっ、なんですか? いま変な顔してました!?」
「……いや、いい」
もしかして、考えが顔に出てしまったのだろうか?
慌てて頬に手をやっても自分がどんな表情だったかなどわかるはずもなく。
呆れたように笑う姫様が「じゃあ、始めるか!」と剣を構え、私の思考はそこで中断されてしまった。