それぞれの後日談

 いくつかの国に囲まれた小国、リンネ。
 そこには先日十七歳の誕生日を迎えたばかりの、花のようなお姫様がいました。
 珊瑚色の長い髪を高く束ねた小柄な少女、ユーシア……一見すると普通のお姫様に見える彼女には秘密が。

 彼女の前世はなんと、魔王を倒し世界を救った伝説の勇者だったのです。

……なんて言ってもこの平和な世界じゃただの中身おっさんな女子だけどな。

「勇者……我は何度も何度も言ったはずだぞ……?」

 俺の前世を唯一知っているのが、かつて俺が倒した魔王の生まれ変わりの傭兵、マオルーグ。
 なんやかんやで護衛になった今は用事で俺の部屋に来ることもあるのだが、

「寝転がってチータラをかじりながら本を読むな! おっさんか!」
「おっさんだし。自分の部屋でくらい気ぃ抜きたいじゃーん」
「しかも脚をばたつかせながらとは……み、見えているではないか!」

 いい加減慣れろよ、この若さ弾ける瑞々しい美少女の脚線美チラリズムに。
 真っ赤になりながらも指の隙間からしっかり見ているあたり、アンタもスキねぇ……なんつって。

「気品溢れる魔王様と違って勇者っつっても実際野宿しながら旅してきた身だからな。十七年経ってもやっぱお姫様暮らしにゃ慣れねーんだよ」

 まだまだこっちの人生の方が短いからな、と付け足して。

「なんで俺はこんな可憐な美少女プリンセスなんだろうな?」
「何も知らない奴からすればとんでもなくアレな発言だな貴様」

 記憶が戻ったのは最近とはいえユーシアは紛れもなく自分なんだけど、どこか客観視しているおっさんもいる訳で……エラい誤解をされかねないからこんなことマオたんの前ぐらいでしか言えないけどな。

「我とて同様だ。強大な力をもつ魔王としての記憶を持ちながらただの人間に……」

 お、なんか憂いちゃってる感じか?

「……チラつく影も魅力的なクールでニヒルなナイスガイになるとはな」
「マオたん、ちょっと顔赤いぞ」

 自分で言って照れるな照れるな。

 まあとにかく、元勇者のおっさんが転生した姫の周りでは、そんな感じの日常が繰り広げられている。
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