ジェノワーズとシュゼット

 追いつきたい背中がある。

 孤児院の中でも悪ガキだった俺は、城下町の治安を守るエラーい騎士様にもよく迷惑をかけていた。
 頭ごなしに叱られても反抗心が生まれるだけで、ますます無鉄砲になっていって……

 そんな時に出会ったのが、ひとりの女騎士。

 そいつは俺を厄介がるでも、ありがたいお説教を垂れるでもなく、ただ「かかってこい」と俺に言った。
 孤児院の先生や町の人達にあたるくらいなら、自分が受け止めてやる、と。

 女だからってナメてた俺は……きっちり手加減された上で、コテンパンにされた。
 またいつでも相手してやると言われたから、その後も何度も挑んでは、ものの見事に全戦全敗。

 追いかけて、追いかけても笑ってすり抜けていく背中に、いつしか夢中になって……気づいたら、悪さをしなくなっていた。

 大人になった俺は騎士団の門を叩いた。

 いつの間にか背丈を追い越したあいつはよく見ると小柄で、頼りなく見える。
 お姉ちゃんからおばちゃんに変わった一人称、それでも笑顔はとびきりかわいくて。

 いつか隣に並び立てる騎士になったら、俺があいつを守るんだ。

……プロポーズは、その後に。

 覚悟しておけよ、おばちゃん。
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