その他SS
よくある勇者物語のクライマックス。
激戦の末、勇者の剣が深々と魔王の胸を差し貫き、ついに魔王が倒された。
敵味方双方に多大な犠牲を出した戦いの終結は、ほろ苦いながらも世界に平和をもたらし……――。
「はっ!?」
魔王は目覚めた。
長い長い夢から。永遠となるはずの眠りから、何故か自室のベッドにて。
確かに自分は死んだはずと、両手を握っては開き、額にあて、そのまま全身を確かめて……
よくよく見ればその手も心なしか瑞々しく、部屋の家具の配置も最後に見た時と明らかに違うではないか。
起こしに来た側近も、やはり若い。おそるおそる今は何年だろうか、日付はいつかと尋ねてみれば、心配そうな表情で五年ほど昔の日付を返された。
(今までのが夢でないとすれば、時間が巻き戻った……のか?)
何ならまだ魔王として何の行動も起こしていない、世界の均衡が保たれていた頃だ。
「まだ幼い勇者を生まれ育った町ごと葬り去ることも可能……か」
自らの死を回避して、人間界を手中におさめることも容易いではないか。
そういったものは本来死ぬべきではなかった善なる者の特権だと思っていたが、まさか自分がそうなるとは……
思わず込み上げてくる笑みと高揚感に身を任せていた魔王を、側近がまた不安げに覗き込んだ。
「そうと決まれば勇者の故郷へ私自ら赴いてやろう!」
魔王は人間の成人男性に姿を変え、旅人のふりをしてこっそりと町を訪れた。
勇者は特徴的な、爽やかな青空を映したような色の髪と瞳をしていたから、幼い姿でもすぐにわかるはずだ、と。
「なるほど、ちっぽけな町だ。ここなら勇者もすぐに見つかるだろう……ククク」
「おっさん、迷子?」
「!」
突然背後を取られた魔王は、一瞬小さく飛び上がる。
魔王のマントを掴む青髪青目のその子供こそ、宿敵である勇者その人だった。
(えええ気づかなかっ……い、いや、きっと弱すぎて気配も感じ取れぬほどだからに違いない!)
魔王は動揺を咳払いで押し込め、長身を屈めて勇者に笑いかけた。
「お、お前が勇者か?」
「ユーシャ? なんだそれ? ていうかおっさんだれ?」
「私は魔……いや、モリオンだ。旅の途中で立ち寄ってな」
「そっか。おれはアウィン。いつか父ちゃんみたいにすっげー強くなる未来の大剣士さ!」
ああ、知っているとも。その剣で刺されてきたばかりだしな。
魔王……モリオンはその言葉をぐっと飲み込み、未来の勇者アウィンの頭上に手を翳した。
(早々に出鼻を挫いて悪いな。これも世界が私を選んだ“運命”なのだ……)
アウィンはきょとんと目を瞬かせるが、すぐに満面の笑顔を見せる。
「なんだよ、おっさんもおれの頭を撫でてくれるのか? わかるぜ、おれ可愛いもんな!」
「なっ!?」
「いやぁ、出会ったばかりのおっさんにもおれのミリョクがわかっちまうかぁ。おれってばマショーのオトコだぜぇ」
な、なんだこの自己肯定感高男は!?
魔王が知る“勇者”は寡黙でストイックで、強くなること、魔王を倒すことのみ考えて生きてきたような……少なくとも、敵として対峙した時にそんな印象を受けたものだった。
それが子供とはいえ、ふにゃふにゃニヤけた面で足元をうろつき、撫でて褒めてと催促する姿に驚きを隠せない。
「あ、一回百ゼニカね」
「しかも金取るのか!?」
自分はこんな男に……人知れず、魔王の精神に百のダメージが入った。
このままではこの子供のペースに巻き込まれてしまう。モリオンは慌ててアウィンのそばを離れ、回れ右をする。
「きょ、今日のところは見逃してやろう。覚えていろ!」
「お、おっさん?」
そこからはあっという間で、呼び止める間もなくモリオンは町の外へ走り去ってしまった。
「行っちまった……初回は五十ゼニカにまけておけば良かったかあ?」
魔王は知る由もなかった。
巻き戻る前のこの日、過去の自分は戯れに小さな町をひとつ魔物に襲わせ滅ぼしていたことを。
「なんという子供だ……まったく、親の顔が見てみたいわ!」
そのアウィンの両親も、魔物の襲撃からアウィンをかばって命を落としてしまうこと……それこそが、アウィンが勇者のチカラに目覚めたきっかけだったということを。
そう遠くない未来、そんな彼らと賑やかながら微笑ましい家族ぐるみの付き合いに巻き込まれてしまうことも。
ずれて、外れて、変わっていく。関係も、心も、未来も。
巻き戻り魔王のやり直し人生のコースアウトは、まだ始まったばかり――。
激戦の末、勇者の剣が深々と魔王の胸を差し貫き、ついに魔王が倒された。
敵味方双方に多大な犠牲を出した戦いの終結は、ほろ苦いながらも世界に平和をもたらし……――。
「はっ!?」
魔王は目覚めた。
長い長い夢から。永遠となるはずの眠りから、何故か自室のベッドにて。
確かに自分は死んだはずと、両手を握っては開き、額にあて、そのまま全身を確かめて……
よくよく見ればその手も心なしか瑞々しく、部屋の家具の配置も最後に見た時と明らかに違うではないか。
起こしに来た側近も、やはり若い。おそるおそる今は何年だろうか、日付はいつかと尋ねてみれば、心配そうな表情で五年ほど昔の日付を返された。
(今までのが夢でないとすれば、時間が巻き戻った……のか?)
何ならまだ魔王として何の行動も起こしていない、世界の均衡が保たれていた頃だ。
「まだ幼い勇者を生まれ育った町ごと葬り去ることも可能……か」
自らの死を回避して、人間界を手中におさめることも容易いではないか。
そういったものは本来死ぬべきではなかった善なる者の特権だと思っていたが、まさか自分がそうなるとは……
思わず込み上げてくる笑みと高揚感に身を任せていた魔王を、側近がまた不安げに覗き込んだ。
「そうと決まれば勇者の故郷へ私自ら赴いてやろう!」
魔王は人間の成人男性に姿を変え、旅人のふりをしてこっそりと町を訪れた。
勇者は特徴的な、爽やかな青空を映したような色の髪と瞳をしていたから、幼い姿でもすぐにわかるはずだ、と。
「なるほど、ちっぽけな町だ。ここなら勇者もすぐに見つかるだろう……ククク」
「おっさん、迷子?」
「!」
突然背後を取られた魔王は、一瞬小さく飛び上がる。
魔王のマントを掴む青髪青目のその子供こそ、宿敵である勇者その人だった。
(えええ気づかなかっ……い、いや、きっと弱すぎて気配も感じ取れぬほどだからに違いない!)
魔王は動揺を咳払いで押し込め、長身を屈めて勇者に笑いかけた。
「お、お前が勇者か?」
「ユーシャ? なんだそれ? ていうかおっさんだれ?」
「私は魔……いや、モリオンだ。旅の途中で立ち寄ってな」
「そっか。おれはアウィン。いつか父ちゃんみたいにすっげー強くなる未来の大剣士さ!」
ああ、知っているとも。その剣で刺されてきたばかりだしな。
魔王……モリオンはその言葉をぐっと飲み込み、未来の勇者アウィンの頭上に手を翳した。
(早々に出鼻を挫いて悪いな。これも世界が私を選んだ“運命”なのだ……)
アウィンはきょとんと目を瞬かせるが、すぐに満面の笑顔を見せる。
「なんだよ、おっさんもおれの頭を撫でてくれるのか? わかるぜ、おれ可愛いもんな!」
「なっ!?」
「いやぁ、出会ったばかりのおっさんにもおれのミリョクがわかっちまうかぁ。おれってばマショーのオトコだぜぇ」
な、なんだこの自己肯定感高男は!?
魔王が知る“勇者”は寡黙でストイックで、強くなること、魔王を倒すことのみ考えて生きてきたような……少なくとも、敵として対峙した時にそんな印象を受けたものだった。
それが子供とはいえ、ふにゃふにゃニヤけた面で足元をうろつき、撫でて褒めてと催促する姿に驚きを隠せない。
「あ、一回百ゼニカね」
「しかも金取るのか!?」
自分はこんな男に……人知れず、魔王の精神に百のダメージが入った。
このままではこの子供のペースに巻き込まれてしまう。モリオンは慌ててアウィンのそばを離れ、回れ右をする。
「きょ、今日のところは見逃してやろう。覚えていろ!」
「お、おっさん?」
そこからはあっという間で、呼び止める間もなくモリオンは町の外へ走り去ってしまった。
「行っちまった……初回は五十ゼニカにまけておけば良かったかあ?」
魔王は知る由もなかった。
巻き戻る前のこの日、過去の自分は戯れに小さな町をひとつ魔物に襲わせ滅ぼしていたことを。
「なんという子供だ……まったく、親の顔が見てみたいわ!」
そのアウィンの両親も、魔物の襲撃からアウィンをかばって命を落としてしまうこと……それこそが、アウィンが勇者のチカラに目覚めたきっかけだったということを。
そう遠くない未来、そんな彼らと賑やかながら微笑ましい家族ぐるみの付き合いに巻き込まれてしまうことも。
ずれて、外れて、変わっていく。関係も、心も、未来も。
巻き戻り魔王のやり直し人生のコースアウトは、まだ始まったばかり――。
