転生勇姫・SS
「はいマオたん、あーん」
我の隣に座って悪戯を仕掛ける子供のような愛っ……もとい、ニヤニヤと気味の悪い笑顔で、勇者が何か丸いモノを差し出してきた。
今は生まれ変わって美少女の姿だが、中身はおっさんだぞ貴様……自覚あるのか?
ひととおり呆れてから改めて勇者が手にしているモノを見る。
丸くて小さい、手のひらの上で軽く転がせそうなそれからは湯気と共になんとも食欲をそそる香りがしてくる。
ソースとマヨネーズに彩られて、さらに魚の削り節を踊らせるその物体は……
「タコ焼き、か」
「そ。屋台で売っててさ、懐かしくて買ってきた」
タッコンオクトイービル……略してタコ。
海の悪魔という異名に相応しく、うねうねした八本足にぞろりと並んだ吸盤から人々からは長らく不気味がられていた海の生き物だ。
「タコが人間に食べられるようになったのは確か、ちょうど我々が生きていた時代だったな……正直、最初に食そうと思った人間の勇気を尊敬するぞ」
「あ、それ俺ー」
「なんだと!?」
貴様そんなところでも勇者だったのか!?
驚いて開いたままの我の口にタコ焼きを放り込むと、勇者は昔話を始めた。
うむ、外皮を破ると舌の上でとろける感触、しっかりしたタコの食感、削り節の香り……タコの見た目は実は若干苦手だが、味はなかなかだ。
「いやあ、実はいろいろあって船旅が想定より長引いちまってさ……食糧が尽きて海の上で死にかけたことがあるんだよ。それで何か調達できないかと釣りをしてみたら、タコばっかりでさ」
「お、おお……」
それはなかなか凄惨な光景だったろうな……
我を倒しに来た連中とはいえ、少しばかり同情を覚えないでもない。
「タコを食ったヤツなんていなかったワケじゃん? 食ったらどうなるかなんて誰もわからなかったんだよ」
「……だろうな。それで?」
「最終的には空腹に負けて『もう魔王に会えなくてもいいや』って」
「待て待て待て待て!」
「だって空腹でひもじく死ぬか、それが毒だとしても腹を満たして死ぬかならそりゃ後者だろ! 俺は後悔のないよう生きる!」
「ぐっ、ぬっ……」
そんなところで勇者伝説が終わっていたかもしれなかったと?
いろんな意味で衝撃の事実を知ってしまった気がする……
「まあ美味かったから結果オーライ」
「我はこんな奴に倒されたのか……」
なんだか妙に自分が情けなくなった気がして項垂れると、勇者が再度タコ焼きを差し出してきた。
「まあそんな落ち込むなって。最後のいっこ、やるよ」
「む……」
いいのか、と言おうとしたが勇者の膝上に置かれた小舟のような形をした紙の器は見たところタコ焼きが十個ほど入っていたと思われる。
というか我のもとに来た時はそのくらい入っていたような……?
「夕飯が入らなくなるぞ」
「ファイみたいなこと言うなよう」
「……仕方ない、もらってやる」
「あ」
勇者の手首を掴むと、引き寄せて奪うようにタコ焼きをいただく。
……ほ、細い……少女の手首というのはこんなにも華奢なものなのか……
そんなことを考えていたら、顔に熱が集まってきた。
いや、違う。
これは……顔ではない、口の中が、喉が、焼ける!?
「最後の一個は大当たりの激辛タコ焼きー」
「ひっ、ひははぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
貴様、と叫んだつもりがまともな音にならず……
その日、リンネの城に怒りの咆哮が響き渡った。
勇者曰く「友達と一緒に食べると盛り上がるってすすめられたんだけど……」らしいが、もじもじしながら上目遣いしてもゆ、許してなどやらぬぞ……!
我の隣に座って悪戯を仕掛ける子供のような愛っ……もとい、ニヤニヤと気味の悪い笑顔で、勇者が何か丸いモノを差し出してきた。
今は生まれ変わって美少女の姿だが、中身はおっさんだぞ貴様……自覚あるのか?
ひととおり呆れてから改めて勇者が手にしているモノを見る。
丸くて小さい、手のひらの上で軽く転がせそうなそれからは湯気と共になんとも食欲をそそる香りがしてくる。
ソースとマヨネーズに彩られて、さらに魚の削り節を踊らせるその物体は……
「タコ焼き、か」
「そ。屋台で売っててさ、懐かしくて買ってきた」
タッコンオクトイービル……略してタコ。
海の悪魔という異名に相応しく、うねうねした八本足にぞろりと並んだ吸盤から人々からは長らく不気味がられていた海の生き物だ。
「タコが人間に食べられるようになったのは確か、ちょうど我々が生きていた時代だったな……正直、最初に食そうと思った人間の勇気を尊敬するぞ」
「あ、それ俺ー」
「なんだと!?」
貴様そんなところでも勇者だったのか!?
驚いて開いたままの我の口にタコ焼きを放り込むと、勇者は昔話を始めた。
うむ、外皮を破ると舌の上でとろける感触、しっかりしたタコの食感、削り節の香り……タコの見た目は実は若干苦手だが、味はなかなかだ。
「いやあ、実はいろいろあって船旅が想定より長引いちまってさ……食糧が尽きて海の上で死にかけたことがあるんだよ。それで何か調達できないかと釣りをしてみたら、タコばっかりでさ」
「お、おお……」
それはなかなか凄惨な光景だったろうな……
我を倒しに来た連中とはいえ、少しばかり同情を覚えないでもない。
「タコを食ったヤツなんていなかったワケじゃん? 食ったらどうなるかなんて誰もわからなかったんだよ」
「……だろうな。それで?」
「最終的には空腹に負けて『もう魔王に会えなくてもいいや』って」
「待て待て待て待て!」
「だって空腹でひもじく死ぬか、それが毒だとしても腹を満たして死ぬかならそりゃ後者だろ! 俺は後悔のないよう生きる!」
「ぐっ、ぬっ……」
そんなところで勇者伝説が終わっていたかもしれなかったと?
いろんな意味で衝撃の事実を知ってしまった気がする……
「まあ美味かったから結果オーライ」
「我はこんな奴に倒されたのか……」
なんだか妙に自分が情けなくなった気がして項垂れると、勇者が再度タコ焼きを差し出してきた。
「まあそんな落ち込むなって。最後のいっこ、やるよ」
「む……」
いいのか、と言おうとしたが勇者の膝上に置かれた小舟のような形をした紙の器は見たところタコ焼きが十個ほど入っていたと思われる。
というか我のもとに来た時はそのくらい入っていたような……?
「夕飯が入らなくなるぞ」
「ファイみたいなこと言うなよう」
「……仕方ない、もらってやる」
「あ」
勇者の手首を掴むと、引き寄せて奪うようにタコ焼きをいただく。
……ほ、細い……少女の手首というのはこんなにも華奢なものなのか……
そんなことを考えていたら、顔に熱が集まってきた。
いや、違う。
これは……顔ではない、口の中が、喉が、焼ける!?
「最後の一個は大当たりの激辛タコ焼きー」
「ひっ、ひははぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
貴様、と叫んだつもりがまともな音にならず……
その日、リンネの城に怒りの咆哮が響き渡った。
勇者曰く「友達と一緒に食べると盛り上がるってすすめられたんだけど……」らしいが、もじもじしながら上目遣いしてもゆ、許してなどやらぬぞ……!