その他SS
『この世界に現れたモンスターを倒すため、オイラと契約して魔法少女になってくれ!』
人間界にやってきた見習いマスコット・サブレの一世一代の申し出は、
「お断りします」
彼が見初めた少女・小鷹狩 ほまれによってあっさりと拒否されてしまった。
『えっ』
羽が生えた小さな犬のぬいぐるみみたいな動物がしゃべることに驚くよりも先に、拒否。
町一番の屋敷、小鷹狩邸にしばしの気まずい間と共に夜の静寂が訪れる。
少女のよく手入れされたストレートロングの髪が、はあ、という溜息に次いではらりと垂れた。
「だって戦うのでしょう? わたくし運動は不得手ですので……」
『ま、魔法少女になれば変身している間はメチャメチャ元気に動き回れるよ!』
「たとえそうだとしてもろくに運動したこともない人間がいきなりどう動いたらいいかなんてわかると思います? まして戦えなどと、おっしゃることが滅茶苦茶でしてよ」
『うっぐっ』
食い下がれば食い下がるほど正論を打ち返され、サブレの大きな耳がみるみる元気をなくしてしぼんでいく。
『そ、それでもオイラは君に運命を感じて来たんだ!』
「まあ、思い込みで視野が狭まっておいでですのね」
『根拠ならあるっ!』
既に半泣きのサブレは綺麗な正八面体の形をした石を取り出し、ほまれに見せつけた。
紫色の透き通ったそれは、僅かな月光にキラリと不思議なきらめきを放つ。
「その宝石は?」
『魔法少女の素養をもつ者に反応して光る、マジカルクリスタルさ。この前外でほまれを見かけた時、クリスタルが強く輝いたんだ!』
「外で? ああ、そういうことでしたら……篠森!」
マジカルクリスタルの美しさにも顔色ひとつ変えないほまれが、誰かに聞かせるようにパンパンと手を叩く。
すると床が軽快に勢い良く開き、下から一人の男が現れた。
「お呼びですか、お嬢様?」
『なんか出た!』
「まあ、そんなに驚いて……執事を見るのは初めてですの?」
『初めてだけど執事は床からタケノコみたいに生えたりしねーよ!』
喚くサブレを尻目に、執事はよっこらしょと言いながら床の穴から出てくる。
歳の頃は五十前後、鼻の下に立派なヒゲを生やした長身のダンディである。
「篠森時生 と申します。お見知りおきを」
「あら、いいのよ篠森。このストーキング不法侵入害獣をつまみ出すために呼んだのだから」
『ストーキング不法侵入害獣!?』
それなりには可愛いと思っていた自分のまさかの害獣呼ばわりに目を剥くサブレ。
ほまれの目はことごとく冷めていて、とことん壁を感じるものだった。
……と、
『あれ、クリスタルが……』
「あら」
そんなサブレを助けるように、クリスタルが眩い輝きを放つ。
それは、彼の者を戦いの運命へと誘うように……
「……これ、篠森に反応してない?」
『は? そんなバカな! だってこれはほまれにっ……』
「わたくしが外出する時は大体篠森も一緒なの。つまりはそういう事でしょう」
クリスタルをほまれに向けると光が弱まり、篠森に向けるとこれでもかと激しく輝く。
そしてもう一度ほまれに、篠森に……何度やっても、結果は同じだった。
「なんと、私めが魔法少女に……?」
「運命の人に出会えてよかったですこと」
『ウソだぁぁぁぁ!』
衝撃の事実に打ちのめされたサブレががっくりとうなだれる。
だが、次の瞬間外から人間や犬猫のものとは思えないおぞましい声と悲鳴が彼らの耳に届いた。
「この声は……モンスター、とおっしゃいましたね」
「どうやら道はひとつしかないようですな、サブレ様」
『ウェェン主導権を握るなよう! こうなったらヤケだ!』
そう、もたもたしていればモンスターによる犠牲者が出てしまう。
それを阻止するための魔法少女とマスコット……サブレにはもはや選択肢は残されていないのだ。
『シノモリ……このクリスタルに触れて。そうしたらクリスタルの力が君の身近なモノに宿って、それが変身アイテムになるから』
「承知いたしました」
篠森が言われるまま紫の宝石に触れると、石は形を失い、光となって……彼のカイゼル髭に宿った。
『なんで!?』
「恥ずかしながら、こちらは付け髭なのです……威厳を出したくて」
「篠森の顔立ちは柔和で優しいものね。わたくしは嫌いじゃないのだけれど」
『……もういい。じゃあそのままヒゲに触れて、強く念じて』
いちいち反応していたら話が進まないと判断したサブレはさっさと変身を促す。
篠森の全身が光に包まれ、キラキラをまといながら小さくなる。
ポン、ポンと小気味の良い音をさせながらパーツごとにじっくりと変わっていき、そして……
「あら、女の子になったわ」
『ヒゲおっさんのファンタジック女装とかそういう地獄は求めてないからね! 魔法の力でちょっと変えさせてもらったよ!』
そこにいたのは紫の長い髪をポニーテールにした、落ち着いた雰囲気の美少女。
そこには篠森の面影はないようだが、彼の鍛え上げられた逆三角の肉体は、豊かなバスト、キュッとくびれたウエスト、ほどよく引き締まったヒップにそれぞれ変換されたようだ。
「これが私……髭がないとどうにも恥ずかしいですなあ」
「声が変身前のままだけど」
『ぎゃあああ失敗したァァァ!』
という訳で見習いマスコットの初めての相棒となるナイスバディな魔法少女(ダンディボイス)が爆誕した。
「行くのよ篠森……いえ魔法少女セバスちゃん! 今こそ執事忍法免許皆伝の腕前と一子相伝セバスチャン神拳奥義“帝退無 ”の見せ所よ!」
『情報量が多い!』
ちなみにセバスちゃんは高いポテンシャルと必殺のカイゼルブーメランで初日から大活躍。
美少女の姿にダンディボイスというギャップがコアな人気を集めるのだが……それはまだ先の話である。
人間界にやってきた見習いマスコット・サブレの一世一代の申し出は、
「お断りします」
彼が見初めた少女・
『えっ』
羽が生えた小さな犬のぬいぐるみみたいな動物がしゃべることに驚くよりも先に、拒否。
町一番の屋敷、小鷹狩邸にしばしの気まずい間と共に夜の静寂が訪れる。
少女のよく手入れされたストレートロングの髪が、はあ、という溜息に次いではらりと垂れた。
「だって戦うのでしょう? わたくし運動は不得手ですので……」
『ま、魔法少女になれば変身している間はメチャメチャ元気に動き回れるよ!』
「たとえそうだとしてもろくに運動したこともない人間がいきなりどう動いたらいいかなんてわかると思います? まして戦えなどと、おっしゃることが滅茶苦茶でしてよ」
『うっぐっ』
食い下がれば食い下がるほど正論を打ち返され、サブレの大きな耳がみるみる元気をなくしてしぼんでいく。
『そ、それでもオイラは君に運命を感じて来たんだ!』
「まあ、思い込みで視野が狭まっておいでですのね」
『根拠ならあるっ!』
既に半泣きのサブレは綺麗な正八面体の形をした石を取り出し、ほまれに見せつけた。
紫色の透き通ったそれは、僅かな月光にキラリと不思議なきらめきを放つ。
「その宝石は?」
『魔法少女の素養をもつ者に反応して光る、マジカルクリスタルさ。この前外でほまれを見かけた時、クリスタルが強く輝いたんだ!』
「外で? ああ、そういうことでしたら……篠森!」
マジカルクリスタルの美しさにも顔色ひとつ変えないほまれが、誰かに聞かせるようにパンパンと手を叩く。
すると床が軽快に勢い良く開き、下から一人の男が現れた。
「お呼びですか、お嬢様?」
『なんか出た!』
「まあ、そんなに驚いて……執事を見るのは初めてですの?」
『初めてだけど執事は床からタケノコみたいに生えたりしねーよ!』
喚くサブレを尻目に、執事はよっこらしょと言いながら床の穴から出てくる。
歳の頃は五十前後、鼻の下に立派なヒゲを生やした長身のダンディである。
「
「あら、いいのよ篠森。このストーキング不法侵入害獣をつまみ出すために呼んだのだから」
『ストーキング不法侵入害獣!?』
それなりには可愛いと思っていた自分のまさかの害獣呼ばわりに目を剥くサブレ。
ほまれの目はことごとく冷めていて、とことん壁を感じるものだった。
……と、
『あれ、クリスタルが……』
「あら」
そんなサブレを助けるように、クリスタルが眩い輝きを放つ。
それは、彼の者を戦いの運命へと誘うように……
「……これ、篠森に反応してない?」
『は? そんなバカな! だってこれはほまれにっ……』
「わたくしが外出する時は大体篠森も一緒なの。つまりはそういう事でしょう」
クリスタルをほまれに向けると光が弱まり、篠森に向けるとこれでもかと激しく輝く。
そしてもう一度ほまれに、篠森に……何度やっても、結果は同じだった。
「なんと、私めが魔法少女に……?」
「運命の人に出会えてよかったですこと」
『ウソだぁぁぁぁ!』
衝撃の事実に打ちのめされたサブレががっくりとうなだれる。
だが、次の瞬間外から人間や犬猫のものとは思えないおぞましい声と悲鳴が彼らの耳に届いた。
「この声は……モンスター、とおっしゃいましたね」
「どうやら道はひとつしかないようですな、サブレ様」
『ウェェン主導権を握るなよう! こうなったらヤケだ!』
そう、もたもたしていればモンスターによる犠牲者が出てしまう。
それを阻止するための魔法少女とマスコット……サブレにはもはや選択肢は残されていないのだ。
『シノモリ……このクリスタルに触れて。そうしたらクリスタルの力が君の身近なモノに宿って、それが変身アイテムになるから』
「承知いたしました」
篠森が言われるまま紫の宝石に触れると、石は形を失い、光となって……彼のカイゼル髭に宿った。
『なんで!?』
「恥ずかしながら、こちらは付け髭なのです……威厳を出したくて」
「篠森の顔立ちは柔和で優しいものね。わたくしは嫌いじゃないのだけれど」
『……もういい。じゃあそのままヒゲに触れて、強く念じて』
いちいち反応していたら話が進まないと判断したサブレはさっさと変身を促す。
篠森の全身が光に包まれ、キラキラをまといながら小さくなる。
ポン、ポンと小気味の良い音をさせながらパーツごとにじっくりと変わっていき、そして……
「あら、女の子になったわ」
『ヒゲおっさんのファンタジック女装とかそういう地獄は求めてないからね! 魔法の力でちょっと変えさせてもらったよ!』
そこにいたのは紫の長い髪をポニーテールにした、落ち着いた雰囲気の美少女。
そこには篠森の面影はないようだが、彼の鍛え上げられた逆三角の肉体は、豊かなバスト、キュッとくびれたウエスト、ほどよく引き締まったヒップにそれぞれ変換されたようだ。
「これが私……髭がないとどうにも恥ずかしいですなあ」
「声が変身前のままだけど」
『ぎゃあああ失敗したァァァ!』
という訳で見習いマスコットの初めての相棒となるナイスバディな魔法少女(ダンディボイス)が爆誕した。
「行くのよ篠森……いえ魔法少女セバスちゃん! 今こそ執事忍法免許皆伝の腕前と一子相伝セバスチャン神拳奥義“
『情報量が多い!』
ちなみにセバスちゃんは高いポテンシャルと必殺のカイゼルブーメランで初日から大活躍。
美少女の姿にダンディボイスというギャップがコアな人気を集めるのだが……それはまだ先の話である。