Tales of masquerade2・SS
王都の小洒落たカフェはお昼時をやや過ぎて人の波も落ち着いてきた様子。
そんな中できょろきょろと落ち着かない俺の目当ては都会の可愛い女の子……ではなく。
「すまない、待たせたなリュナン」
「オグマさん」
今来たところですよ、と返せば嘘をつけと笑われる。
せわしなく動く後ろ姿を見られていたのだろうと思うと、少し恥ずかしくなった。
「騎士団は忙しいでしょう? 俺みたいな暇人、少しくらい待たせても仕方ありませんって」
事実、最近は一度は減った魔物……の中でも特別厄介な“災厄の眷属”の数が増えてきている。
近場の魔物退治や護衛、各地に人員を派遣したりと騎士団の仕事も大変なはずだ。
怪我人も出ているんだろうな……と俺は少し疲れが見えるオグマさんの顔を見上げた。
「甘いものでも食べましょ。店員さん、すいませーん!」
「ああ、ありがとう」
近くにいた可愛らしい制服の店員さんを呼ぶと、俺は手早く注文して彼女に笑いかける。
一礼して小走りで遠ざかる後ろ姿に手を振り、再び向かい側に座るオグマさんに視線を戻した。
(あの子、オグマさんをちらちら見てたなあ……わかる。自覚ないけど五十過ぎてるとは思えない美形だもんなあこの人)
二十年前に世界を救った英雄、独身で見目も整っていて、おまけに騎士団の隊長さんともなれば熱い視線を注がれることもしばしば。
事実、この人がカフェに来てから明らかに周りの女子の目の色が変わった。
騎士団所属じゃないけど一応俺も二十年前の旅の仲間なんですけどね……俺さっきからいたんですけどね……
そんなことを思われているなんて欠片も想像していないだろうオグマさんが不思議そうに首を傾げる。
「リュナン?」
「ああ、なんでもありません。それより本題に入りましょう」
「そうだな」
俺がこんな場違いな王都のカフェなんかに来たのは、この人からの手紙を受け取ったから。
仲間とはいえ、外部の人間に騎士団の任務を手伝ってほしいだなんて……
「やっぱ人手不足なんですか?」
「まあな……ガトー殿の腕輪があるとはいえ、あの魔物とまともにやりあえるのは騎士団でも隊長クラスだ」
災厄の眷属と呼ばれる魔物は通常のそれとは違い、ただ攻撃するだけじゃ倒せない……言ってしまえばまさしく“殺しても死なない”ってヤツだ。
大精霊と契約している俺たちはその加護で魔物を浄化、消滅させることができる。
後に数に対抗するため、契約者ほどではないけど浄化の力を得ることができる腕輪を、ものすんごい名工が作ってくれたのだ。
……それでも。
「こうも各地に出てこられると、人手も足りなくなる……頭が痛い話だ」
「若い世代はそもそもあの魔物の恐ろしさを知らないから、ちょっと頼りないですしね」
災厄の眷属はそもそも俺たちが二十年前に倒した“総てに餓えし者”が生み出した魔物だ。
当然、今の若い騎士が当時を知っているはずもない。
「だから俺が呼ばれたんでしょ? ま、一番フリーですからね」
当時の仲間で王都にいる人を除くと、家庭もなくこれといった責任が生じる立場もない、ただの傭兵やってる俺が一番身軽だ。
「……すまない。なんだか気軽に呼びつけてしまって」
「むしろ気軽に呼んでくださいよ。貴方に頼られるの、俺嬉しいんですから」
いつでも張り切って駆けつけますよー、なんて笑ってみせて。
そうこうしているうちに店員さんが紅茶とコーヒー、それにふかふかのパンケーキを運んできてテーブルに置いてくれた。
ふわ、とバターの香りが空気を和らげる。
「おっ、来た来た。ほら旦那、食べて食べて!」
「リュナンが頼んだのではないのか?」
「お疲れみたいだったから一緒にどうかと思って。はんぶんこならちょうどいいでしょ?」
先に店員さんに耳打ちしておいたからフォークもふたつある。
食べやすいようさっさと切り分けてトロリとしたシロップをかけて、さあどうぞと差し出せば、遠慮がちだったオグマさんも俺に押されて恐る恐るひと切れ、口に運ぶ。
「甘い……染み渡るな……」
甘味に蕩かされて目尻がとろんと下がり、安堵にほうと一息吐いて微笑んだ。
「でしょう?」
「ふふ、ありがとう」
多少なりとも疲れを和らげたようで良かった、なんて思う反面、
(……今、周りの視線が一瞬にしてオグマさんに集まったような……)
聞き間違いでなければ小さく歓声もあがったような。
当のオグマさんはというと、パンケーキを味わいながらほわほわと幸せそうな笑顔を浮かべていた。
そんな中できょろきょろと落ち着かない俺の目当ては都会の可愛い女の子……ではなく。
「すまない、待たせたなリュナン」
「オグマさん」
今来たところですよ、と返せば嘘をつけと笑われる。
せわしなく動く後ろ姿を見られていたのだろうと思うと、少し恥ずかしくなった。
「騎士団は忙しいでしょう? 俺みたいな暇人、少しくらい待たせても仕方ありませんって」
事実、最近は一度は減った魔物……の中でも特別厄介な“災厄の眷属”の数が増えてきている。
近場の魔物退治や護衛、各地に人員を派遣したりと騎士団の仕事も大変なはずだ。
怪我人も出ているんだろうな……と俺は少し疲れが見えるオグマさんの顔を見上げた。
「甘いものでも食べましょ。店員さん、すいませーん!」
「ああ、ありがとう」
近くにいた可愛らしい制服の店員さんを呼ぶと、俺は手早く注文して彼女に笑いかける。
一礼して小走りで遠ざかる後ろ姿に手を振り、再び向かい側に座るオグマさんに視線を戻した。
(あの子、オグマさんをちらちら見てたなあ……わかる。自覚ないけど五十過ぎてるとは思えない美形だもんなあこの人)
二十年前に世界を救った英雄、独身で見目も整っていて、おまけに騎士団の隊長さんともなれば熱い視線を注がれることもしばしば。
事実、この人がカフェに来てから明らかに周りの女子の目の色が変わった。
騎士団所属じゃないけど一応俺も二十年前の旅の仲間なんですけどね……俺さっきからいたんですけどね……
そんなことを思われているなんて欠片も想像していないだろうオグマさんが不思議そうに首を傾げる。
「リュナン?」
「ああ、なんでもありません。それより本題に入りましょう」
「そうだな」
俺がこんな場違いな王都のカフェなんかに来たのは、この人からの手紙を受け取ったから。
仲間とはいえ、外部の人間に騎士団の任務を手伝ってほしいだなんて……
「やっぱ人手不足なんですか?」
「まあな……ガトー殿の腕輪があるとはいえ、あの魔物とまともにやりあえるのは騎士団でも隊長クラスだ」
災厄の眷属と呼ばれる魔物は通常のそれとは違い、ただ攻撃するだけじゃ倒せない……言ってしまえばまさしく“殺しても死なない”ってヤツだ。
大精霊と契約している俺たちはその加護で魔物を浄化、消滅させることができる。
後に数に対抗するため、契約者ほどではないけど浄化の力を得ることができる腕輪を、ものすんごい名工が作ってくれたのだ。
……それでも。
「こうも各地に出てこられると、人手も足りなくなる……頭が痛い話だ」
「若い世代はそもそもあの魔物の恐ろしさを知らないから、ちょっと頼りないですしね」
災厄の眷属はそもそも俺たちが二十年前に倒した“総てに餓えし者”が生み出した魔物だ。
当然、今の若い騎士が当時を知っているはずもない。
「だから俺が呼ばれたんでしょ? ま、一番フリーですからね」
当時の仲間で王都にいる人を除くと、家庭もなくこれといった責任が生じる立場もない、ただの傭兵やってる俺が一番身軽だ。
「……すまない。なんだか気軽に呼びつけてしまって」
「むしろ気軽に呼んでくださいよ。貴方に頼られるの、俺嬉しいんですから」
いつでも張り切って駆けつけますよー、なんて笑ってみせて。
そうこうしているうちに店員さんが紅茶とコーヒー、それにふかふかのパンケーキを運んできてテーブルに置いてくれた。
ふわ、とバターの香りが空気を和らげる。
「おっ、来た来た。ほら旦那、食べて食べて!」
「リュナンが頼んだのではないのか?」
「お疲れみたいだったから一緒にどうかと思って。はんぶんこならちょうどいいでしょ?」
先に店員さんに耳打ちしておいたからフォークもふたつある。
食べやすいようさっさと切り分けてトロリとしたシロップをかけて、さあどうぞと差し出せば、遠慮がちだったオグマさんも俺に押されて恐る恐るひと切れ、口に運ぶ。
「甘い……染み渡るな……」
甘味に蕩かされて目尻がとろんと下がり、安堵にほうと一息吐いて微笑んだ。
「でしょう?」
「ふふ、ありがとう」
多少なりとも疲れを和らげたようで良かった、なんて思う反面、
(……今、周りの視線が一瞬にしてオグマさんに集まったような……)
聞き間違いでなければ小さく歓声もあがったような。
当のオグマさんはというと、パンケーキを味わいながらほわほわと幸せそうな笑顔を浮かべていた。