月下氷華
「帰る方法が見つかったぞ」
ロキシーの家に居候して間もなくふた月が経とうとしていたオグマの耳に、ふいにそんな情報が飛び込んできた。
「……ロキシー殿、それは本当ですか?」
「その反応、君はファングに何か吹き込まれてはいないかね?」
「あ……いや、それは、その……」
ロキシーには気をつけろ、悪い奴じゃないがうっかり丸ごと信じるといいように弄ばれるぞ。
まさしくそんなことをファングから聞かされていたオグマは困り笑いで視線を彷徨わせる。
「……まあいい。実は君がこの世界に来たのは、満月の近辺だった。月からは魔力の光が降り注ぐのだが、その満ち欠けで量や質は変わってくる」
「その光が最も強くなる満月に、何か大きな影響が出る……と?」
うむ、とロキシーは頷いて見せた。
「実は私の友人と共に何度か君が発見された場所に行ってみたのだ。そうしたら、空間に奇妙な裂け目ができていてな。実際は満月の次の夜だったが……月の魔力を集めた次の日、ということだろうか」
「空間の、裂け目……」
「思い切って飛び込んでみたら、こことは明らかに異なる文明や種族が存在する世界があった」
しばらく話を聞いていたオグマだったが、ふと引っ掛かる箇所に顔を上げる。
「ま、待ってください……まさかロキシー殿、そんな得体の知れないものに飛び込んだのですか!?」
「自分の目で確かめねばどうやって調べるのかね? そのための同行者だ。私が無事に帰れるか、一晩待って戻らなかったら次回もう一度来るようにと」
実際は扉が開いている間は簡単に行き来できたが、と白衣の男は語る。
落ち着き払った雰囲気のこの男は、随分と大胆な行動に出るものだ……驚きに目を丸くするオグマの髪をそっと掬い、そのまま頬に触れ、ロキシーはすうっと目を細めた。
「どうしてそんな危険な真似を、とでも言いたげだな。それは私が好奇心の塊だからだ。もともと君がいた世界に興味があった……同時に、君自身にも」
「ロキシー殿……?」
冷たい指が頬を伝う感触が、やけに肌に残る。
曇天の瞳は自分の中に何を見ているのだろうか、と小さく首を傾げるオグマだったが、
「っ!」
突然、その肩がびくんと跳ね、彼は外へと飛び出した。
「どうしたのかね?」
「ファング……ファングが、呼んでいる……?」
オグマがそう言って向かった先にあるもの、そして空に昇り始めた満月を見上げたロキシーは、
「……呼んでいる、か。やはり興味深いな、君は」
口の端を上げ、意味ありげに笑うのだった。
ロキシーの家に居候して間もなくふた月が経とうとしていたオグマの耳に、ふいにそんな情報が飛び込んできた。
「……ロキシー殿、それは本当ですか?」
「その反応、君はファングに何か吹き込まれてはいないかね?」
「あ……いや、それは、その……」
ロキシーには気をつけろ、悪い奴じゃないがうっかり丸ごと信じるといいように弄ばれるぞ。
まさしくそんなことをファングから聞かされていたオグマは困り笑いで視線を彷徨わせる。
「……まあいい。実は君がこの世界に来たのは、満月の近辺だった。月からは魔力の光が降り注ぐのだが、その満ち欠けで量や質は変わってくる」
「その光が最も強くなる満月に、何か大きな影響が出る……と?」
うむ、とロキシーは頷いて見せた。
「実は私の友人と共に何度か君が発見された場所に行ってみたのだ。そうしたら、空間に奇妙な裂け目ができていてな。実際は満月の次の夜だったが……月の魔力を集めた次の日、ということだろうか」
「空間の、裂け目……」
「思い切って飛び込んでみたら、こことは明らかに異なる文明や種族が存在する世界があった」
しばらく話を聞いていたオグマだったが、ふと引っ掛かる箇所に顔を上げる。
「ま、待ってください……まさかロキシー殿、そんな得体の知れないものに飛び込んだのですか!?」
「自分の目で確かめねばどうやって調べるのかね? そのための同行者だ。私が無事に帰れるか、一晩待って戻らなかったら次回もう一度来るようにと」
実際は扉が開いている間は簡単に行き来できたが、と白衣の男は語る。
落ち着き払った雰囲気のこの男は、随分と大胆な行動に出るものだ……驚きに目を丸くするオグマの髪をそっと掬い、そのまま頬に触れ、ロキシーはすうっと目を細めた。
「どうしてそんな危険な真似を、とでも言いたげだな。それは私が好奇心の塊だからだ。もともと君がいた世界に興味があった……同時に、君自身にも」
「ロキシー殿……?」
冷たい指が頬を伝う感触が、やけに肌に残る。
曇天の瞳は自分の中に何を見ているのだろうか、と小さく首を傾げるオグマだったが、
「っ!」
突然、その肩がびくんと跳ね、彼は外へと飛び出した。
「どうしたのかね?」
「ファング……ファングが、呼んでいる……?」
オグマがそう言って向かった先にあるもの、そして空に昇り始めた満月を見上げたロキシーは、
「……呼んでいる、か。やはり興味深いな、君は」
口の端を上げ、意味ありげに笑うのだった。