ジェノワーズとシュゼット
なんだかんだで告白ついでに無理矢理漕ぎつけたデートの約束。
あの後正式に日時を決めて、職人の街フォンダンシティに行くことになった。
……なんて、実際はただの任務なんだけどさ。
騎士団長がわざわざ“二人きりで遠出をさせる”任務を俺達に出したのだ。
おまけに団長からはこっそりと「ついでに指輪のひとつも買ってやれ」と耳打ちされて。
あのオッサンはいちいち展開が早ぇんだよっ!
「ま、待ったか、シュゼット?」
「大丈夫よぉ、そんな焦って来なくても時間どおりなんだから」
待ち合わせをしたところで二人ともいつもの隊服で色気はナシ。
それでも、ふたりっきりという状況に心踊ってしまうのは許して欲しい……少しくらいは。
「な、なによう、にやにやして」
「べっつに?」
うるせーな、こちとら十年来の望みが叶ったところなんだっての!
いや、告白にオーケーはもらってないんだけど……そもそもシュゼットに告白すること自体、ずっと叶わない夢だと思っていたから。
と、
「……最近、黒い魔物……“災厄の眷属”があちこちに出没しているのは知ってるわね?」
地を駆ける竜が引く車……竜騎車に乗り込んだ途端、シュゼットの表情と声色が変わる。
ここから先は、俺も気を引き締めないと……任務なんだから。
「ああ。二十年前に団長達英雄が倒した“総てに餓えし者”の眷属の生き残り……置き土産みたいなやつだろ?」
「そ。ジェノア君はまだ小さかったから覚えていないだろうけど、世界中大混乱だったのよ。通常の攻撃じゃ倒せない、肉片ひとつになっても再生可能、加えて別の生物に取り憑いて操る能力……そんな厄介の塊みたいなヤツなの」
「んで、大元を倒した後しばらくかけてそいつらも退治され、姿を消した。それが今になって何故かまた暴れていると」
予習はばっちりね、よろしい、とシュゼットが微笑む。
急に意識を変えろというのも無理な話なのかもしれないけど、やっぱどこか子供扱いされてる気がする……
「俺達の任務は災厄の眷属を倒すために必要な腕輪を、職人から受け取ること。ついでにフォンダンシティの現状の調査とその報告、と」
「災厄の眷属は最近フォンダンシティにも現れたらしいからね。まさかこの腕輪がまた必要になるとはねえ……」
今、俺達の腕には同じ腕輪が輝いている。
世界的な名工が作ったというそれは、俺でもわかるくらいにすごい装飾と、不思議な力を……身につけるだけで俺自身の力を引き出してくれているのを感じた。
「すげえもんを作る職人がいるんだなあ……」
「精霊を身近に感じる、ってグラッセ隊長やフレス副団長も言っていたけどその通りね。もう一段階開いてくれる、って感覚が近いかしら」
「もう一段階、開く?」
「精霊との繋がり、繋ぐための入口みたいなものかしらね。大精霊と契約した団長やミレニアほどじゃないけど、普段よりしっかり深くまで精霊やマナを感じる補助をこの腕輪がしてくれる訳よ」
そんなシュゼットの説明に、俺は感嘆の声をあげることしかできなかった。
早々に隊長にのぼりつめるだけあって、彼女はやはり優秀な……俺なんか、足元にも及ばないほどの戦士なんだって、事あるごとに思い知らされる。
「シュゼットはすげえな……俺にはよくわかんねえ」
「やだ、単純に経験の差よぉ。それにジェノア君はあたしと違って魔術はそんな使わないでしょ?」
それだけの差……本当にそれだけなんだろうか。
いつかはシュゼットを守れるぐらい強くなるって心に誓っておきながら、その距離は遠く感じた。
「ほら、暗い顔しないの! えーと、ほら、その……」
そんな俺を見かねたシュゼットが励まそうとしたのだろうか、言いにくそうに口ごもる。
……次の瞬間。
「で……でーと、なんでしょ?」
頬を赤らめながら上目遣いでごにょごにょとそんなことを言うシュゼットに、俺の悩みも思考も弾け飛んだ。
あの後正式に日時を決めて、職人の街フォンダンシティに行くことになった。
……なんて、実際はただの任務なんだけどさ。
騎士団長がわざわざ“二人きりで遠出をさせる”任務を俺達に出したのだ。
おまけに団長からはこっそりと「ついでに指輪のひとつも買ってやれ」と耳打ちされて。
あのオッサンはいちいち展開が早ぇんだよっ!
「ま、待ったか、シュゼット?」
「大丈夫よぉ、そんな焦って来なくても時間どおりなんだから」
待ち合わせをしたところで二人ともいつもの隊服で色気はナシ。
それでも、ふたりっきりという状況に心踊ってしまうのは許して欲しい……少しくらいは。
「な、なによう、にやにやして」
「べっつに?」
うるせーな、こちとら十年来の望みが叶ったところなんだっての!
いや、告白にオーケーはもらってないんだけど……そもそもシュゼットに告白すること自体、ずっと叶わない夢だと思っていたから。
と、
「……最近、黒い魔物……“災厄の眷属”があちこちに出没しているのは知ってるわね?」
地を駆ける竜が引く車……竜騎車に乗り込んだ途端、シュゼットの表情と声色が変わる。
ここから先は、俺も気を引き締めないと……任務なんだから。
「ああ。二十年前に団長達英雄が倒した“総てに餓えし者”の眷属の生き残り……置き土産みたいなやつだろ?」
「そ。ジェノア君はまだ小さかったから覚えていないだろうけど、世界中大混乱だったのよ。通常の攻撃じゃ倒せない、肉片ひとつになっても再生可能、加えて別の生物に取り憑いて操る能力……そんな厄介の塊みたいなヤツなの」
「んで、大元を倒した後しばらくかけてそいつらも退治され、姿を消した。それが今になって何故かまた暴れていると」
予習はばっちりね、よろしい、とシュゼットが微笑む。
急に意識を変えろというのも無理な話なのかもしれないけど、やっぱどこか子供扱いされてる気がする……
「俺達の任務は災厄の眷属を倒すために必要な腕輪を、職人から受け取ること。ついでにフォンダンシティの現状の調査とその報告、と」
「災厄の眷属は最近フォンダンシティにも現れたらしいからね。まさかこの腕輪がまた必要になるとはねえ……」
今、俺達の腕には同じ腕輪が輝いている。
世界的な名工が作ったというそれは、俺でもわかるくらいにすごい装飾と、不思議な力を……身につけるだけで俺自身の力を引き出してくれているのを感じた。
「すげえもんを作る職人がいるんだなあ……」
「精霊を身近に感じる、ってグラッセ隊長やフレス副団長も言っていたけどその通りね。もう一段階開いてくれる、って感覚が近いかしら」
「もう一段階、開く?」
「精霊との繋がり、繋ぐための入口みたいなものかしらね。大精霊と契約した団長やミレニアほどじゃないけど、普段よりしっかり深くまで精霊やマナを感じる補助をこの腕輪がしてくれる訳よ」
そんなシュゼットの説明に、俺は感嘆の声をあげることしかできなかった。
早々に隊長にのぼりつめるだけあって、彼女はやはり優秀な……俺なんか、足元にも及ばないほどの戦士なんだって、事あるごとに思い知らされる。
「シュゼットはすげえな……俺にはよくわかんねえ」
「やだ、単純に経験の差よぉ。それにジェノア君はあたしと違って魔術はそんな使わないでしょ?」
それだけの差……本当にそれだけなんだろうか。
いつかはシュゼットを守れるぐらい強くなるって心に誓っておきながら、その距離は遠く感じた。
「ほら、暗い顔しないの! えーと、ほら、その……」
そんな俺を見かねたシュゼットが励まそうとしたのだろうか、言いにくそうに口ごもる。
……次の瞬間。
「で……でーと、なんでしょ?」
頬を赤らめながら上目遣いでごにょごにょとそんなことを言うシュゼットに、俺の悩みも思考も弾け飛んだ。