ジェノワーズとシュゼット
「よう、おめでとう青年」
「デュランダル騎士団長……」
賑わい始めた夜の酒場、それでもまばらに空席が残る中で敢えて俺の前の席を選んだのは、上司の騎士団長だった。
ニヤついた顔と「おめでとう」という言葉……それが意味するところは。
「……なに、変な噂でも流れてるんですか?」
俺が子供の頃から想いを拗らせていた相手で今は直属の上司である騎士、シュゼットに告白したこと。
カマかけかもと警戒しながらぼかして返すと、
「だってわかりやすいからな、お前ら」
探りを入れるまでもねえよと騎士団長は笑った。
お前“ら”……やっぱり、俺とシュゼットのことだろうな。
「んで、もうやることやったのか?」
ぶはっ、と勢いよく噎せてしまうと「うわっ汚えな」って……誰のせいだ、誰の!
「なっ、何もしてません! 告白だけです!」
「なんだ、そうなのか」
どうやら騎士団長は俺とシュゼットの変化を見て、少なくとも“何か”があったのだろうと思っただけで、その内容までは知らなかったようだ。
そんないきなり何かあるワケねーだろ!
「けど、告白ねえ……頑張ったな」
「……言い逃げしただけですけどね」
「ま、すぐ返事をくれというのもアイツにゃ無茶な話だろ。ずっとそういう話もなかったんだからな」
そういえば、と思い出したけど彼氏とか浮いた話を聞いていない……気がする。
騎士団長もそう言うってことは、俺が知らないだけではなさそうだ。
「あのシュゼットが、あれだけ可愛くてモテてないんですか?」
「お前、吹っ切れた途端にめちゃめちゃベタボレだな」
バレないように表に出してなかっただけで、シュゼットのことはものすごく可愛くて魅力的だと思っている。
小柄で丸っこい顔に大きなくりくりの目は小動物的なあれで、しかも周りは男だらけの騎士団。
昔なら普通にナンパとかされていそうだと、勝手に思っていたけど……
「んー、まあ、そういう目で見てたヤツがいないかと言えばウソになるな。それこそ十代二十代の頃は」
「!」
「んで、ちょっとお近づきになりたいと思ったヤツが他の騎士達と一緒に飲みに誘ったことがあった。ところが、だ……そこで酔っ払った客同士の喧嘩が起きた」
なんだろう、この嫌な予感がする流れは……
「シュゼットがすかさず飛び出して、見境なく暴れる大柄で血の気が多い男達をものともせず、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……大した怪我もさせずに、軽くいなして終了。ついでにどっかの誰かの淡い恋も終了」
「あー……」
「酒場側からしたら被害が最小限に抑えられてありがたい話だったけどな。殺伐とした空気が一瞬にして消し飛ぶ鮮やかな手並みは見事の一言だったし、オレも見ていて楽しかった。高い技量とあいつ自身のもつ雰囲気の成せるワザだな」
ていうかそこにいたのかよこの人。
「という訳で噂が噂を呼んで、あいつには男が寄りつかなくなった。本人はそんなことに気づいてすらいないだろうけどな」
そうしてそのまま三十代になり、あの意識ゼロの鈍感シュゼットが誕生した、と……
「……手強いぞ?」
「ははっ……承知の上で惚れてますから」
こちとら青春の全てを捧げんばかりの、年季の入った片想いだ。
何なら当たって砕けたって……そりゃあ、本当は砕けたくはないけど、行動しての結果なら受け入れる。
「いい表情だ。んじゃ、報告楽しみにしてるからな」
「完全に面白がってますよね、騎士団長……」
「おう!」
くそ、いい笑顔で言いやがって……
けど、まあ、動きだしちまったもんは止められないからな。
こうなったら、このオッサンがびっくりするくらいのとびきり良い報告をしてやろうと俺は密かに誓うのだった。
「デュランダル騎士団長……」
賑わい始めた夜の酒場、それでもまばらに空席が残る中で敢えて俺の前の席を選んだのは、上司の騎士団長だった。
ニヤついた顔と「おめでとう」という言葉……それが意味するところは。
「……なに、変な噂でも流れてるんですか?」
俺が子供の頃から想いを拗らせていた相手で今は直属の上司である騎士、シュゼットに告白したこと。
カマかけかもと警戒しながらぼかして返すと、
「だってわかりやすいからな、お前ら」
探りを入れるまでもねえよと騎士団長は笑った。
お前“ら”……やっぱり、俺とシュゼットのことだろうな。
「んで、もうやることやったのか?」
ぶはっ、と勢いよく噎せてしまうと「うわっ汚えな」って……誰のせいだ、誰の!
「なっ、何もしてません! 告白だけです!」
「なんだ、そうなのか」
どうやら騎士団長は俺とシュゼットの変化を見て、少なくとも“何か”があったのだろうと思っただけで、その内容までは知らなかったようだ。
そんないきなり何かあるワケねーだろ!
「けど、告白ねえ……頑張ったな」
「……言い逃げしただけですけどね」
「ま、すぐ返事をくれというのもアイツにゃ無茶な話だろ。ずっとそういう話もなかったんだからな」
そういえば、と思い出したけど彼氏とか浮いた話を聞いていない……気がする。
騎士団長もそう言うってことは、俺が知らないだけではなさそうだ。
「あのシュゼットが、あれだけ可愛くてモテてないんですか?」
「お前、吹っ切れた途端にめちゃめちゃベタボレだな」
バレないように表に出してなかっただけで、シュゼットのことはものすごく可愛くて魅力的だと思っている。
小柄で丸っこい顔に大きなくりくりの目は小動物的なあれで、しかも周りは男だらけの騎士団。
昔なら普通にナンパとかされていそうだと、勝手に思っていたけど……
「んー、まあ、そういう目で見てたヤツがいないかと言えばウソになるな。それこそ十代二十代の頃は」
「!」
「んで、ちょっとお近づきになりたいと思ったヤツが他の騎士達と一緒に飲みに誘ったことがあった。ところが、だ……そこで酔っ払った客同士の喧嘩が起きた」
なんだろう、この嫌な予感がする流れは……
「シュゼットがすかさず飛び出して、見境なく暴れる大柄で血の気が多い男達をものともせず、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……大した怪我もさせずに、軽くいなして終了。ついでにどっかの誰かの淡い恋も終了」
「あー……」
「酒場側からしたら被害が最小限に抑えられてありがたい話だったけどな。殺伐とした空気が一瞬にして消し飛ぶ鮮やかな手並みは見事の一言だったし、オレも見ていて楽しかった。高い技量とあいつ自身のもつ雰囲気の成せるワザだな」
ていうかそこにいたのかよこの人。
「という訳で噂が噂を呼んで、あいつには男が寄りつかなくなった。本人はそんなことに気づいてすらいないだろうけどな」
そうしてそのまま三十代になり、あの意識ゼロの鈍感シュゼットが誕生した、と……
「……手強いぞ?」
「ははっ……承知の上で惚れてますから」
こちとら青春の全てを捧げんばかりの、年季の入った片想いだ。
何なら当たって砕けたって……そりゃあ、本当は砕けたくはないけど、行動しての結果なら受け入れる。
「いい表情だ。んじゃ、報告楽しみにしてるからな」
「完全に面白がってますよね、騎士団長……」
「おう!」
くそ、いい笑顔で言いやがって……
けど、まあ、動きだしちまったもんは止められないからな。
こうなったら、このオッサンがびっくりするくらいのとびきり良い報告をしてやろうと俺は密かに誓うのだった。