Tales of masquerade2・SS

 世界を救った英雄なんて言っても、その後の生活は当たり前のように続いていく訳で。
 俺、リュナン・ヘイゼルは美女にモテモテになったり札束の風呂でドヤ顔するでもなく、平和な世界になったアラカルティアでフォンダンシティと王都を行ったり来たりしながら、平凡で平穏な暮らしをしている。

 旅に出る前の俺が聞いたらがっかりしたかもしれないが、今の俺はまあ、そんなもんだなあくらいの認識だ。



「おうリュナン、おめえ宛に手紙が来てるぞ」
「俺に?」

 住まいの定まらない生活を長年続けている俺には手紙自体が珍しいけど、そんな俺宛の手紙が俺がよく世話になっているガトーさんの工房に届くということは、

「この字、オグマさんだ……」

 几帳面そうな性格の滲む流麗で丁寧な字は誰のものかすぐにわかった。

「近々こっちに来るみたいですね。それで……」
「それで?」

 なんて書いてあるんだ、と尋ねるガトーさんに、ザッと目を通した手紙の内容を説明する。

「詳しいことは着いてからまた話すけど、騎士団の任務を手伝ってはもらえないかって」
「ほお」
「たぶん魔物退治でしょう。どういう訳か最近また災厄の眷属が現れていますからね。近くでも目撃情報があって、依頼が増えてるんですよ」

 災厄の眷属……二十年前に俺たちが倒した“総てに餓えし者”の置き土産。
 それも根気よく退治して数年後にはいなくなったはずなのに、どうして今になって現れたのか。

「あれ倒せるひと限られてるから、最近結構ドタバタしてて……」
「おめえらなら間違いねえからな」

 そう、大精霊の加護を受けた俺たちか、ガトーさんが昔作った腕輪を装備した人間……それも、ある程度は適性を高めた者でなくては、災厄の眷属を浄化して完全に消滅させることはできない。

 一時的に追い払うことくらいならできるけど、肉片ひとつから再生して人間に取り憑く能力があるからかなり危険度が高い。

 面倒な相手だなあと思っていた、けれども……

「……リュナン、おめえ口元ゆるんでんぞ?」
「ふへっ!?」

 ガトーさんに指摘されて頬に手をやると……やらなくても薄々自覚してたけど、俺はニヤけていた。

 その理由はわかってる……ちょっと、悪いことだけど。

「またオグマと一緒に戦えて、必要とされて嬉しいってか?」
「……はは、かなわないなあ。不謹慎、ですよね。でもなんか懐かしくて」

 ふらふら傭兵してる俺が騎士団に戻ったオグマさんや世界各地にいる他のみんなと一緒に戦うなんてこと、すっかりなくなってしまったから。

「ま、それだけ自信もあるってこったろ。おめえとオグマが組んだら敵はないってな」
「そうですね。ブッ飛ばしてやりますよ!」
「おう、その意気だ!」

 また、あの人と背中を預けあって戦える……高揚が自然と口角を上げさせる。

 しかしその背中をガトーさんに思いっきりばしーんとひっぱたかれた俺は、情けなくむせてしまうのだった。
1/2ページ
スキ