ジェノワーズとシュゼット

「よう、ジェノア」

 休暇中、騎士団を離れて城下町をぶらついていると上司……デュランダル騎士団長とばったり会った。

「デュランダル騎士団長」
「そういやお前も今日休みだったな。どっか行くのか?」
「いえ、特に予定は」

 そう返すと、じゃあちょっと話でもしようぜ、とそのままカフェに連れて行かれた。
 気さくで親しみやすい団長は部下からも慕われているけど、たまに強引だ……

「昼間っから男二人でカフェ、ですか……」
「別になんてことねぇよ。オグマともよく来るし」

 オグマというのは同じく騎士団で俺とは違う隊の隊長、そしてこの人とは昔の仲間……二十年前の英雄だ。
 そんな二人が揃ったカフェなんて、女子がキャーキャー言うんだろうな……オグマ隊長、団長とはまた違った線の細い美形だし。

「で、話ってなんです?」
「そりゃあもう“いつもの”だ。どうだ、最近?」

 頬杖をつき、にっこり笑顔で催促するオッサン……くそう、面白がりやがって。

「どーもこーも……」
「なんだ、進展ナシかよ。まだ律儀に、アイツより強くなってから……ってか?」

 アイツ、とは俺が騎士団の門を叩くきっかけになった奴。
 いじけた悪ガキだった俺に正面から向き合って、みんな受け止めてくれた……俺の人生を変えた女騎士だ。
 ついでに初恋もかっさらっていったんだけど、一回りほどある年齢差と小さい頃から知っているせいか完全に子供扱いされてしまっている。

「シュゼットは強いからなぁ……それだといつになるかわかんねーぞ」
「それでもっ……隣に立って、アイツを支えられる男にならないと、一緒にいてもまた助けられるだけだから……」

 そう、もうひとつの問題が……そいつ、シュゼットがめちゃめちゃ強いこと。
 騎士になって己を鍛えて、かなり強くなったつもりだけど、度々挑む手合わせでシュゼットから一本も取れていない。

「あのよぉ……ひとつだけ、アドバイスっていうかお節介するぜ」
「はい?」
「……支える、助ける役目は別に腕っ節が強くなくてもできるんだ。変な見栄張るより、自分にできることをもっと探してみな」
「俺に、できること……?」

 ていうか、それは遠回しに俺がシュゼットに勝てる日はそうそう来ないってことか……?

「あと、シュゼットはマジで鈍感だからもっと押した方がいいと思う。いっそ直球でいいんじゃねーか?」
「ちょ、直球!?」
「何想像してんだよ。好意を素直に表現してみろって話だ。どうせ意地張ってツンツンしてんだろ、お前」

 にやにやと意味深に笑うオッサンに弄ばれている自覚はありつつ、あまりにも脈がないならいっそダメ元もアリ……なのか?

「さて、本日の授業はここまで。この先どうするかはお前次第だ。励みたまえよ、若人!」
「授業って……」
「んじゃオレは待ち合わせがあるから。またな!」
「あっ、ちょっ、待っ……!」

 言うだけ言った団長はそそくさと立ち上がると素早く会計を済ませて去っていく。

……俺の分のコーヒー代も、しっかり払って。

「~っ、くそっ!」

 一体、どうすればいいんだ。

 冷めてしまったコーヒーを口元に運びながら、俺はまた悶々と考え出すのだった。
5/11ページ
スキ