ジェノワーズとシュゼット

「あっ、シュシュ!」

 シュゼット・シュトーレンだから縮めて“シュシュ”……なんて。
 そんな可愛らしい名前であたしを呼ぶのは、騎士団長の奥さんで歳が近い、友達のミレニア。
 いつもはシブーストっていう、グランマニエの端っこの村で暮らしているんだけど、たまに用事で王都にも来たりする。
 こう見えて旦那同様二十年前の英雄さんでめちゃめちゃ強い魔術師って、ほんと最強夫婦だよねぇ。

「ミレニア、来てたのね」
「みんなの顔を見にのう。シュシュは最近どうじゃ?」
「どう、って……特に変わりはないわよ。魔物は出るけど結界の中は平和そのものだし」
「そういう事じゃないんじゃがのう……」

 あれ、まただ。
……なんかヘンなこと言ったかしら?

「ああ、そうじゃ! あのイケメン小僧はどうした?」
「あー、ジェノア君? そうねぇ……」

 ジェノア君……ジェノワーズ・ノエルは元孤児院の悪ガキで大人になった今はあたしの部下だ。
 ミレニアも団長もあの子を気に入ってるのか、よくあたしに様子を聞いてくる。
 そんなに気になるなら呼んできましょーか、って言ったら止められたんだけど、なんでかしら?

「結構強くなったんじゃないの? いまだにあたしを倒すつもりでいるみたいで、付き合ってくれってよく手合わせを迫られるわよ。若いわねぇ……でもまだまだ負けてらんないわ!」
「……話題を変えるかのう。おぬし最近浮いた話はないのか? コイバナのひとつやふたつ、のう?」

 ありゃ、妙に不自然な話題転換とミレニアのあからさまな呆れ顔……どして?

「やっだあ、今更言い寄る奴なんかいないわよー!」
「気になる奴もおらん、と?」
「気になる奴?」

 はて、気になる奴ねぇ……
 
「そんな面をするようじゃ進展はなさそうじゃのー」
「は? 進展ってなんのことよ?」

 誰とも何も始まっていないわよと返せば、そのようじゃなとミレニアが笑う。

「ま、いつか恋愛相談する気になったら教えるんじゃぞ。面白がって聞いてやるからの」
「えっ、あたし相談する前提なの? どーゆーことよ!?」

 意味深な言葉を残して、他の連中に会ってくると去ってしまうミレニア。

「じゃあの、がんばるんじゃぞー」
「ちょ、待っ……」

 一度だけ振り向いたその顔は、悪戯っ子みたいな笑みを浮かべていた。

 がんばるって、何を!?

 ひとり残されたあたしには、その問いの答えはかえってこなかった。
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