転生勇姫・SS

 国ごとに由来や内容は異なるが、今日は総じて『嘘の日』である。
 カノドでは午前中に小さな嘘をつき、午後になってから騙した相手に飴を贈る日。
 リオナットで嘘の日といえば、ありえないようなばかばかしい嘘をついて互いに笑い飛ばす日だ。

 そして、リンネでは……

「マオたん大変だ! マオたんより強くて恐ろしい、新しい魔王が現れたぞ!」
「なんだと!?」

 鬼気迫るユーシア姫……勇者の言葉に一瞬乗せられかけたが、今日が何の日か思い出して冷静になる。

「……何かと思えば『嘘の日』か。ふん、驚かせおって」
「うぇー、バレるのはえぇ」
「リンネでは確か禍を騙るのだったな。何が楽しいのか、我にはわからぬ」

 と、軽くあしらおうとしたところで勇者が悪戯めいたニヤけ顔になった。

「……その様子だと、意味までは知らねーな?」
「む、なんだ?」

 こいつの護衛になる前は各地を旅する傭兵だった我は、それなりに地理や国々の文化の知識もある。
 それをわかっている勇者は、そんな我が知らずに自分が知っていることが面白くて仕方ないのだろう。

 可愛……いや、癪に障る奴め。

「リンネの『嘘の日』はなぁ……悪い嘘をついて、こいつはもう悪い目に遭ってるぞー、だからこれ以上悪い事が起きないようにしてくれよなって、そんなおまじないなんだよ」
「な……」

 それはつまり、嘘を吐く側が吐かれた側を守るということ……か?

「そうしてこれからの一年間を無事に過ごせますようにって…………マオ?」
「勇者……」

 勇者が、我を守る……だと?

「ふっ、ふざけるな! くだらぬことを言っていないで貴様は……貴様はっ!」
「わっ、なんだよそんなに怒るなよー! 悪かったってば!」

 くそう、心臓が聴いたことのない音を立てたぞ……これが会心の一撃というやつか!
 この感情は怒りだ、そうに違いない!

「だいたい今はか弱い小娘の貴様などに守られる筋合いはない! だから今から我も嘘を吐いてやる!」
「今から嘘をつくって、お前なあ……」
「…………ええい、思いつかぬ!」
「マオたん真面目だもんなー」

 この日、結局会心の嘘を返すことは叶わなかった。

 待っていろ勇者め、来年こそは必ず我が守って……いや、騙してギャフンと言わせてやるわ!
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