Tales of masquerade・SS

 名家に年頃の近い娘がいると紹介されて、父親の後ろからおずおずと顔を出した少女のことはよく覚えている。
 瑠璃色のウェーブがかった長い髪、ふわふわした淡い水色のドレス……ひと目見たその時には、彼女が自分のおよめさんになるかもしれないんだと胸が高鳴った。
 成長するにつれその可愛らしい少女は凛々しい乙女となり、髪は短く、ドレスは動きやすい騎士服に、手には剣を持つことが多くなって……

「金色の目は刃の鋭さで俺を見張るようになりましたとさ」
「訳のわからない事を仰らないで、仕事をなさってください」

 そしてその目は戦場で片方なくしている。
 彼女が選んだ道にとやかく言いたくはないけれど……

「可愛らしい声でたどたどしく『一生おそばに』って言ってくれた可愛い可愛いダクワーズはどこ行っちゃったのかなぁ?」
「なっ……昔の話を持ち出さないでください! あと可愛いって何度言うつもりですか!?」

 こうやってからかうと赤面するところは可愛い……はい、何度でも言うよ。

 まさか『一生おそばに』の意味が騎士としてだなんて、しかも実力で騎士団長にまでのぼりつめるなんて誰が思うだろうか。

 剣をとるなと言ったところで、彼女には無駄なのだろう。

 じゃあ、じゃあせめて……

(もう一度、ドレスを着てくれないかな……俺の隣でさ)

 こっそり呟いた言葉は、彼女に届くことなく儚く消えた。
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