アステル編②
魔王ノルフェーンに平和のためといきなり結婚を迫られて、お友達から始めることになった冴えない勇者アステル。
彼が魔界の中枢である魔王城で暮らすことになって、数日が経過した。
「西の大橋が老朽化しているらしいな……飛べない魔物には不便だ。急ぎ修理させよう」
「仰せのままに」
最初は突拍子もないことを言い出す変な奴だと思っていたが、この数日見ていると魔王は人間界への侵略者以前に王なのだと気付かされる。
「すごいんだなあ、魔王は……」
人間界の王様も、いきなり勇者をスマキにして生贄同然に放り出したりはしたが、見えないところではこうやって民のために動いているのかもしれない。
まあ勇者を生贄にしたのだって魔界との争いを避けるためではあるのだが、された側としてはそう簡単に納得もできないだろう。
「ただ呑気に戦いに赴くだけの勇者とは違う。今の貴様はそれすらなく、ここではニート同然だがな」
「うっ」
魔王の側近、骨仮面のスカーにそう言われて、ぐっと息を詰まらせる勇者。
実際、ここに来てからの勇者は客人としてただお世話されるだけで、何もしていないのだ。
「あっ、アステル!」
魔王ノルフェーンはこちらに気付くと嬉しそうな笑顔を見せ、ぶんぶんと手を振って駆け寄ってくる。
そして勇者の隣でじわりと殺気を漂わせる男が一名。
「魔王様の天使のような魔王スマイルがこんな男に……!」
「魔界でも天使って褒め言葉なのかな……」
アステルの控え目なツッコミなど聞こえなかったのか、スカーはノルフェーンにそっと耳打ちをした。
「お気をつけ下さい魔王様。この男、まだ子供とはいえ勇者……友人などという甘い言葉で油断してはなりません!」
「そう、か?」
内緒話どころかわざと聞かせているのかと思うほど筒抜けな会話はなおもつづく。
そして……
「そもそも勇者一族というのはやたらと性欲が強いのです!」
「「!?」」
突然飛び出した言葉に、勇者と魔王は真っ赤になって互いに見合わせる。
「なっ、えっ、何それどういう……?」
普通そこは油断したところを討たれるかもしれないとかそういう話ではないのか。
身内ながら聞いたこともない情報に、おそるおそる確認をとる勇者。
「根拠はある。勇者には後の世のため子孫を残さねばならない使命があるからな」
「いや確かにうちの親戚みんな子沢山だけど変な誇張するな!」
勇者の反論に、側近は鼻を鳴らして蔑みの視線を送る。
「誇張かどうだか。こんな無害そうな面した地味男でも一皮剥けば中身は薄い本に出てくる妙に小汚ない名もなき中年男か女騎士を前にしたオークか、といった具合かもしれん!」
「言ってることよくわかんないけど風評被害だぁぁぁぁぁ!」
「そうだぞスカー!」
あんまりな言われように魔王も加勢してくれたのかと思えば、
「うすいほんとやらが何のことかはわからんが、オーク達は穏やかな気性の持ち主だ」
「そっち!?」
フォローする方向はある意味立場的には正しいのだろうが、つっこまずにはいられなかった。
「……それもそうでしたね。まあとにかく、先代の魔王レヴォネ様を拐っていったヘリオスのせいで勇者のイメージが脳味噌下半身の変態男なのですよアハハハハ」
「叔父さんに関してはもともと節操なしだから否定はしないけど叔父さんが特別アレなだけだから!」
ここまで言われたのに身内にすら欠片もフォローされないヘリオスが一体どれほどアレなのか、彼と直接の面識はないノルフェーンは少しだけ気になったが、黙っていることにした。
「そうか……アステルは違うのだな?」
「えっ」
美女にじっと見つめられ、勇者は思わず息を飲む。
真っ白な柔肌をあちこちから覗かせる黒の衣装を纏った彼女に距離を詰められると豊かな胸の谷間が眼前まで迫り、目のやり場に困るのは仕方ないんじゃないかとアステルは思った。
「ほらコイツ顔赤いですよ魔王様! 絶対スケベなこと考えてますってこのスケベニンゲン!」
「ああああうるさいなあもう!」
鬼の首をとったように捲し立てるスカーに、はっきりとした否定は出来ない悔しさがこみ上げる勇者。
「だ、だいたい魔王もなんでそんな……大胆っていうか、露出が多いっていうか……そんな服着てるんだよ!」
「ああ、この服か?」
ノルフェーンの性格や雰囲気、趣味を見ていると、服装がそれにマッチしていないように度々思えていた。
すると彼女は己の胸元に手を置き、
「魔王たる者、衣装もそれに相応しいものを着なくてはならないと言ってスカーが用意してくれたんだ」
そう、説明した。
勇者は素早くスカーを見たがそれより早く目をそらされてしまった。
「お前の趣味かぁぁぁぁ!」
「魔王といったらマントか黒くて無駄にエロい衣装だろがァァァァァァ!」
とうとう逆ギレを見せたスカーの叫びにうっかりアステルも「わかるけど!」と言いかけたのは秘密である。
第七話『せめて魔王らしく』
―完―
彼が魔界の中枢である魔王城で暮らすことになって、数日が経過した。
「西の大橋が老朽化しているらしいな……飛べない魔物には不便だ。急ぎ修理させよう」
「仰せのままに」
最初は突拍子もないことを言い出す変な奴だと思っていたが、この数日見ていると魔王は人間界への侵略者以前に王なのだと気付かされる。
「すごいんだなあ、魔王は……」
人間界の王様も、いきなり勇者をスマキにして生贄同然に放り出したりはしたが、見えないところではこうやって民のために動いているのかもしれない。
まあ勇者を生贄にしたのだって魔界との争いを避けるためではあるのだが、された側としてはそう簡単に納得もできないだろう。
「ただ呑気に戦いに赴くだけの勇者とは違う。今の貴様はそれすらなく、ここではニート同然だがな」
「うっ」
魔王の側近、骨仮面のスカーにそう言われて、ぐっと息を詰まらせる勇者。
実際、ここに来てからの勇者は客人としてただお世話されるだけで、何もしていないのだ。
「あっ、アステル!」
魔王ノルフェーンはこちらに気付くと嬉しそうな笑顔を見せ、ぶんぶんと手を振って駆け寄ってくる。
そして勇者の隣でじわりと殺気を漂わせる男が一名。
「魔王様の天使のような魔王スマイルがこんな男に……!」
「魔界でも天使って褒め言葉なのかな……」
アステルの控え目なツッコミなど聞こえなかったのか、スカーはノルフェーンにそっと耳打ちをした。
「お気をつけ下さい魔王様。この男、まだ子供とはいえ勇者……友人などという甘い言葉で油断してはなりません!」
「そう、か?」
内緒話どころかわざと聞かせているのかと思うほど筒抜けな会話はなおもつづく。
そして……
「そもそも勇者一族というのはやたらと性欲が強いのです!」
「「!?」」
突然飛び出した言葉に、勇者と魔王は真っ赤になって互いに見合わせる。
「なっ、えっ、何それどういう……?」
普通そこは油断したところを討たれるかもしれないとかそういう話ではないのか。
身内ながら聞いたこともない情報に、おそるおそる確認をとる勇者。
「根拠はある。勇者には後の世のため子孫を残さねばならない使命があるからな」
「いや確かにうちの親戚みんな子沢山だけど変な誇張するな!」
勇者の反論に、側近は鼻を鳴らして蔑みの視線を送る。
「誇張かどうだか。こんな無害そうな面した地味男でも一皮剥けば中身は薄い本に出てくる妙に小汚ない名もなき中年男か女騎士を前にしたオークか、といった具合かもしれん!」
「言ってることよくわかんないけど風評被害だぁぁぁぁぁ!」
「そうだぞスカー!」
あんまりな言われように魔王も加勢してくれたのかと思えば、
「うすいほんとやらが何のことかはわからんが、オーク達は穏やかな気性の持ち主だ」
「そっち!?」
フォローする方向はある意味立場的には正しいのだろうが、つっこまずにはいられなかった。
「……それもそうでしたね。まあとにかく、先代の魔王レヴォネ様を拐っていったヘリオスのせいで勇者のイメージが脳味噌下半身の変態男なのですよアハハハハ」
「叔父さんに関してはもともと節操なしだから否定はしないけど叔父さんが特別アレなだけだから!」
ここまで言われたのに身内にすら欠片もフォローされないヘリオスが一体どれほどアレなのか、彼と直接の面識はないノルフェーンは少しだけ気になったが、黙っていることにした。
「そうか……アステルは違うのだな?」
「えっ」
美女にじっと見つめられ、勇者は思わず息を飲む。
真っ白な柔肌をあちこちから覗かせる黒の衣装を纏った彼女に距離を詰められると豊かな胸の谷間が眼前まで迫り、目のやり場に困るのは仕方ないんじゃないかとアステルは思った。
「ほらコイツ顔赤いですよ魔王様! 絶対スケベなこと考えてますってこのスケベニンゲン!」
「ああああうるさいなあもう!」
鬼の首をとったように捲し立てるスカーに、はっきりとした否定は出来ない悔しさがこみ上げる勇者。
「だ、だいたい魔王もなんでそんな……大胆っていうか、露出が多いっていうか……そんな服着てるんだよ!」
「ああ、この服か?」
ノルフェーンの性格や雰囲気、趣味を見ていると、服装がそれにマッチしていないように度々思えていた。
すると彼女は己の胸元に手を置き、
「魔王たる者、衣装もそれに相応しいものを着なくてはならないと言ってスカーが用意してくれたんだ」
そう、説明した。
勇者は素早くスカーを見たがそれより早く目をそらされてしまった。
「お前の趣味かぁぁぁぁ!」
「魔王といったらマントか黒くて無駄にエロい衣装だろがァァァァァァ!」
とうとう逆ギレを見せたスカーの叫びにうっかりアステルも「わかるけど!」と言いかけたのは秘密である。
第七話『せめて魔王らしく』
―完―