17~セルクル遺跡の岐路~
暑さ厳しいカソナード砂海を抜ければ、その先には砂漠と同じ色をした円形の建造物。
古びた壁の風化具合から長い年月にさらされたであろうことが誰の目にも明らかなそこは、カカオ達の目的地・セルクル遺跡であった。
「うぇぇ、やっと着いたあ……」
「情けない声を出すな。これでも砂海は昔より安全になったんだぞ」
蛙が潰されたような情けない声をあげるモカを、クローテがひと睨みする。
「そうなのか?」
「ずっと悩みの種だった、砂の中に潜んで旅人を襲う巨大な化け物が三十……この時代から二十年くらい前に倒されて、だいぶましになったのよ」
カカオの疑問には地元民であるアングレーズが答え、さらに付け加える。
「その化け物を倒したのがお母さん達なのよ。今のあたし達と同じようにパスティヤージュからセルクル遺跡に向かう途中で通ったら、いきなり砂の中から襲われて散り散りにされて大変だったって言ってたわ」
過酷な砂漠で足元からの襲撃に咄嗟に対応できる者はそういないだろう。
運が悪ければ一瞬で全てが終わっていたかもしれない……砂に足をとられる砂海でそれを実感したモカは両親含む過去の英雄達の功績に心から感謝するのだった。
「パパ、ママ、超ありがとー……」
「分断されて混乱に陥ったところを個別に、か……砂漠の魔物にゃいい狩り場だよな」
遭遇しなくて良かったぜ、とブオルも腕組みしながら同意する。
「まさか遺跡の中はそういうのいないよね?」
「さあ……そこまではちょっと聞いたことがないわ。通り道になる砂海と違ってあまりわざわざ人が立ち入らない場所だから」
アングレーズはおそるおそる尋ねるモカに、しばし考えを巡らせてからそう返す。
話しながら通ってきたやや広く何もない通路や小部屋に身を隠すような場所は見当たらないが、何らかの仕掛けがないとも言い切れない。
「遺跡と言えばやっぱり不条理な仕掛けの連続で大岩や飛び出す矢に追われながら走り回るとかだよねえ」
「冒険小説の読みすぎだ」
「実際に起きたら嫌だケド」
「当たり前だ」
もはや恒例となってきたモカとクローテの漫才じみたやりとりをよそに、メリーゼはふと視界に入った壁のヒビにそっと手を置いた。
(何かしら、ここだけ少し新しいような……)
その、瞬間。
「!」
「まずい、この場を離れろ!」
ガレとクローテ、獣の耳をもつふたりが天井を見上げ叫べば直後に大きな亀裂が走り、崩れ始める。
「うわあああ!」
ガラガラと崩落していく天井に追われ逃げこんだ先にはわかれ道があり、残念ながら僅かな時間で全員が一方の通路に決めて入ることまではできなかった。
退路が塞がれた瞬間、振り向いたカカオの目には数人の姿が見当たらず、確認できたのはクローテ、モカ、ガレの三人だけ。
「ぶえええ、びっくりしたあー!」
「メリーゼっ! おい、みんな大丈夫か!?」
瓦礫で向こう側がほぼ見えなくなったところに駆け寄り、力一杯呼び掛けると、
「こっちに三人いる! 俺とメリーゼとアングレーズだ!」
「よかった……残りはこっちにいる!」
どうにか互いの声が届き、カカオ達はほっと胸を撫で下ろす。
しかし、ほっとしたのも束の間。
「……どうしたもんかね、こりゃあ」
仲間達は分断され、退路も断たれ、目の前には奥へと続く薄暗い道のみ。
ブオルはずる、と壁にもたれかかり、大きく溜め息を吐いた。
古びた壁の風化具合から長い年月にさらされたであろうことが誰の目にも明らかなそこは、カカオ達の目的地・セルクル遺跡であった。
「うぇぇ、やっと着いたあ……」
「情けない声を出すな。これでも砂海は昔より安全になったんだぞ」
蛙が潰されたような情けない声をあげるモカを、クローテがひと睨みする。
「そうなのか?」
「ずっと悩みの種だった、砂の中に潜んで旅人を襲う巨大な化け物が三十……この時代から二十年くらい前に倒されて、だいぶましになったのよ」
カカオの疑問には地元民であるアングレーズが答え、さらに付け加える。
「その化け物を倒したのがお母さん達なのよ。今のあたし達と同じようにパスティヤージュからセルクル遺跡に向かう途中で通ったら、いきなり砂の中から襲われて散り散りにされて大変だったって言ってたわ」
過酷な砂漠で足元からの襲撃に咄嗟に対応できる者はそういないだろう。
運が悪ければ一瞬で全てが終わっていたかもしれない……砂に足をとられる砂海でそれを実感したモカは両親含む過去の英雄達の功績に心から感謝するのだった。
「パパ、ママ、超ありがとー……」
「分断されて混乱に陥ったところを個別に、か……砂漠の魔物にゃいい狩り場だよな」
遭遇しなくて良かったぜ、とブオルも腕組みしながら同意する。
「まさか遺跡の中はそういうのいないよね?」
「さあ……そこまではちょっと聞いたことがないわ。通り道になる砂海と違ってあまりわざわざ人が立ち入らない場所だから」
アングレーズはおそるおそる尋ねるモカに、しばし考えを巡らせてからそう返す。
話しながら通ってきたやや広く何もない通路や小部屋に身を隠すような場所は見当たらないが、何らかの仕掛けがないとも言い切れない。
「遺跡と言えばやっぱり不条理な仕掛けの連続で大岩や飛び出す矢に追われながら走り回るとかだよねえ」
「冒険小説の読みすぎだ」
「実際に起きたら嫌だケド」
「当たり前だ」
もはや恒例となってきたモカとクローテの漫才じみたやりとりをよそに、メリーゼはふと視界に入った壁のヒビにそっと手を置いた。
(何かしら、ここだけ少し新しいような……)
その、瞬間。
「!」
「まずい、この場を離れろ!」
ガレとクローテ、獣の耳をもつふたりが天井を見上げ叫べば直後に大きな亀裂が走り、崩れ始める。
「うわあああ!」
ガラガラと崩落していく天井に追われ逃げこんだ先にはわかれ道があり、残念ながら僅かな時間で全員が一方の通路に決めて入ることまではできなかった。
退路が塞がれた瞬間、振り向いたカカオの目には数人の姿が見当たらず、確認できたのはクローテ、モカ、ガレの三人だけ。
「ぶえええ、びっくりしたあー!」
「メリーゼっ! おい、みんな大丈夫か!?」
瓦礫で向こう側がほぼ見えなくなったところに駆け寄り、力一杯呼び掛けると、
「こっちに三人いる! 俺とメリーゼとアングレーズだ!」
「よかった……残りはこっちにいる!」
どうにか互いの声が届き、カカオ達はほっと胸を撫で下ろす。
しかし、ほっとしたのも束の間。
「……どうしたもんかね、こりゃあ」
仲間達は分断され、退路も断たれ、目の前には奥へと続く薄暗い道のみ。
ブオルはずる、と壁にもたれかかり、大きく溜め息を吐いた。