1~戦いの幕、開く~
「……わかったよ」
根負けしたガトーが、渋々と肩を落としそう言った。
「けど、ショコラに連絡くらい入れておけよ。俺があいつに報告するのなんて嫌だからな!」
「う、そうだよな……精霊通話機《マナ・フォーン》借りるぞ、じいちゃん」
精霊通話機とは、ここ十数年で普及が進んだ魔学道具で、遠くの者との会話を可能にするものだ。
二十年前の試作品である通信機は二つで一対となっていて、その互いとしか通信が出来なかったのだが、改良を重ねて生まれた精霊通話機はそれぞれに割り振られた番号さえわかればどれとでも繋がる便利な道具となっている。
ここフォンダンシティがあるのは中央大陸グランマニエだが、北大陸、クリスタリゼで暮らすカカオの両親ともこうして連絡を取り合っているのだ。
先程までの威勢はどこへやら、しどろもどろになりつつ母のショコラと話すカカオを尻目に、
「……ところで、お父様」
『なんだいメリーゼ?』
メリーゼは改めて向き直り、父である精霊を見上げた。
「今回は助かりましたけど、こっそりついて来るのやめてください」
『えぇーだってぇー』
「だってじゃない! わたしはもう子供じゃありません!」
きりっと眉を吊り上げて、切れ長の目を細めて怒る顔はどことなく母の面影。
『ダクワーズに似て美人になったからいろいろ心配なんだよう……』
「はは、時空の精霊とやらも娘にゃ形無しだなランシッド……護剣の霊晶石は隠れ蓑にちょうどいいってか」
メリーゼが、武器とは別に肌身離さず持っているお守りの短剣は、その柄に霊晶石という特殊で希少な石を飾っているものだ。
術の補助などの役割があるその石の中にランシッドは身を潜めていた。
娘に睨まれ職人に笑われた時空の精霊は、溜め息と共に項垂れる。
……と、
『そう言うガトーは、カカオを行かせて良かったの?』
「……良い訳はねえ。けど……二十年前と同じで、妙に予感がするんだよ。行かせなきゃいけねえって、な」
問われて答えたガトーの胸中は、穏やかではなかった。
精霊通話機越しに母に叱られているのか、思いっきり顔をしかめるカカオは祖父からすればまだまだ子供だ。
「いっそ俺も精霊になれれば、そうやってくっついて行けるのかもなあ」
『あはは、縁起でもないなあ』
そもそも誰もがなれる訳ではないのだが、精霊になるのは一度人としての生を終えた後の話で、それを平然と口にするガトーにランシッドが苦笑いをした。
『それに精霊も不便なことはあるよ。特になりたて新米なうちはね』
「そっか……何はともあれよろしく頼むぜ、保護者役」
『ああ……わかってるよ』
二十年前も今回も大切な家族を送り出すことになった職人の横顔は、さまざまな感情が入り交じっていて。
それを汲み取ったランシッドは彼と共に子供たちに視線を移し、静かに目を細めるのだった。
根負けしたガトーが、渋々と肩を落としそう言った。
「けど、ショコラに連絡くらい入れておけよ。俺があいつに報告するのなんて嫌だからな!」
「う、そうだよな……精霊通話機《マナ・フォーン》借りるぞ、じいちゃん」
精霊通話機とは、ここ十数年で普及が進んだ魔学道具で、遠くの者との会話を可能にするものだ。
二十年前の試作品である通信機は二つで一対となっていて、その互いとしか通信が出来なかったのだが、改良を重ねて生まれた精霊通話機はそれぞれに割り振られた番号さえわかればどれとでも繋がる便利な道具となっている。
ここフォンダンシティがあるのは中央大陸グランマニエだが、北大陸、クリスタリゼで暮らすカカオの両親ともこうして連絡を取り合っているのだ。
先程までの威勢はどこへやら、しどろもどろになりつつ母のショコラと話すカカオを尻目に、
「……ところで、お父様」
『なんだいメリーゼ?』
メリーゼは改めて向き直り、父である精霊を見上げた。
「今回は助かりましたけど、こっそりついて来るのやめてください」
『えぇーだってぇー』
「だってじゃない! わたしはもう子供じゃありません!」
きりっと眉を吊り上げて、切れ長の目を細めて怒る顔はどことなく母の面影。
『ダクワーズに似て美人になったからいろいろ心配なんだよう……』
「はは、時空の精霊とやらも娘にゃ形無しだなランシッド……護剣の霊晶石は隠れ蓑にちょうどいいってか」
メリーゼが、武器とは別に肌身離さず持っているお守りの短剣は、その柄に霊晶石という特殊で希少な石を飾っているものだ。
術の補助などの役割があるその石の中にランシッドは身を潜めていた。
娘に睨まれ職人に笑われた時空の精霊は、溜め息と共に項垂れる。
……と、
『そう言うガトーは、カカオを行かせて良かったの?』
「……良い訳はねえ。けど……二十年前と同じで、妙に予感がするんだよ。行かせなきゃいけねえって、な」
問われて答えたガトーの胸中は、穏やかではなかった。
精霊通話機越しに母に叱られているのか、思いっきり顔をしかめるカカオは祖父からすればまだまだ子供だ。
「いっそ俺も精霊になれれば、そうやってくっついて行けるのかもなあ」
『あはは、縁起でもないなあ』
そもそも誰もがなれる訳ではないのだが、精霊になるのは一度人としての生を終えた後の話で、それを平然と口にするガトーにランシッドが苦笑いをした。
『それに精霊も不便なことはあるよ。特になりたて新米なうちはね』
「そっか……何はともあれよろしく頼むぜ、保護者役」
『ああ……わかってるよ』
二十年前も今回も大切な家族を送り出すことになった職人の横顔は、さまざまな感情が入り交じっていて。
それを汲み取ったランシッドは彼と共に子供たちに視線を移し、静かに目を細めるのだった。