15~乱入者~
パスティヤージュの中央にある祠の内部を進んでいくと、夕陽がカーテンのように射し込む祭壇の部屋に辿り着いた。
「ここが、月白の祭壇……?」
『今は夕陽に染まってるけどね、満月の夜には月明かりを集めたみたいになるの』
だから月白の祭壇っていうのよ、とここの主である月光の女神がクローテに説明した。
「ランシッドさん……は眠っていますね」
「は、はい、多分ですが……」
フィノが確認するように尋ねると、メリーゼは腰の後ろにあるお守りの短剣を振り返り、目を伏せた。
自分の言葉のせいで父が無茶をしてしまったのではないと月光の女神にも言われたものの、眠ったまま目覚める気配のない父に彼女の表情は晴れない。
「構いません。目覚めたら驚くことも多いでしょうが、あなたが話してあげてくださいね」
「え……」
「大丈夫、ですよ」
メリーゼの手をとり、ふわっと微笑みかけるフィノ。
ふいに、イシェルナが彼女を「すごい神子姫」と称していたのを思い出し、少しだけメリーゼのざわつく心が鎮まった。
「それで、アングレーズ……それにガレさん、どうして二人はこの時代に?」
「何もない空間にいきなりぽっかり穴が開いたのでござる。それで……」
「その穴に吸い込まれて、気付いたら里の外れにいたの。見覚えのある景色を辿ったらパスティヤージュに着いて、若い頃のみんながいたから……」
自分の言葉を遮られたガレが「えっ」とこぼしたのを、クローテの耳が拾った。
しかしすぐにガレの表情から驚きが消え、アングレーズにあわせて頷いた。
「……そうでござる! それがし達は迷子でござるよ!」
「そっか、じゃあ俺と同じ状態なんだな。時空の精霊であるランシッド様なら元の時代に帰してくださるとは思うが、今は力を使い果たして眠っちまってるしなあ……」
どうしたものかと顎をかくブオルにアングレーズが寄り掛かり、太く逞しい腕に縋る。
「帰れないものは仕方ないわ。それより、知らない人ばかりで心細いし、未来の人間がこの時代のパスティヤージュにいても混乱を招くと思うの……しばらく一緒に行動させて貰ってもいいかしら?」
むに、とブオルの肘にやわらかくも弾力のあるものが押し当てられた。
「おおっ、オトナの誘惑だぁ……」
「せ、成長したのね、アン……わたしとは違う方向に……」
「こっ、こら、いつの間にお前はそんなっ……!」
モカ、フィノ、ワッフルが順番にそう発言するが、当のブオルは動じていない。
「まあ、ランシッド様が目覚めるまでは一緒に行動した方がいいだろうな。みんなもそれでいいか?」
などと聞かれるが、カカオ達には特に断る理由もなく、
「おう、そうだな」
「ちょっとびっくりしたけど、アンはアンだもんね!」
カカオとモカがあっさり受け入れ、屈託のない笑顔を向ける。
それにアングレーズは僅かに驚いた様子だったが、
「……ありがとう。しばらくの間、よろしくね」
「よろしくでござるー!」
こうして、カカオ達に新たな仲間が増えた。
賑やかになっていく一行を、フィノはターコイズブルーの瞳でじっと見つめる。
(何の運命の巡り合わせか、異なる時代の人間が集まっていく……彼らの行く先に待つものは……)
かつて世界を救った英雄のひとりであり、今では優れた神子姫でもある彼女にも、それはまだわからなかった。
「ここが、月白の祭壇……?」
『今は夕陽に染まってるけどね、満月の夜には月明かりを集めたみたいになるの』
だから月白の祭壇っていうのよ、とここの主である月光の女神がクローテに説明した。
「ランシッドさん……は眠っていますね」
「は、はい、多分ですが……」
フィノが確認するように尋ねると、メリーゼは腰の後ろにあるお守りの短剣を振り返り、目を伏せた。
自分の言葉のせいで父が無茶をしてしまったのではないと月光の女神にも言われたものの、眠ったまま目覚める気配のない父に彼女の表情は晴れない。
「構いません。目覚めたら驚くことも多いでしょうが、あなたが話してあげてくださいね」
「え……」
「大丈夫、ですよ」
メリーゼの手をとり、ふわっと微笑みかけるフィノ。
ふいに、イシェルナが彼女を「すごい神子姫」と称していたのを思い出し、少しだけメリーゼのざわつく心が鎮まった。
「それで、アングレーズ……それにガレさん、どうして二人はこの時代に?」
「何もない空間にいきなりぽっかり穴が開いたのでござる。それで……」
「その穴に吸い込まれて、気付いたら里の外れにいたの。見覚えのある景色を辿ったらパスティヤージュに着いて、若い頃のみんながいたから……」
自分の言葉を遮られたガレが「えっ」とこぼしたのを、クローテの耳が拾った。
しかしすぐにガレの表情から驚きが消え、アングレーズにあわせて頷いた。
「……そうでござる! それがし達は迷子でござるよ!」
「そっか、じゃあ俺と同じ状態なんだな。時空の精霊であるランシッド様なら元の時代に帰してくださるとは思うが、今は力を使い果たして眠っちまってるしなあ……」
どうしたものかと顎をかくブオルにアングレーズが寄り掛かり、太く逞しい腕に縋る。
「帰れないものは仕方ないわ。それより、知らない人ばかりで心細いし、未来の人間がこの時代のパスティヤージュにいても混乱を招くと思うの……しばらく一緒に行動させて貰ってもいいかしら?」
むに、とブオルの肘にやわらかくも弾力のあるものが押し当てられた。
「おおっ、オトナの誘惑だぁ……」
「せ、成長したのね、アン……わたしとは違う方向に……」
「こっ、こら、いつの間にお前はそんなっ……!」
モカ、フィノ、ワッフルが順番にそう発言するが、当のブオルは動じていない。
「まあ、ランシッド様が目覚めるまでは一緒に行動した方がいいだろうな。みんなもそれでいいか?」
などと聞かれるが、カカオ達には特に断る理由もなく、
「おう、そうだな」
「ちょっとびっくりしたけど、アンはアンだもんね!」
カカオとモカがあっさり受け入れ、屈託のない笑顔を向ける。
それにアングレーズは僅かに驚いた様子だったが、
「……ありがとう。しばらくの間、よろしくね」
「よろしくでござるー!」
こうして、カカオ達に新たな仲間が増えた。
賑やかになっていく一行を、フィノはターコイズブルーの瞳でじっと見つめる。
(何の運命の巡り合わせか、異なる時代の人間が集まっていく……彼らの行く先に待つものは……)
かつて世界を救った英雄のひとりであり、今では優れた神子姫でもある彼女にも、それはまだわからなかった。