14~パスティヤージュの守護者たち~

「また始まったか……お前の悪い癖が」

 呆れ顔で現れた子連れの男……二人とも淡い金髪をしていて、子供の方はモカと同じくらいの年頃で、フィノとよく似た、フィノと同じターコイズの目をした少女。

「ワッフル君、だってだって……」
「わかったから場所を移せ。このままじゃ話が進まないだろ?」

 ワッフル、と呼ばれたカカオより少し長身の男は少女の方を振り返ると「たぶん、大事な話なんだろ?」と言った。

『すっかり素敵な旦那さんですねぇ』
『昔は眼中に入れて貰えなかったのにねぇ~?』

 清き風花とランシッドが『ねー?』と声をハモらせる。

「う、うるさいなっ! 二十年も昔の話だろ!」
「うふふ」

 子供だった頃の話を掘り返されて赤面するワッフルは今では三十過ぎの立派な大人で、フィノの夫である。
 そして後ろの少女が二人の間に生まれた子で……

「アン!」
「モカちゃん、待ってたわ」

 モカの友人、アンは母親によく似た微笑みでそう言った。
 言われるはずのない言葉にモカは首を傾げ、仲間達も顔を見合わせる。

「あれ、ボク達そっちに行くって言ったっけ?」
「ううん、聞いてないわ。けど、予感がしたの」

 少女が呟くと、風がサァッと吹き抜けた。

「……場所を変えましょう。詳しい話は……」

 フィノの言葉が終わらないうちに、七色の光が人の形を造り、現れる。

『月白の祭壇にいらっしゃいな。あそこなら誰も来ないわよ』
「月光の女神様……そうですね」

 光から女神と呼ぶには随分と野太い……どちらかと言えば逞しい男性を連想させる声が聴こえ、カカオ達は怪訝そうな顔をした。

(女神……って、風花みたいに女の姿をした精霊、ってことだよな?)

 浮かんだ疑問は手足などそれぞれのパーツごとにゆっくりともったいぶって明らかになった女神の姿により、解消されることになる。

『パスティヤージュに咲く大輪の花! 月光の女神、参上☆』
「えっ……」

 長い金髪の毛先にかかる紫のグラデーションは仄かな月の光と夜空を思わせ、纏う衣の薄く透けた淡い色使いも女神らしいといえば、そうなるだろう。
 しかしそこから覗く広い肩幅に盛り上がった上腕二頭筋、発達した脚、平たく固い胸板、そしてカカオよりよっぽどがっしりと大きな体躯。

「「「……女神?」」」

 カカオとブオル、それにモカの声が同時に発せられた。

『うっさいわねぇ、細かい事はいいの。月白の祭壇は里の中央にある祠から入れるわよ!』
「ご、ごまかした……」

 実体化した姿でずんずん歩く女神を見慣れているのか、パスティヤージュの人々の反応に驚きや戸惑いは見られない。

「なんか、精霊もいろいろなんだな……」
『割と個性的なの多いからね……』

 やれやれと溜め息をつく同じ精霊であるはずのランシッドに、自分はそうじゃないとでも思っているのか、と言わんばかりの視線が集まった。
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