1~戦いの幕、開く~
時代は二十年前から戻って、現代。
「……!」
再び空間から現れたカカオ達に、ガトーはすぐさま駆け寄った。
「お、おい、大丈夫か、どこも怪我とかしてねえか!?」
がしっと孫の両肩を掴む祖父の手はもう消えかけておらず、しっかりと力強い感触を伝える。
「いててっ……じいちゃん、そっちのが大変な状態だったんだろ? こっちの心配してる場合かよ」
「それとこれとは別だ、ばーろー!」
と、一度離れたガトーのてのひらに、少量だが血が付着したことに気付く。
「おめえ、これ怪我……」
「あ、さっきのカクカク野郎にやられた時の……掠り傷だし、たいしたことねえって」
「程度の問題じゃねえ。やっぱ危険な目に遭ったんじゃねえか!」
血のついた拳を握り締め、今にも殴りかかりそうな剣幕のガトーに、
『ガトー、でも彼等が行かなきゃ君も君が救ったもの達も消えてたよ。二十年前のあの時、君が作った腕輪の力がなかったら、いくつかの村は滅ぼされていたんだから』
ランシッドはあくまでアラカルティアの時空を司る精霊として、冷静にそう告げた。
「じいちゃん、改めてすげーんだな……」
「だから、英雄を消すと言ったあの化物に狙われたんだ」
二十年前にこの世界を襲った災厄と、それを打ち倒した者達。
実際に表立って英雄と呼ばれているのは彼等だが、あまり知られていないだけで目の前の職人も英雄には違いなかった。
「英雄を、消すだあ?」
『どうやら過去に干渉して、歴史を変えようとしている奴がいるらしいよ。という訳で……』
ランシッドはガトーに歩み寄ると、その手を取って目を閉じ、意識を集中させる。
すると小さな輝きが発生し、吸い込まれるようにガトーの中に入っていく。
「……なにしやがった?」
『これ以上時空干渉を受けないようにしたんだよ。また狙われないとも限らないからね』
どうやらこれで祖父の安全は確保されたらしいと知り、カカオが胸を撫で下ろした。
「今度はお前が安心させる番だ」とクローテが彼の傷ついた肩に癒しの術をかけて治してやる。
「けど、お父様……英雄を消すというあの者の発言、もしかしてお母様や仲間の皆さんが危ないのでは?」
メリーゼの母親もまた英雄の一人だ。
元はまだこの世界がアラカルティアという名前ではなかった頃、当時はひとつの国だったグランマニエの王ランシッドが一途にアタックを繰り返し、ようやく射止めた女性。
しかし彼女はグランマニエの騎士団長で、災厄との決戦に赴き、自分ごと魔物を封印するという形でランシッドと別れてしまった。
それが運命の悪戯か二十年前に目覚め、死後に精霊となったランシッドと再会を果たしたのだ。
戦いが終わった後に誕生したメリーゼは、そんな少々変わった両親のもとで育った子である。
『そうだね……それに、これ以上は俺や君達だけで対処できる問題じゃなくなる。一旦王都に戻って、トランシュに相談しなくちゃ』
「なんだか大変なことになってきたな……」
「けどまあ、善は急げって言うしな!」
と、威勢良く言い放ったカカオに全員の視線が集まった。
「……えーと、カカオ君、ひょっとしてついて来る気ですか?」
「おいおいメリーゼ、ここまで関わってそりゃねーだろ」
「遊びじゃないんだぞ。さっきは仕方なかったが、これ以上一般人を巻き込む訳にはいかない」
メリーゼはやんわりと、クローテはきっぱりとカカオの同行を止める。
ガトーもやはり賛成はしないようで、いつも以上に険しい顔で孫を睨みつける。
「おめえ、職人になりてえっつってわざわざここまで来たんだろ?」
「けど、下手したら職人どころか世界があぶねーんだろ? 知っちまった以上、修行に集中できねーよ!」
真っ直ぐな翠の瞳が、痛いくらいにガトーを見つめ返した。
「……!」
再び空間から現れたカカオ達に、ガトーはすぐさま駆け寄った。
「お、おい、大丈夫か、どこも怪我とかしてねえか!?」
がしっと孫の両肩を掴む祖父の手はもう消えかけておらず、しっかりと力強い感触を伝える。
「いててっ……じいちゃん、そっちのが大変な状態だったんだろ? こっちの心配してる場合かよ」
「それとこれとは別だ、ばーろー!」
と、一度離れたガトーのてのひらに、少量だが血が付着したことに気付く。
「おめえ、これ怪我……」
「あ、さっきのカクカク野郎にやられた時の……掠り傷だし、たいしたことねえって」
「程度の問題じゃねえ。やっぱ危険な目に遭ったんじゃねえか!」
血のついた拳を握り締め、今にも殴りかかりそうな剣幕のガトーに、
『ガトー、でも彼等が行かなきゃ君も君が救ったもの達も消えてたよ。二十年前のあの時、君が作った腕輪の力がなかったら、いくつかの村は滅ぼされていたんだから』
ランシッドはあくまでアラカルティアの時空を司る精霊として、冷静にそう告げた。
「じいちゃん、改めてすげーんだな……」
「だから、英雄を消すと言ったあの化物に狙われたんだ」
二十年前にこの世界を襲った災厄と、それを打ち倒した者達。
実際に表立って英雄と呼ばれているのは彼等だが、あまり知られていないだけで目の前の職人も英雄には違いなかった。
「英雄を、消すだあ?」
『どうやら過去に干渉して、歴史を変えようとしている奴がいるらしいよ。という訳で……』
ランシッドはガトーに歩み寄ると、その手を取って目を閉じ、意識を集中させる。
すると小さな輝きが発生し、吸い込まれるようにガトーの中に入っていく。
「……なにしやがった?」
『これ以上時空干渉を受けないようにしたんだよ。また狙われないとも限らないからね』
どうやらこれで祖父の安全は確保されたらしいと知り、カカオが胸を撫で下ろした。
「今度はお前が安心させる番だ」とクローテが彼の傷ついた肩に癒しの術をかけて治してやる。
「けど、お父様……英雄を消すというあの者の発言、もしかしてお母様や仲間の皆さんが危ないのでは?」
メリーゼの母親もまた英雄の一人だ。
元はまだこの世界がアラカルティアという名前ではなかった頃、当時はひとつの国だったグランマニエの王ランシッドが一途にアタックを繰り返し、ようやく射止めた女性。
しかし彼女はグランマニエの騎士団長で、災厄との決戦に赴き、自分ごと魔物を封印するという形でランシッドと別れてしまった。
それが運命の悪戯か二十年前に目覚め、死後に精霊となったランシッドと再会を果たしたのだ。
戦いが終わった後に誕生したメリーゼは、そんな少々変わった両親のもとで育った子である。
『そうだね……それに、これ以上は俺や君達だけで対処できる問題じゃなくなる。一旦王都に戻って、トランシュに相談しなくちゃ』
「なんだか大変なことになってきたな……」
「けどまあ、善は急げって言うしな!」
と、威勢良く言い放ったカカオに全員の視線が集まった。
「……えーと、カカオ君、ひょっとしてついて来る気ですか?」
「おいおいメリーゼ、ここまで関わってそりゃねーだろ」
「遊びじゃないんだぞ。さっきは仕方なかったが、これ以上一般人を巻き込む訳にはいかない」
メリーゼはやんわりと、クローテはきっぱりとカカオの同行を止める。
ガトーもやはり賛成はしないようで、いつも以上に険しい顔で孫を睨みつける。
「おめえ、職人になりてえっつってわざわざここまで来たんだろ?」
「けど、下手したら職人どころか世界があぶねーんだろ? 知っちまった以上、修行に集中できねーよ!」
真っ直ぐな翠の瞳が、痛いくらいにガトーを見つめ返した。