13~マンジュの夜~

 そして、翌朝。

「カカオ君、よく眠れた?」
「はい!」

 マンジュを発つ一行を見送りに現れたイシェルナとガレが、カカオの顔色を覗きこんで確認する。

「そういやお前さん、帰って来るなり倒れ込んで爆睡しちまったが、何やってたんだ?」
「んー、ヒミツ」

 まさか気功術の特訓をしていたなどとは言えず、ブオルの問いかけを適当にはぐらかそうとしたカカオだったが、その言葉にモカが過剰な反応を示した。

「えっ、夜遅くにイシェルナおばちゃんとヒミツの……なにやってたの!?」
「えっ?」

 わざわざメリーゼに聞かせるように言ってやれば、イシェルナはその意図を汲み取ってカカオにぴったりくっつき、

「そりゃあもう、手取り足取りあんな事そんなコト♪」

 などとわざとらしくアピールして見せる。

『イシェルナ、遊んでる』
『相変わらずだねぇ……』
『で、ですね……』

 早々に察した精霊達は一歩引いてその様子を眺める。
 というか、カカオの性格を考えれば勘違いする要素もないだろうと思うのだが……

(それにしたってイシェルナの前じゃ妙に緊張してたもんな、青少年……妙な勘違いしても別に不思議じゃないぞ)
(いや、だからといっていくらなんでもそれはないでしょう。あのメリーゼですよ?)
(いやいや、ここで一発進展とまでいかなくても意識するくらいはあるかもよ?)

 口々に、もちろん今度は聞こえないようにひそひそと話すブオル、クローテ、それにモカ。
 彼らの視線を一身に集めたメリーゼはというと、

「わたしも、したかった……」
「へ?」

 ぽつ、と小さな呟きをこぼした。
 少女の左右で色の違う瞳は僅かに潤んで幼馴染みを切なげに見上げる。

 仲間達はそんな彼女に驚き、イシェルナも成り行きを見守った。

「カカオ君、イシェルナさんと……したんでしょ?」

 武術の修行を。

 そう言うと両手でカカオの利き手を包み、自分の胸に引き寄せた。

「イシェルナさんほどの武術の達人にこっそり手解き受けてたなんて、ずるいです! 言ってくれればわたしだって……!」
「お、おう、ごめんな?」

 拗ねるメリーゼにばつが悪そうにカカオが謝罪する中、後ろでガレ以外の全員が呆れるなりずっこけるなりした。

「たはは、真面目な子だよなあほんと」
「まぁ、こうなると思ってました……」
「ちぇー、つまんないのー」
「みんなどうしたのでござる?」

 そんな彼らの後方で『お、俺はわかってたからね!』と胸を撫で下ろすランシッドが安堵の表情で、しかし愛娘から視線を外せずにいたのだった。
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