13~マンジュの夜~
風に揺れる枝葉の擦れあう音ひとつひとつや虫の奏でる音色がよく聴こえる、そんな静かな夜。
「はぁー、これが風流ってやつかねぇ」
マンジュの宿自慢の露天風呂にて。
お湯に身を沈める水音も心地よく、ブオルは戦場からは想像もつかないくらい蕩けた顔をした。
「こりゃ疲れも融け出しちまいそうだぁ……」
「本当に、いいお湯ですね。景色も綺麗で、静かで、落ち着いて……」
と、クローテも珍しく緊張を解いた穏やかな笑顔で頷いたその時だった。
「わっほーい、貸し切りだー!」
ざっぱーん。
仕切りを隔てた向こう側……女湯から盛大な水音が風流をぶち壊し、ブオルとクローテが顔を見合わせる。
「あー、この開放感サイコー!」
「モ、モカちゃん、泳いじゃダメよ!」
ばちゃばちゃという音とメリーゼの声で、見えないはずの女湯の状況がほぼ想像できてしまい、クローテは頭を抱えた。
「……静かに寛げないのか、はしたないぞ!」
「げっ、クロ兄いたの!?」
「いなくてもやるな!」
「まあまあクローテ、あんまカッカするとのぼせるぞ。チビすけもせっかくのマンジュの名物だ、ゆっくり浸かろうぜ」
宥めるブオルに我に返ったクローテは咳払いをすると再び肩を湯に浸からせる。
「クローテ君……それにブオルさんも今お風呂なんですね」
「ああ、とってもいい気持ちだ。そういやこの湯、美肌効果もあるんだってさ。って、お前さん達にゃあんま関係ないか」
もともと綺麗だもんな、なんて照れも含みもなくさらっと言ってのけるブオル。
壁を挟んだ女性陣が一瞬黙ってしまうと、彼は「俺、なんかまずいこと言ったか?」と不安げに曾孫を見た。
「……おじちゃん、奥さん以外の女の子にそういうこと言っちゃうんだ」
「ん? だって事実綺麗なもんは綺麗だし、それとは別にホイップは俺にとっての一番で唯一だからな!」
朗らかに笑う大きな熊のような男を、ぽかんと見つめるクローテ。
こういう裏表のない爽やかさ、正直さも愛される人物たるゆえんだったのだろうと祖父スタードに聞かされた話を思い出していた。
(実際にこうやって会うことが出来るなんて、夢にも思わなかったが……)
それを嬉しく感じるのは、今この世界を取り巻く状況を考えれば不謹慎かもしれない。
けれどもクローテ個人としては、やはり嬉しいことだった。
と、
「ねぇねぇ、そっちカカオ兄いないの?」
ずっと声がしないことを不思議に思ってか、モカが尋ねる。
「あいつなら用事があるからってさ。後で入ると思うぞー」
「なぁんだ、湯上がり牛乳早飲み勝負しようと思ったのにー」
「一気飲みなんてしたらお腹こわすぞ、チビすけ」
男湯と女湯の和やかなやりとりには色気はなく、どちらかというと家族連れとか、そういう雰囲気が近いだろう。
そんな中でメリーゼは、
(それにしてもカカオ君の用事って何かしら……ちゃんと休めるといいんだけど)
この場に気配を感じられない幼馴染みを案じ、ぼんやりと浮かぶ月を見上げた。
「はぁー、これが風流ってやつかねぇ」
マンジュの宿自慢の露天風呂にて。
お湯に身を沈める水音も心地よく、ブオルは戦場からは想像もつかないくらい蕩けた顔をした。
「こりゃ疲れも融け出しちまいそうだぁ……」
「本当に、いいお湯ですね。景色も綺麗で、静かで、落ち着いて……」
と、クローテも珍しく緊張を解いた穏やかな笑顔で頷いたその時だった。
「わっほーい、貸し切りだー!」
ざっぱーん。
仕切りを隔てた向こう側……女湯から盛大な水音が風流をぶち壊し、ブオルとクローテが顔を見合わせる。
「あー、この開放感サイコー!」
「モ、モカちゃん、泳いじゃダメよ!」
ばちゃばちゃという音とメリーゼの声で、見えないはずの女湯の状況がほぼ想像できてしまい、クローテは頭を抱えた。
「……静かに寛げないのか、はしたないぞ!」
「げっ、クロ兄いたの!?」
「いなくてもやるな!」
「まあまあクローテ、あんまカッカするとのぼせるぞ。チビすけもせっかくのマンジュの名物だ、ゆっくり浸かろうぜ」
宥めるブオルに我に返ったクローテは咳払いをすると再び肩を湯に浸からせる。
「クローテ君……それにブオルさんも今お風呂なんですね」
「ああ、とってもいい気持ちだ。そういやこの湯、美肌効果もあるんだってさ。って、お前さん達にゃあんま関係ないか」
もともと綺麗だもんな、なんて照れも含みもなくさらっと言ってのけるブオル。
壁を挟んだ女性陣が一瞬黙ってしまうと、彼は「俺、なんかまずいこと言ったか?」と不安げに曾孫を見た。
「……おじちゃん、奥さん以外の女の子にそういうこと言っちゃうんだ」
「ん? だって事実綺麗なもんは綺麗だし、それとは別にホイップは俺にとっての一番で唯一だからな!」
朗らかに笑う大きな熊のような男を、ぽかんと見つめるクローテ。
こういう裏表のない爽やかさ、正直さも愛される人物たるゆえんだったのだろうと祖父スタードに聞かされた話を思い出していた。
(実際にこうやって会うことが出来るなんて、夢にも思わなかったが……)
それを嬉しく感じるのは、今この世界を取り巻く状況を考えれば不謹慎かもしれない。
けれどもクローテ個人としては、やはり嬉しいことだった。
と、
「ねぇねぇ、そっちカカオ兄いないの?」
ずっと声がしないことを不思議に思ってか、モカが尋ねる。
「あいつなら用事があるからってさ。後で入ると思うぞー」
「なぁんだ、湯上がり牛乳早飲み勝負しようと思ったのにー」
「一気飲みなんてしたらお腹こわすぞ、チビすけ」
男湯と女湯の和やかなやりとりには色気はなく、どちらかというと家族連れとか、そういう雰囲気が近いだろう。
そんな中でメリーゼは、
(それにしてもカカオ君の用事って何かしら……ちゃんと休めるといいんだけど)
この場に気配を感じられない幼馴染みを案じ、ぼんやりと浮かぶ月を見上げた。