12~新しい力~
『魔物を送り込んだ奴の姿もないし、今回は何の情報も得られそうにないや。みんな、さっさと帰ろう』
「ま、待テ!」
既にろくに力も残ってない消えかけの体をずるずる引き摺りながら命乞いをする男。
放っておけば勝手に消滅するだろう、とランシッドが仲間達に促すが、
「金か、金なラいくらデもある! 貴様だッテ……」
「っ!?」
どうにか立ち上がった男は、よろめきながらクローテの肩を乱暴に掴んだ。
「娘っ……貴様ほドの、び、美女が、なにも騎士の真似事ナドせずとも良い。好キなだけ高価なドレスと宝石で着飾り微笑んでいレば……ぐふ、ぐふフ……」
「――!」
あ、と声を漏らしたのはカカオだった。
顔をひきつらせ後ずさる彼と、かわいそうなものを見るような目を魔物に向けるメリーゼ、そして合掌するモカ。
ブオルとランシッドがそんな彼らに首を傾げた、その瞬間だった。
「誰が美女だッ!」
かつてないほど怒りをあらわにしたクローテの叫びと同時に、彼の足が垂直に上がり……
「おごッ!?」
魔物の右足と左足の間にある急所を思いきり蹴り上げた。
「ひぇ……」
『う、うそぉ……』
種族柄か脚力が強く蹴りが得意というクローテの、華奢な容姿からは想像もつかない鋭く容赦ない一撃が立てた鈍い音と、衝撃で僅かに浮き、直後体をくの字に折り曲げそのまま地に落ちる魔物。
あまりのことにブオルとランシッドが思わず自分の同じ箇所を押さえ、内股になった。
「ダメージを受けすぎて目も見えなくなっていたようだな……私は男だ」
「聞こえてねーぞ、クローテ……」
ふぅ、と息を吐きゆるく癖のある銀髪をかきあげるクローテの足元で、魔物は白目を剥き痙攣しながら完全に消滅してしまった。
――――
時代は戻って、マンジュの里にて。
「おかえりなさい。ちゃんとやれたみたいね」
「ししょー、どこにも行かなかったでござる!」
カカオの言い付けを守ってイシェルナに抱きついたままのガレは、帰還した一行を嬉しそうに見上げた。
「ちゃんとイシェルナさんを守ってたんだな、偉いぞ」
「えへへ……あっ、カカオどの、ケガしてるでござるか?」
頭を撫でてくれたカカオの腕に傷を見付けたガレが、ほぼ猫のような手でそれを包み込む。
「このくらい別に……」
「いたいのいたいのとんでくでござる!」
少年の手が仄かな輝きを帯び、生じた光がカカオの腕に吸い込まれる。
するとカカオは、そこから痛みが消えるのを感じた。
「すげえな、治癒術か?」
「ししょー直伝の気功術でござるー」
「最近覚えたばっかりなのよ、この子」
出来の良い弟子を自慢するようにイシェルナがそう言うと、カカオはそんな二人を見つめ何やら考え込む。
(治癒術じゃない、気功術か……)
夏の瑞々しい緑を連想させる鮮やかな色の目が、真剣に細められた。
「ま、待テ!」
既にろくに力も残ってない消えかけの体をずるずる引き摺りながら命乞いをする男。
放っておけば勝手に消滅するだろう、とランシッドが仲間達に促すが、
「金か、金なラいくらデもある! 貴様だッテ……」
「っ!?」
どうにか立ち上がった男は、よろめきながらクローテの肩を乱暴に掴んだ。
「娘っ……貴様ほドの、び、美女が、なにも騎士の真似事ナドせずとも良い。好キなだけ高価なドレスと宝石で着飾り微笑んでいレば……ぐふ、ぐふフ……」
「――!」
あ、と声を漏らしたのはカカオだった。
顔をひきつらせ後ずさる彼と、かわいそうなものを見るような目を魔物に向けるメリーゼ、そして合掌するモカ。
ブオルとランシッドがそんな彼らに首を傾げた、その瞬間だった。
「誰が美女だッ!」
かつてないほど怒りをあらわにしたクローテの叫びと同時に、彼の足が垂直に上がり……
「おごッ!?」
魔物の右足と左足の間にある急所を思いきり蹴り上げた。
「ひぇ……」
『う、うそぉ……』
種族柄か脚力が強く蹴りが得意というクローテの、華奢な容姿からは想像もつかない鋭く容赦ない一撃が立てた鈍い音と、衝撃で僅かに浮き、直後体をくの字に折り曲げそのまま地に落ちる魔物。
あまりのことにブオルとランシッドが思わず自分の同じ箇所を押さえ、内股になった。
「ダメージを受けすぎて目も見えなくなっていたようだな……私は男だ」
「聞こえてねーぞ、クローテ……」
ふぅ、と息を吐きゆるく癖のある銀髪をかきあげるクローテの足元で、魔物は白目を剥き痙攣しながら完全に消滅してしまった。
――――
時代は戻って、マンジュの里にて。
「おかえりなさい。ちゃんとやれたみたいね」
「ししょー、どこにも行かなかったでござる!」
カカオの言い付けを守ってイシェルナに抱きついたままのガレは、帰還した一行を嬉しそうに見上げた。
「ちゃんとイシェルナさんを守ってたんだな、偉いぞ」
「えへへ……あっ、カカオどの、ケガしてるでござるか?」
頭を撫でてくれたカカオの腕に傷を見付けたガレが、ほぼ猫のような手でそれを包み込む。
「このくらい別に……」
「いたいのいたいのとんでくでござる!」
少年の手が仄かな輝きを帯び、生じた光がカカオの腕に吸い込まれる。
するとカカオは、そこから痛みが消えるのを感じた。
「すげえな、治癒術か?」
「ししょー直伝の気功術でござるー」
「最近覚えたばっかりなのよ、この子」
出来の良い弟子を自慢するようにイシェルナがそう言うと、カカオはそんな二人を見つめ何やら考え込む。
(治癒術じゃない、気功術か……)
夏の瑞々しい緑を連想させる鮮やかな色の目が、真剣に細められた。