1~戦いの幕、開く~
「カカオ君は私と前衛、クローテ君は後方支援をお願い!」
最初に動いたのはメリーゼだった。
細身の剣と短剣を両手に持ち、果敢に敵に突っ込むと動く度に瑠璃色の髪とフリルのついた白い隊服がふわりと翻る。
「メリーゼの奴、相変わらず猪突猛進だなぁ……」
「いいからお前も行くんだ。たぶん相手は格上だろう。三人でかかって倒せるかどうか……」
「わかってるっての!」
そんなやりとりの間にも相手は鋭く尖った両腕を振り回し、猛攻を仕掛けてくる。
左右の剣で攻撃と防御を切り替えて素早く相手の攻撃を捌くメリーゼだが、一撃の重さに圧され、防戦に傾き始める。
「くっ……!」
「血気にはやるか……子供にしてはなかなかだが、まだ甘い!」
「一旦下がれ、メリーゼっ!」
カカオは取り回しやすく柄の長い戦闘用のハンマーを手にして、二人の間に割って入る。
「一人でダメなら二人でどうだ!」
「一人下がらせては同じではないか……大振りなだけで、当たらない分先程より手応えがないぞ」
「うぉっ!?」
でたらめに振り回すハンマーを軽くいなしてしまえば、体勢を崩したカカオがつんのめるが……
「そいつぁどうかな!」
「なに?」
にやりと笑ったカカオの後方で、クローテとメリーゼが淡い光を纏う。
「万化の水よ、刃となりて舞い踊れ!」
「鋭き蒼は我が剣、刹那に閃け!」
魔術で形作られた水の刃と氷の剣が前後から化物に襲いかかる。
「ぐおっ!」
無様にバランスを崩しただけに見えたカカオの動きは彼等の術を見越してのことだった。
カカオの相手をしていた敵もさすがに全ては対処できず、背に直撃を食らう。
「二人でもない、三人だ」
手応えを確信したクローテがそう言い放つと、
「ガキが、調子に乗ってっ……!」
いきり立った化物が放った一撃がカカオの肩を掠め、僅かに赤が飛ぶ。
「ってぇ……!」
しかし好機を逃さず、華奢なわき腹辺りに渾身の一撃を叩き込んだ。
「こいつで……」
「終わり、です!」
とどめは身を捻って勢いをつけた両手剣の連続斬り。
「があぁっ!」
まともに食らった異形の体が発光し、足元から崩れていく。
「こ、こんな子供にっ……」
「その子供を侮ったのが、てめぇの敗因だ!」
と、それまで姿を消していたランシッドが実体化し、消え行く化物に詰め寄る。
『待て、お前の目的は一体なんだ!?』
「英雄を、消さなくては…………テラ、様……」
『テラ……?』
聞き出せたのは、そこまでだった。
化物は全身くまなく砂と化すと、欠片も残らず消滅してしまう。
「なんか、親玉がいるっぽい雰囲気だったな」
『厄介なことになったかもしれない……』
言いながら戦闘のために造り上げた空間を元に戻すと、散らかった工房とその床に倒れた職人が視界に戻ってきた。
『とりあえずガトーが目を覚ます前に退散しないと。今の俺達は、この時代じゃ異物なんだから』
「けど、じいちゃんをこのままにしたら……」
苦し気に荒い呼吸を繰り返す祖父の姿は痛々しく、放置して現代に帰るのはカカオ達には心苦しいものだった。
『一時的に溢れた、穢れた気にあてられたんだね……この後、ちゃんと助かるよ。元々はそうなっていたからね』
「じゃ、じゃあ、せめてっ……!」
カカオの必死な訴えにランシッドは目を伏せ『……手早くね』と背を向けた。
最初に動いたのはメリーゼだった。
細身の剣と短剣を両手に持ち、果敢に敵に突っ込むと動く度に瑠璃色の髪とフリルのついた白い隊服がふわりと翻る。
「メリーゼの奴、相変わらず猪突猛進だなぁ……」
「いいからお前も行くんだ。たぶん相手は格上だろう。三人でかかって倒せるかどうか……」
「わかってるっての!」
そんなやりとりの間にも相手は鋭く尖った両腕を振り回し、猛攻を仕掛けてくる。
左右の剣で攻撃と防御を切り替えて素早く相手の攻撃を捌くメリーゼだが、一撃の重さに圧され、防戦に傾き始める。
「くっ……!」
「血気にはやるか……子供にしてはなかなかだが、まだ甘い!」
「一旦下がれ、メリーゼっ!」
カカオは取り回しやすく柄の長い戦闘用のハンマーを手にして、二人の間に割って入る。
「一人でダメなら二人でどうだ!」
「一人下がらせては同じではないか……大振りなだけで、当たらない分先程より手応えがないぞ」
「うぉっ!?」
でたらめに振り回すハンマーを軽くいなしてしまえば、体勢を崩したカカオがつんのめるが……
「そいつぁどうかな!」
「なに?」
にやりと笑ったカカオの後方で、クローテとメリーゼが淡い光を纏う。
「万化の水よ、刃となりて舞い踊れ!」
「鋭き蒼は我が剣、刹那に閃け!」
魔術で形作られた水の刃と氷の剣が前後から化物に襲いかかる。
「ぐおっ!」
無様にバランスを崩しただけに見えたカカオの動きは彼等の術を見越してのことだった。
カカオの相手をしていた敵もさすがに全ては対処できず、背に直撃を食らう。
「二人でもない、三人だ」
手応えを確信したクローテがそう言い放つと、
「ガキが、調子に乗ってっ……!」
いきり立った化物が放った一撃がカカオの肩を掠め、僅かに赤が飛ぶ。
「ってぇ……!」
しかし好機を逃さず、華奢なわき腹辺りに渾身の一撃を叩き込んだ。
「こいつで……」
「終わり、です!」
とどめは身を捻って勢いをつけた両手剣の連続斬り。
「があぁっ!」
まともに食らった異形の体が発光し、足元から崩れていく。
「こ、こんな子供にっ……」
「その子供を侮ったのが、てめぇの敗因だ!」
と、それまで姿を消していたランシッドが実体化し、消え行く化物に詰め寄る。
『待て、お前の目的は一体なんだ!?』
「英雄を、消さなくては…………テラ、様……」
『テラ……?』
聞き出せたのは、そこまでだった。
化物は全身くまなく砂と化すと、欠片も残らず消滅してしまう。
「なんか、親玉がいるっぽい雰囲気だったな」
『厄介なことになったかもしれない……』
言いながら戦闘のために造り上げた空間を元に戻すと、散らかった工房とその床に倒れた職人が視界に戻ってきた。
『とりあえずガトーが目を覚ます前に退散しないと。今の俺達は、この時代じゃ異物なんだから』
「けど、じいちゃんをこのままにしたら……」
苦し気に荒い呼吸を繰り返す祖父の姿は痛々しく、放置して現代に帰るのはカカオ達には心苦しいものだった。
『一時的に溢れた、穢れた気にあてられたんだね……この後、ちゃんと助かるよ。元々はそうなっていたからね』
「じゃ、じゃあ、せめてっ……!」
カカオの必死な訴えにランシッドは目を伏せ『……手早くね』と背を向けた。