10~旅立ちを前に~

「ブオルさんの腕輪、直せたんですか?」
「ああ。それでおっさんを探してたんだけど……やっぱもう自分の屋敷に帰ってっか。スタードのじいちゃんのことも心配だろうしな」

 薄暗くなってきた城の中庭を並んで歩くカカオとメリーゼ。
 少しだけ身長差のある二人は、話そうとするとやはりメリーゼが上を向く形になった。

「ちょっと前までそんなに変わらなかったのに……」

 こっそり呟いた声は全部は拾われなかったようで「なにか言ったか?」とカカオが首を傾げる。

「……まあいっか。さっきはシーフォンと何話してたんだ?」
「シーフォン王子は……王妃様の時空干渉の時に自分が消滅しかけたことに気付いたそうよ。それでわたしに事件の話を詳しく知りたいと……」
「そっかあ……そりゃあ不安にもならぁな」

 会議室でのシーフォンの振る舞いはあまり快く思っていなかったカカオだったが、彼の身に起きたことを考えれば、強引にでも事情を聞きたがるのも仕方なく感じた。

「それにしたってあんなにベタベタする必要はなかったと思うけどよぉ……」
「え?」

 今度はカカオがごにょごにょと、うまく聞き取れない程度の独り言をこぼした。

「けど、そっか……当然だよなあ。シーフォンはあの時代よりも後に生まれるんだから、時空干渉で両親を殺されたら消滅する」
「カカオ君やクローテ君はそうじゃなかったから、すっかり失念していたわ……」
「俺やクローテの場合、狙われたのは親じゃなくてじいちゃんだからな。言っちまえば、出会わなかったことになるだけで消えたりはしない」

 もちろんそんなの嫌だけどな、と付け加えるカカオ。
 そんな彼の横で、メリーゼの思考は、

(英雄が過去で殺されれば、生まれるはずだったその子供が……シーフォン王子もモカちゃんも、それに、わたしだって……)

 消えるって、どんな感じなのだろう。

 不安と恐怖で胸元に置いた手にぎゅっと力がこめられたその時。

「カカオ兄ぃ、メリーゼ姉ぇ!」

 大きく手を振りながら背中の箱を揺らし、モカがやって来る。
 そしてカカオ達を見るなりにやついた顔で、

「あっれぇ? もしかしてボク、お邪魔な感じ~?」

 などとからかってみるが、

「え、何が……?」
「別にそんな事はねえぞ?」

 鈍感と天然が揃って返ってくると一転「うっわぁ……」と大袈裟に呆れ顔をした。
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