9~会議室の嵐~

 まるで嵐のようなシーフォン王子にどうにか退場して貰った直後、今度こそ本来腕輪を持ってくるはずだった騎士が会議室にやって来た。

「申し訳ありません、ランスロット王……!」
「いや、彼も質の悪い悪戯を覚えてしまったようだね。こちらこそ済まなかったよ」

 青ざめ、頭を下げる金髪碧眼の騎士に「顔を上げて」と困ったように笑う王。

「……それよりも、報告は受けているのかい?」
「はい……滅びたはずの“総てに餓えし者”の眷属が現れ、城下町で暴れまわったと」
「こうなると、少なくとも何かが起きていること自体は知れ渡ったようだね」
「シーフォン王子も、それで必死に聞き出そうとしたのでしょう。この事態……二十年前を知る者にとっても、そうでなくても、異常事態には違いありませんから」

 フレスの右手首には、見事な細工を施された腕輪が煌めいている。
 使い込まれた鈍い輝きは、箱の中のそれとは少し雰囲気が違っていた。

「それじゃあフレス、腕輪を彼らに」
「はい」

 王の言葉で箱を持ち、カカオ、メリーゼ、モカ、と順番に腕輪を渡していくフレス。
 しかし、クローテとブオルの前で一旦その動きは止まった。

「父上……」
「話は聞いているよ、クローテ。それからそちらの……ブオルお祖父様、ですね」

 布で顔を隠そうとしたブオルに、フレスは「今更遅いですよ」と微笑む。
 目元にシワが現れる彼の年頃は、奇しくも現在のブオルと同じくらいだった。

「私も同行したいところですが……王都騎士団として、魔物から各地の人々を守るためこれから現地へ赴かなくてはなりません」

 フレスは腕輪をブオルのてのひらに乗せると、真っ直ぐに祖父の橙色と向き合い、

「この世界を、よろしくお願いします」

 そう、真摯なまなざしを向けた。

「やれやれ、俺の知ってるフレスはまだ赤ん坊だってのに、随分と立派になっちまって……」

 ブオルは立ち上がると孫の頭をぽんぽんと触り、

「どのみち俺達の世界だからな。そんな申し訳なさそうな顔しなくても大丈夫だよ」

 にかっ、と白い歯を見せて頼もしく笑いかける。

 しかし……

「……ところでこの腕輪、サイズどうにかならねえかな?」
「だと思った……あとで直してやるよ、おっさん」

 そこそこ大柄な騎士にも装備できるよう作られた腕輪も規格外のブオルの腕にはきつく、後程カカオによって調整されることとなった。
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