8~英雄から、未来の英雄へ~
魔物を浄化するために力を使い果たしたスタードを彼の部屋のベッドに寝かせると、風の大精霊が『わたしが代わりにお話を聞きます』と同行を申し出た。
そうしてカカオ達は屋敷をあとにして、城下町に出たのだが……
「ひどい……」
メリーゼが呻くように呟く。
美しい王都の街並みはところどころ破壊され、人はほとんど出歩いておらず、屋敷同様のことが起きたのだろうと容易に推測された。
「王都には結界があるのに……」
「あくまであれは“壁”だからな。直接内部に入られてしまえば防ぎようがない」
モラセスはそう言うと辺りを見回す。
屋敷に現れたものと同じ魔物の仕業だとしたら、まだ近くを徘徊していてもおかしくないはずだが……
「ねえねえ、何もいないけど……浄化ってのをしなきゃ倒せないんじゃなかったの?」
「どうやら既に誰かがやってくれたようだな。そんな事が出来るのは……」
曾孫の疑問に答えたモラセスはいくつかの可能性を巡らせる。
と、その答えはそちらから現れた。
「モラセス殿!」
「お前は……カッセか」
向こうからやって来たのは、モカと変わらないくらいの背丈で、布で全身を隠すような服装をした人物だった。
「報告に来てみればこの騒ぎ……王都もこの有り様とは……」
「王都“も”とは?」
「ねえねえ、このちびっこだあれ?」
話を遮って興味を示したのは、自分と同じ年頃かと思ったらしいモカ。
しかし彼女の問いに“ちびっこ”は赤銅色の猫目を優しく細めると、
「拙者はミレニア殿より年上なのだが……やはりそうは見えぬでござるな。これでも妻も子もいるというのに」
「えっ、ママを知ってるの? ってか、子持ち!?」
「母上も父上もよーく知っているでござる」
森の木々に繁る葉のように濃い緑の頭巾をそっと外し、素顔を晒す。
「聖依獣……!」
砂色の体毛に覆われた、二足歩行の猫。
人語を話す獣にして精霊をその身に宿すことができる種族……クローテとは違い、まじり気なしの本来の聖依獣の姿がそこにあった。
クローテの母のように人間との関わりを持つものもいるがほとんどが隠れ里に身を潜めているその種族をこのアラカルティアで見かけることは多くはない。
「マンジュの里の連絡係カッセ……コイツも“英雄”の一人だ」
長身のモラセスと並べば大人と子供ほどの身長差が生まれる小柄な英雄を、一番大柄なブオルが興味津々で見つめていた。
「じゃあここで暴れていた魔物はもしかして……」
「たまたま戻っていたデュー殿……デュランダル騎士団長と共に浄化したでござるよ」
「パパが帰ってたの!?」
「“水辺の乙女”が各地の異常を察知したゆえ、拙者に王への報告を押し付けてすぐにまた飛び出してしまったでござる」
父の話に食いつくモカに、呆れた男でござる、と溜め息をつくカッセは見た目の年齢はわかりにくいがやはり大人の顔をしていた。
「各地の異常……やはり先程の言葉はそういう意味か」
「世界各地で消えたはずの災厄の眷属が現れているのでござる。再び騎士団と“腕輪”の力が必要になるかと……」
耳慣れない単語のまじる不穏な会話を始めた大人達においてけぼりをくらったカカオは「腕輪?」と首を傾げるのだった。
そうしてカカオ達は屋敷をあとにして、城下町に出たのだが……
「ひどい……」
メリーゼが呻くように呟く。
美しい王都の街並みはところどころ破壊され、人はほとんど出歩いておらず、屋敷同様のことが起きたのだろうと容易に推測された。
「王都には結界があるのに……」
「あくまであれは“壁”だからな。直接内部に入られてしまえば防ぎようがない」
モラセスはそう言うと辺りを見回す。
屋敷に現れたものと同じ魔物の仕業だとしたら、まだ近くを徘徊していてもおかしくないはずだが……
「ねえねえ、何もいないけど……浄化ってのをしなきゃ倒せないんじゃなかったの?」
「どうやら既に誰かがやってくれたようだな。そんな事が出来るのは……」
曾孫の疑問に答えたモラセスはいくつかの可能性を巡らせる。
と、その答えはそちらから現れた。
「モラセス殿!」
「お前は……カッセか」
向こうからやって来たのは、モカと変わらないくらいの背丈で、布で全身を隠すような服装をした人物だった。
「報告に来てみればこの騒ぎ……王都もこの有り様とは……」
「王都“も”とは?」
「ねえねえ、このちびっこだあれ?」
話を遮って興味を示したのは、自分と同じ年頃かと思ったらしいモカ。
しかし彼女の問いに“ちびっこ”は赤銅色の猫目を優しく細めると、
「拙者はミレニア殿より年上なのだが……やはりそうは見えぬでござるな。これでも妻も子もいるというのに」
「えっ、ママを知ってるの? ってか、子持ち!?」
「母上も父上もよーく知っているでござる」
森の木々に繁る葉のように濃い緑の頭巾をそっと外し、素顔を晒す。
「聖依獣……!」
砂色の体毛に覆われた、二足歩行の猫。
人語を話す獣にして精霊をその身に宿すことができる種族……クローテとは違い、まじり気なしの本来の聖依獣の姿がそこにあった。
クローテの母のように人間との関わりを持つものもいるがほとんどが隠れ里に身を潜めているその種族をこのアラカルティアで見かけることは多くはない。
「マンジュの里の連絡係カッセ……コイツも“英雄”の一人だ」
長身のモラセスと並べば大人と子供ほどの身長差が生まれる小柄な英雄を、一番大柄なブオルが興味津々で見つめていた。
「じゃあここで暴れていた魔物はもしかして……」
「たまたま戻っていたデュー殿……デュランダル騎士団長と共に浄化したでござるよ」
「パパが帰ってたの!?」
「“水辺の乙女”が各地の異常を察知したゆえ、拙者に王への報告を押し付けてすぐにまた飛び出してしまったでござる」
父の話に食いつくモカに、呆れた男でござる、と溜め息をつくカッセは見た目の年齢はわかりにくいがやはり大人の顔をしていた。
「各地の異常……やはり先程の言葉はそういう意味か」
「世界各地で消えたはずの災厄の眷属が現れているのでござる。再び騎士団と“腕輪”の力が必要になるかと……」
耳慣れない単語のまじる不穏な会話を始めた大人達においてけぼりをくらったカカオは「腕輪?」と首を傾げるのだった。