7~父の瞳~
戦いを重ねてきたカカオ達五人を相手ではさすがの化物も分が悪く、次第に形勢は傾いていった。
「この人数が相手では……」
「数にもの言わせたみたいで悪いが、負けられないんでね!」
「何が目的かは知りませんが、歴史を歪めさせたりなんてさせません!」
カカオとメリーゼの息の合ったコンビネーションをかわしきれず手傷を負った魔物はぐうっと呻くと上体をくの字に曲げ、後退した。
と、その足元に影が落ちる。
「決めるっていうのは、こうやるんだよっ!」
降ってきた声に見上げればブオルが斧を振りかぶり、巨体からは想像もつかない跳躍力で魔物の頭上を狙っており……
「――!!」
「おらぁぁぁぁっ!」
そのまま振り下ろされた斧は、避ける間もなく凄まじい音を立てて魔物を両断した。
「す、すっげえ……」
歴戦の騎士の実力にカカオが思わず驚嘆の声を漏らすが、
『だから情報……』
「あっ」
当然情報など聞き出せる状態ではない化物の真っ二つになった体が脆くも朽ちていく中、やり過ぎちまった、とブオルがひきつった笑顔でランシッドを振り返った。
だが、
『とりあえず急いで帰ろう。長居は禁物だ』
「…………ああ」
戦闘が終わった途端に何か引っ掛かったような顔をした曾祖父の横顔に気付いたクローテは、じっとそれを見つめていた。
――――
時代は戻って現代のティシエール邸。
「ああ、無事だったか……!」
帰還した一行の顔を見るなり安堵に顔を綻ばせたスタードの胸に置かれた手は、消滅しかかった時の半透明ではなくなっていた。
(良かった、本当に……)
幻とはいえ一度は悲劇的な結末を視ていたメリーゼは、心底ホッとした様子で胸を撫で下ろす。
「お祖父様も、ご無事で」
「私のことなど……いや、当時の私が死んだことで何かしら影響があるのかもしれないんだったな。モラセス様も消えかかっていた」
「今はすっかり元通りだがな」
ちからこぶを作るように右腕を曲げて健在をアピールするモラセス。
しかし、直後に浮かない顔のブオルに気付く。
「その面……お前らが見てきたものはもしや……」
「モラセス様」
熊のような巨体が、一歩、もう一歩と老人の前に歩み寄り、跪く。
姿勢を低く落とすことで見上げる形になったブオルは、まっすぐに主君の紅眼に己の夕陽色のそれをぶつけた。
「あの場に私がいればスタードと同じことをしたでしょう。ですがそれは叶わず、そして今となっては昔の話……とうに解決したであろう話に過去の人間である私がどうこう言えることではありません……いえ、」
ホントは山ほどあるのですが、ひとつだけ。
続く言葉と表情に、モラセスは目を見張った。
「そんな気は薄々していましたが……恐らく、私は思ったより早く逝ってしまったのですね」
「――!」
ああ、やはり。
ブオルのその言葉でモラセスとスタードは彼らが行った過去というのがどこの場面なのかを確信した。
「モラセス様……御側にいられず、申し訳ありません」
道を踏み外し息子を傷つけた主君の姿を見て、現在の彼らを見て。
当時を責めるより何よりブオルが選んだのは、そんな謝罪だった。
「この人数が相手では……」
「数にもの言わせたみたいで悪いが、負けられないんでね!」
「何が目的かは知りませんが、歴史を歪めさせたりなんてさせません!」
カカオとメリーゼの息の合ったコンビネーションをかわしきれず手傷を負った魔物はぐうっと呻くと上体をくの字に曲げ、後退した。
と、その足元に影が落ちる。
「決めるっていうのは、こうやるんだよっ!」
降ってきた声に見上げればブオルが斧を振りかぶり、巨体からは想像もつかない跳躍力で魔物の頭上を狙っており……
「――!!」
「おらぁぁぁぁっ!」
そのまま振り下ろされた斧は、避ける間もなく凄まじい音を立てて魔物を両断した。
「す、すっげえ……」
歴戦の騎士の実力にカカオが思わず驚嘆の声を漏らすが、
『だから情報……』
「あっ」
当然情報など聞き出せる状態ではない化物の真っ二つになった体が脆くも朽ちていく中、やり過ぎちまった、とブオルがひきつった笑顔でランシッドを振り返った。
だが、
『とりあえず急いで帰ろう。長居は禁物だ』
「…………ああ」
戦闘が終わった途端に何か引っ掛かったような顔をした曾祖父の横顔に気付いたクローテは、じっとそれを見つめていた。
――――
時代は戻って現代のティシエール邸。
「ああ、無事だったか……!」
帰還した一行の顔を見るなり安堵に顔を綻ばせたスタードの胸に置かれた手は、消滅しかかった時の半透明ではなくなっていた。
(良かった、本当に……)
幻とはいえ一度は悲劇的な結末を視ていたメリーゼは、心底ホッとした様子で胸を撫で下ろす。
「お祖父様も、ご無事で」
「私のことなど……いや、当時の私が死んだことで何かしら影響があるのかもしれないんだったな。モラセス様も消えかかっていた」
「今はすっかり元通りだがな」
ちからこぶを作るように右腕を曲げて健在をアピールするモラセス。
しかし、直後に浮かない顔のブオルに気付く。
「その面……お前らが見てきたものはもしや……」
「モラセス様」
熊のような巨体が、一歩、もう一歩と老人の前に歩み寄り、跪く。
姿勢を低く落とすことで見上げる形になったブオルは、まっすぐに主君の紅眼に己の夕陽色のそれをぶつけた。
「あの場に私がいればスタードと同じことをしたでしょう。ですがそれは叶わず、そして今となっては昔の話……とうに解決したであろう話に過去の人間である私がどうこう言えることではありません……いえ、」
ホントは山ほどあるのですが、ひとつだけ。
続く言葉と表情に、モラセスは目を見張った。
「そんな気は薄々していましたが……恐らく、私は思ったより早く逝ってしまったのですね」
「――!」
ああ、やはり。
ブオルのその言葉でモラセスとスタードは彼らが行った過去というのがどこの場面なのかを確信した。
「モラセス様……御側にいられず、申し訳ありません」
道を踏み外し息子を傷つけた主君の姿を見て、現在の彼らを見て。
当時を責めるより何よりブオルが選んだのは、そんな謝罪だった。