終章~語られざる物語~

 遠く時の彼方、十五年後の未来。
 元の世界に帰ってきたアングレーズとガレは、ちょうど過去に来る時に時空の裂け目が現れた場所……パスティヤージュの外れの、古代の建造物の朽ちた残骸以外、何もない砂の大地に降り立った。

「……終わっちゃったわね」
「で、ござるな」
「これから修正が行われて、みんな忘れちゃうのかしら……なんだか、夢を見ていたみたい」

 ほう、と形の良い唇から零れる感慨深げな吐息。

 やがて、彼らの旅の記憶は……

「……!」
「これは、この記憶は……!?」

 消え行くはずの想い出は残り、過去と連結し、馴染んでいく。

 確かに、在った。

 苦しく険しい旅路の、楽しく、輝くような想い出と……

 奪われたはずの未来も、共に。

「そう、そうよ……あたしたちがどうしてこんな所に来たのか」
「みんなに、言われたのでござる……この日、この場所で、みんなで会おうと……」
「どうしてこんな何もない場所に、って尋ねても……笑って返すだけで、教えてくれなかったわ」

 あれからアングレーズもガレもそれぞれカカオたちと出会っていた。
 初対面から懐かしそうな顔をされたのが不思議で仕方なかったのを、よく覚えている。

「ずっと黙ってたなんて……いじわるでござるなあ」

 二人の目の端に涙が滲む。

 そうだ、今日は……“約束”の日。

 奇しくもそこに、がやがやと旅人らしき一団の足音や声が近づいてくる。
 ある者は背丈を伸ばし、ある者は子供を連れて……賑やかに、楽しげに談笑しながら。

「ああ、ああ……!」

 やっと、やっと逢えるんだ。
 こちらに気づいた一人が手を振るのを合図に、二人はたまらず駆け出した。

「おかえりなさい!」

 待ちに待ったその時を、彼らは抱き合い、笑い合って迎えるのだった。






――――今回のことは恐らく、多くの者の記憶には残らないだろう。

 連綿と紡がれ続けたこの世界の物語の、切り取られたほんの一部分……歴史修正の果てに消えた、もうひとつの歴史。

 そこで抗い、戦った者達がいたのだという事実を知る者は少ない。

 けれども、確かにそこに在った。

 これは時を旅した者達の、語られざる物語である――――




Tales of Masquerade2
~時空の守り人~

――完――
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