終章~語られざる物語~
「父上、用事があって東大陸のサラマンドルへ行って参ります」
「えっ、随分遠いね。急にどうしたんだい、シーフォン?」
「……仲間と共に、僕の可愛い“姫”を迎えに」
「! あはは、行っておいで」
そんな訳で熱気渦巻く闘技場都市サラマンドル。
割れるような歓声に耳を押さえてうずくまるのは、暑苦しい空間に似合わない涼やかな雰囲気の美人。
「おい、大丈夫かクローテ?」
「うう……やはり何度来ても慣れないな」
聴覚をはじめ五感に優れた聖依獣の狭間の子には、この闘技場はいろんな意味でキツいところだ。
彼らがここに来るのは初めてであり、何度目かでもある。
「ああ、今回もおるすばん……わたしも参加したかったです……」
「しょうがないだろメリーゼ。今回はアイツのためだ」
血湧き肉躍る戦士のフィールドを観客席から名残惜しそうに見つめるメリーゼ……出発前に長い髪をバッサリ切った彼女に、カカオが売店で買ったクレープを手渡した。
クリームのやわらかな甘さが、メリーゼの機嫌を少しだけ直す。
『なんかおじさんが帰った後にあったんだって?』
『そうそう。それでシーフォンがここまで来たんだ』
「いっけぇーシフォ兄! やっちゃえー!」
彼らが見守る先、今まさに試合が行われている場に歓声が飛ぶ。
「なんという番狂わせでしょう! 飛び入り参加の“王子様”がそのスマートな見た目とは裏腹の強さでまさかまさかの決勝進出! ついには我らがアイドル、パンキッドと直接対決となりましたぁぁぁぁ!」
ただでさえ地声の大きそうな実況者が興奮気味に叫び、キィンと拡声装置のハウリングが一同の耳を襲う。
そんな中でシーフォンは、待ちわびた相手の登場に微笑んだ。
微風に揺れるアンバーローズの長い髪、獣の如き眼光をギラつかせる木朽葉色の目。
「……やっと逢えたね、パンキッド」
「ん? 確か初対面だったと思うんだけど」
「まあ君のことだ。拳を交えれば思い出すんじゃないかな」
「知った風な口を……いくよ、王子様!」
高らかにゴングが鳴り、両者共に地を蹴った。
と、客席のクローテがふいに立ち上がる。
「なんだ、やっぱ辛いか?」
「……いや。ここまで来たらもう後は大丈夫だろう。私は一足先に王都に帰る」
「王都に?」
「案内する約束をしているんだ」
そこまで言うと、カカオは何かを察したようで「そっか」と笑う。
もうすぐ小さな同胞が、父に連れられて初めての王都に来る。
まだ、自分たちのことは何も知らないだろう未来の仲間が。
闘技場を去るクローテの口許には、穏やかな笑みが浮かべられていた。
「…………カカオ君」
「なんだよ?」
「約束、覚えていますか?」
「!」
ちら、と隣に座るメリーゼが見上げれば、カカオの顔が一気に赤くなる。
他の仲間は試合に夢中で、二人の様子には気づいていないようだ。
「覚えてるよ……いろんなことがありすぎて、ドタバタしてたから、その……」
「ふふ。急かすにはまだ早かったですね」
「せっかくなら、こんな騒がしいところで言うのはやめようぜ」
「はい。わたしもちゃんと聞きたいし、伝えたいですから」
ずっと傍にいた幼馴染の会話は、会場の歓声に遮られて終わる。
白熱する試合の結果は、果たして……
「えっ、随分遠いね。急にどうしたんだい、シーフォン?」
「……仲間と共に、僕の可愛い“姫”を迎えに」
「! あはは、行っておいで」
そんな訳で熱気渦巻く闘技場都市サラマンドル。
割れるような歓声に耳を押さえてうずくまるのは、暑苦しい空間に似合わない涼やかな雰囲気の美人。
「おい、大丈夫かクローテ?」
「うう……やはり何度来ても慣れないな」
聴覚をはじめ五感に優れた聖依獣の狭間の子には、この闘技場はいろんな意味でキツいところだ。
彼らがここに来るのは初めてであり、何度目かでもある。
「ああ、今回もおるすばん……わたしも参加したかったです……」
「しょうがないだろメリーゼ。今回はアイツのためだ」
血湧き肉躍る戦士のフィールドを観客席から名残惜しそうに見つめるメリーゼ……出発前に長い髪をバッサリ切った彼女に、カカオが売店で買ったクレープを手渡した。
クリームのやわらかな甘さが、メリーゼの機嫌を少しだけ直す。
『なんかおじさんが帰った後にあったんだって?』
『そうそう。それでシーフォンがここまで来たんだ』
「いっけぇーシフォ兄! やっちゃえー!」
彼らが見守る先、今まさに試合が行われている場に歓声が飛ぶ。
「なんという番狂わせでしょう! 飛び入り参加の“王子様”がそのスマートな見た目とは裏腹の強さでまさかまさかの決勝進出! ついには我らがアイドル、パンキッドと直接対決となりましたぁぁぁぁ!」
ただでさえ地声の大きそうな実況者が興奮気味に叫び、キィンと拡声装置のハウリングが一同の耳を襲う。
そんな中でシーフォンは、待ちわびた相手の登場に微笑んだ。
微風に揺れるアンバーローズの長い髪、獣の如き眼光をギラつかせる木朽葉色の目。
「……やっと逢えたね、パンキッド」
「ん? 確か初対面だったと思うんだけど」
「まあ君のことだ。拳を交えれば思い出すんじゃないかな」
「知った風な口を……いくよ、王子様!」
高らかにゴングが鳴り、両者共に地を蹴った。
と、客席のクローテがふいに立ち上がる。
「なんだ、やっぱ辛いか?」
「……いや。ここまで来たらもう後は大丈夫だろう。私は一足先に王都に帰る」
「王都に?」
「案内する約束をしているんだ」
そこまで言うと、カカオは何かを察したようで「そっか」と笑う。
もうすぐ小さな同胞が、父に連れられて初めての王都に来る。
まだ、自分たちのことは何も知らないだろう未来の仲間が。
闘技場を去るクローテの口許には、穏やかな笑みが浮かべられていた。
「…………カカオ君」
「なんだよ?」
「約束、覚えていますか?」
「!」
ちら、と隣に座るメリーゼが見上げれば、カカオの顔が一気に赤くなる。
他の仲間は試合に夢中で、二人の様子には気づいていないようだ。
「覚えてるよ……いろんなことがありすぎて、ドタバタしてたから、その……」
「ふふ。急かすにはまだ早かったですね」
「せっかくなら、こんな騒がしいところで言うのはやめようぜ」
「はい。わたしもちゃんと聞きたいし、伝えたいですから」
ずっと傍にいた幼馴染の会話は、会場の歓声に遮られて終わる。
白熱する試合の結果は、果たして……