終章~語られざる物語~
カカオはいまだ事情を把握できないメリーゼとクローテを連れ、王都にやってきた。
「モカ、シーフォン!」
「えっ、君だれ!?」
「なんだいいきなり……ああっ、メリーゼ! 任務から戻って来ていたのかい?」
城下町からマーブラム城への道のりで、旅を始める前はそもそもカカオと出会ってもいなかったふたりも巻き込んだところで、さてどうしようかと思案する。
自分が旅の記憶を取り戻せたのだから、仲間たちも何らかのきっかけで同様にできるのではないか……そこまではいいが、そのきっかけは何か、と。
そこに……
「クローテ、ここにいたか」
「スタードお祖父様?」
淡い金髪を緩く括った隻眼の、老いてはいるが立ち振る舞いに一本芯が通ったような男……クローテの祖父、スタードが現れる。
「実は、蔵を整理していたら妙なものがあってな。私の父上の遺品から、何故かお前さんあての手紙が……」
「!」
スタードの父といえば、旅の仲間だったブオルのことだ。
遺品、という響きに胸が苦しくなりながら、カカオはスタードが手にしている古びた手紙をじっと見つめた。
(ブオルのおっさんの、手紙……?)
訝しみながらも手渡されたクローテに便乗して、おそるおそる手紙を覗き見るが、中身は何も書かれていない。
「あっ、これアレだ。熱さないと色が出てこないインクだよ」
モカがそう言って魔術の火で手紙を炙る。
――――親愛なる我が子孫へ。
って書くのもなんかおかしいな。
これを読む頃には当然俺はいないんだが、元気にしているか?
あれから俺はしばらくしてあの旅のことを思い出したんだ。
自分の死期が迫っていることも……
でも、俺はそのまま俺らしく生きるよ。
お前たちが生きる未来に繋げるためにな。
だからお前たちも、自分の道を生きろ。
夢みたいな、奇跡みたいな旅路。
長いようで短い間だったけど、楽しかったぜ。
かけがえのない時間をくれた、大切な仲間たちへ――――
「ブオルのおっさん……」
「ブオル、どの……そうだ、私は……!」
未来の子孫にあてた、あるはずのない手紙。
読み終わる頃にはクローテを筆頭に仲間たちの様子が明らかに変わっていた。
『ホントはもっと書きたいこといっぱいあったけど、こういうのはどうも慣れなくてなあ』
「おっさんらしいな……って、」
背後からの聞き慣れた声にいつもの調子で返事をしたカカオが、一瞬固まる。
「えっ?」
そこにいたのは、ランシッドの隣で彼と同様に半透明の姿で笑う旅人衣装のブオルだった。
「ぶ、ブオルさん!?」
「その姿は……いや、どうしてこの時代にいるんだい?」
『はは、それがですね、王子……』
困り笑いを浮かべるブオルを押し退け、ランシッドが口を開く。
『時空修正は行われたけどやっぱり俺は未熟だからって、補助がつけられることになったんだ。そこにちょうど、己の未来、それも死を知ってしまった大罪人がいたと。修正前の記憶も取り戻してしまった。これはとんでもないことだ、と』
『罪人は死後、従霊という存在になった。二度と時空干渉が行われないよう、時の番人となったんだ』
ブオルの足元には、影が実体を得たような黒く目つきの悪い犬もいて。
カーシス、と呼ばれた犬はそっぽを向きながら『コイツほんと狡いよな』と吐き出す。
『そんな訳で……うおっ!?』
「うう、ブオルさぁん!」
「おっさーん!」
限界まで涙を溜めたカカオたちが、一斉にブオルに飛びつく。
それはむなしくすり抜けて、地面に激突してしまうのだが……
「ふふふ、愛されていますね、父上」
『スタード……きみ、いつから記憶戻ってた?』
「まあ、あんな手紙を見つけてしまってはな」
若者たちを微笑ましく見守るスタードの目は、穏やかに細められるのだった。
「モカ、シーフォン!」
「えっ、君だれ!?」
「なんだいいきなり……ああっ、メリーゼ! 任務から戻って来ていたのかい?」
城下町からマーブラム城への道のりで、旅を始める前はそもそもカカオと出会ってもいなかったふたりも巻き込んだところで、さてどうしようかと思案する。
自分が旅の記憶を取り戻せたのだから、仲間たちも何らかのきっかけで同様にできるのではないか……そこまではいいが、そのきっかけは何か、と。
そこに……
「クローテ、ここにいたか」
「スタードお祖父様?」
淡い金髪を緩く括った隻眼の、老いてはいるが立ち振る舞いに一本芯が通ったような男……クローテの祖父、スタードが現れる。
「実は、蔵を整理していたら妙なものがあってな。私の父上の遺品から、何故かお前さんあての手紙が……」
「!」
スタードの父といえば、旅の仲間だったブオルのことだ。
遺品、という響きに胸が苦しくなりながら、カカオはスタードが手にしている古びた手紙をじっと見つめた。
(ブオルのおっさんの、手紙……?)
訝しみながらも手渡されたクローテに便乗して、おそるおそる手紙を覗き見るが、中身は何も書かれていない。
「あっ、これアレだ。熱さないと色が出てこないインクだよ」
モカがそう言って魔術の火で手紙を炙る。
――――親愛なる我が子孫へ。
って書くのもなんかおかしいな。
これを読む頃には当然俺はいないんだが、元気にしているか?
あれから俺はしばらくしてあの旅のことを思い出したんだ。
自分の死期が迫っていることも……
でも、俺はそのまま俺らしく生きるよ。
お前たちが生きる未来に繋げるためにな。
だからお前たちも、自分の道を生きろ。
夢みたいな、奇跡みたいな旅路。
長いようで短い間だったけど、楽しかったぜ。
かけがえのない時間をくれた、大切な仲間たちへ――――
「ブオルのおっさん……」
「ブオル、どの……そうだ、私は……!」
未来の子孫にあてた、あるはずのない手紙。
読み終わる頃にはクローテを筆頭に仲間たちの様子が明らかに変わっていた。
『ホントはもっと書きたいこといっぱいあったけど、こういうのはどうも慣れなくてなあ』
「おっさんらしいな……って、」
背後からの聞き慣れた声にいつもの調子で返事をしたカカオが、一瞬固まる。
「えっ?」
そこにいたのは、ランシッドの隣で彼と同様に半透明の姿で笑う旅人衣装のブオルだった。
「ぶ、ブオルさん!?」
「その姿は……いや、どうしてこの時代にいるんだい?」
『はは、それがですね、王子……』
困り笑いを浮かべるブオルを押し退け、ランシッドが口を開く。
『時空修正は行われたけどやっぱり俺は未熟だからって、補助がつけられることになったんだ。そこにちょうど、己の未来、それも死を知ってしまった大罪人がいたと。修正前の記憶も取り戻してしまった。これはとんでもないことだ、と』
『罪人は死後、従霊という存在になった。二度と時空干渉が行われないよう、時の番人となったんだ』
ブオルの足元には、影が実体を得たような黒く目つきの悪い犬もいて。
カーシス、と呼ばれた犬はそっぽを向きながら『コイツほんと狡いよな』と吐き出す。
『そんな訳で……うおっ!?』
「うう、ブオルさぁん!」
「おっさーん!」
限界まで涙を溜めたカカオたちが、一斉にブオルに飛びつく。
それはむなしくすり抜けて、地面に激突してしまうのだが……
「ふふふ、愛されていますね、父上」
『スタード……きみ、いつから記憶戻ってた?』
「まあ、あんな手紙を見つけてしまってはな」
若者たちを微笑ましく見守るスタードの目は、穏やかに細められるのだった。