「仇討ちか……そーゆーコトならボクも！」
「ほざけ！　足手まといの分際でッ！」

　モカが背中の箱からぶら下がった紐のひとつを強く引くと、次々と色とりどりのボールが飛び出した。
　以前にもマナを込めたボールを投げ、攻撃手段にしていたことがあるが……

「何かと思エバそんなモノ！　そんなザコ攻撃通じねェ！」
「残念、これはいつものボールとはバージョン違いだよん」

　ある程度の追尾性を持って飛び跳ねたボールは地面に炸裂した衝撃で割れると、激しい閃光を放ち、テラの視界を灼く。

「!?　ギャアァッ！」
「確かに戦力的にはみんなには及ばないよ。でもボクにはボクの戦い方があるんだ。ダメージソースにならないなら、追加効果を狙えってね！」

　以前にカーシスと戦って自分の力が全く通用しない相手との戦闘を経験し、その時の仲間の機転から学んだ技だ。
　視界を奪われ、よろめいたテラに生まれた隙は、次の仲間の攻撃へと繋がる。

「しからば、次はそれがしがっ！」

　続いて飛び込んだガレが体勢を崩したテラに師匠仕込みの体術で流れるような連撃を浴びせる。

「チッ……」
「テラ……それがしにどういうつもりで己の過去を語ったのか、その真偽すらそれがしにはわからぬ」

　だが、と大きく引いた足で踏ん張り、溜めを作って目に見えるほどの闘気を纏い、右手に収束させて掌打と共に放つ。

「でやぁっ！」
「ぐおおっ！」

　まともに吹っ飛ばされるとようやく視界が回復してきたテラの目に、怒りに満ちた赤銅の猫目が向けられた。

「今の貴様は多くのものを奪い過ぎた。ゆえに、それがしは手心を加えぬ！　大切なものを取り戻すために！」
「ほざけ、ほざけェッ！」

　テラは尚も大量の魔物を造り出し、襲わせる。
　生まれたばかりの魔物は本能のままに牙を剥き、生あるものを害そうとするが、

「どっせぇーい！」

　図体に似合わない俊敏さと跳躍力でブオルが魔物たちの頭上を取り、勢いをつけたヒップドロップで蹴散らす。

「あらやだ、ごめんあそばせ。ブオル子ったらはしたないですわね！」
「おじちゃん、なんだかんだ自分でブオル子言ってるし……」

　ぶりっ子ポーズで可愛くおどけて見せるがマンダリンオレンジの瞳は闘争心でギラついており、全身のどこにも隙は窺えない。

「テメェは……」

　ぎり、とテラが歯軋りをする。

「テメェは死が怖クないのか!?　歴史を変えればそれも回避でキルといウのに……！」

　別の時代から屍を呼び寄せ、確定した未来の死を見せつけてやったのに、どうして折れないんだと化物は吠えた。
　対するブオルの表情は真剣で、真摯なもので。

「怖いよ。ああ怖いさ！」

　未来を知った男は真っ直ぐと臆面もなく言葉を吐き出す。

「だが同時に未来がこんなに明るく希望に満ちたものだって知れたからな。俺は俺らしく、その瞬間まで精一杯守って、愛して、生きるだけだ！」

　襲い掛かる残りの敵を斧で切り払いながら、男は叫ぶ。
　そのさまは、定められた運命としてではなく、自ら未来を切り拓いているようにも見えるものだった。