67~激昂の刃~
双剣のラッシュを受けながら、テラはメリーゼが疲れ果てるのを待っていた。
彼女の剣は動きこそ速いが受けきれる程度の威力だと、所詮は消える寸前の灯火が見せる一瞬の強い光に過ぎないと。
一撃で殺し損ねたのは残念だったが、中途半端に見出した希望の芽は摘み取る時に更なる絶望を生むはずだから……
……しかし、
(コイツ、どこにこんな力がっ……!)
次第にテラに焦りが生まれる。
攻撃を重ねるごとに、メリーゼの剣は鋭さを増していく。
たった一人で戦い、全力で動き続けて、とっくに疲れてきているはずなのに……
「!?」
違う、これは。
斬りつけられた腕がずっしりと重くなり、テラは己の変化にようやく気づいた。
カカオたちの攻撃には浄化の力が宿っているが、これはそのダメージだけではない。
「なんだ、力が抜ける……?」
浄化の力は精霊の力。
カカオたちは名工の腕輪を介して、英雄たちは大精霊から直接力を借りて、それぞれの刃に乗せている。
テラにもその刃は通るものの、他の雑魚のようにそう簡単には……と、思っていたのだが、
「!」
『気づきましたか』
メリーゼの背後に女性の姿が現れ、不敵に笑う。
「時の女神……オマエの力かッ!」
『今までさんざん利用してきた私の力……ですが同時に、今の貴方には何よりも痛いものでしょう』
その言葉で同じく時空を司る精霊であるランシッドが、ハッと思い至った。
『そうか……“時空修正”か!』
『その通りです、時の調律者。今のテラの強さは、もう一人のテラを取り込んだゆえのもの……本来ここにいるはずのない、分岐した未来の存在です』
分岐した未来の存在……カカオたちは以前、もう一人のランシッドと会ったことがある。
禁忌を冒し、力を使い果たした時空の精霊は、役目を終えると消滅していった。
『私の加護を受けたメリーゼの剣が、歪んだ歴史の有り得ない存在を修正……消滅させようとしているのですよ』
「チッ」
『まあ、そうでなくても遅かれ早かれ異なる世界線のテラはいずれ消滅しますが。わかっていて、我々を始末できればそれでいいと、融合したのでしょう?』
ここまで邪魔をしてくれたカカオたちを、アラカルティアを潰してこの溜飲さえ下げられれば、テラにとってその後はどうだって良かったのだ。
今の強大な力を失っても、カカオたちを捻じ伏せられれば、時の女神を再び取り込んでまた他の世界を時空干渉で弄ぶことができるのだから。
(一撃一撃に時空修正の力が働いている……メリーゼが優勢な理由はわかった。だが、それは同時に……)
と、ランシッドの脳裏をよぎった不安を裏付けるようにメリーゼの動きががくんと止まる。
『メリーゼ!』
「はぁ、はぁっ……」
以前、スタードが大精霊の力を引き出して倒れたのと同様に、強大な力には術者にそれなりの負担がかかるものだ。
瀕死の状態から回復したばかりで、おまけに時の女神と契約してまださほど時間が経っていないメリーゼがこれだけのことをしていれば、いつ力尽きてもおかしくない。
「……ハ、ヒャハハッ! なんだよ、もう終わりかァ?」
「くっ……!」
とうとう限界を迎え、膝をついたメリーゼに今度こそ勝利を確信したテラが迫る。
「やら、なくちゃ……わたしが、テラを……」
「わたし“たち”だろ。あんま一人で背負い込むな、メリーゼ」
俯いたメリーゼの視界に、テラのものではない影が落ちる。
彼女が顔を上げた瞬間、ふわりと舞い落ちる光の羽根と……
「わりぃ、待たせたな」
「!」
しっかりと地を踏み締めてメリーゼの前に進み出るカカオが。
そして闘志宿る瞳でテラを見据え、立ち上がる仲間たちの姿があった。
彼女の剣は動きこそ速いが受けきれる程度の威力だと、所詮は消える寸前の灯火が見せる一瞬の強い光に過ぎないと。
一撃で殺し損ねたのは残念だったが、中途半端に見出した希望の芽は摘み取る時に更なる絶望を生むはずだから……
……しかし、
(コイツ、どこにこんな力がっ……!)
次第にテラに焦りが生まれる。
攻撃を重ねるごとに、メリーゼの剣は鋭さを増していく。
たった一人で戦い、全力で動き続けて、とっくに疲れてきているはずなのに……
「!?」
違う、これは。
斬りつけられた腕がずっしりと重くなり、テラは己の変化にようやく気づいた。
カカオたちの攻撃には浄化の力が宿っているが、これはそのダメージだけではない。
「なんだ、力が抜ける……?」
浄化の力は精霊の力。
カカオたちは名工の腕輪を介して、英雄たちは大精霊から直接力を借りて、それぞれの刃に乗せている。
テラにもその刃は通るものの、他の雑魚のようにそう簡単には……と、思っていたのだが、
「!」
『気づきましたか』
メリーゼの背後に女性の姿が現れ、不敵に笑う。
「時の女神……オマエの力かッ!」
『今までさんざん利用してきた私の力……ですが同時に、今の貴方には何よりも痛いものでしょう』
その言葉で同じく時空を司る精霊であるランシッドが、ハッと思い至った。
『そうか……“時空修正”か!』
『その通りです、時の調律者。今のテラの強さは、もう一人のテラを取り込んだゆえのもの……本来ここにいるはずのない、分岐した未来の存在です』
分岐した未来の存在……カカオたちは以前、もう一人のランシッドと会ったことがある。
禁忌を冒し、力を使い果たした時空の精霊は、役目を終えると消滅していった。
『私の加護を受けたメリーゼの剣が、歪んだ歴史の有り得ない存在を修正……消滅させようとしているのですよ』
「チッ」
『まあ、そうでなくても遅かれ早かれ異なる世界線のテラはいずれ消滅しますが。わかっていて、我々を始末できればそれでいいと、融合したのでしょう?』
ここまで邪魔をしてくれたカカオたちを、アラカルティアを潰してこの溜飲さえ下げられれば、テラにとってその後はどうだって良かったのだ。
今の強大な力を失っても、カカオたちを捻じ伏せられれば、時の女神を再び取り込んでまた他の世界を時空干渉で弄ぶことができるのだから。
(一撃一撃に時空修正の力が働いている……メリーゼが優勢な理由はわかった。だが、それは同時に……)
と、ランシッドの脳裏をよぎった不安を裏付けるようにメリーゼの動きががくんと止まる。
『メリーゼ!』
「はぁ、はぁっ……」
以前、スタードが大精霊の力を引き出して倒れたのと同様に、強大な力には術者にそれなりの負担がかかるものだ。
瀕死の状態から回復したばかりで、おまけに時の女神と契約してまださほど時間が経っていないメリーゼがこれだけのことをしていれば、いつ力尽きてもおかしくない。
「……ハ、ヒャハハッ! なんだよ、もう終わりかァ?」
「くっ……!」
とうとう限界を迎え、膝をついたメリーゼに今度こそ勝利を確信したテラが迫る。
「やら、なくちゃ……わたしが、テラを……」
「わたし“たち”だろ。あんま一人で背負い込むな、メリーゼ」
俯いたメリーゼの視界に、テラのものではない影が落ちる。
彼女が顔を上げた瞬間、ふわりと舞い落ちる光の羽根と……
「わりぃ、待たせたな」
「!」
しっかりと地を踏み締めてメリーゼの前に進み出るカカオが。
そして闘志宿る瞳でテラを見据え、立ち上がる仲間たちの姿があった。