66~対峙~
「始まったか……」
北大陸クリスタリゼにある雪灯りの街、ネージュにて。
白雪降り積もる街の美しい景観は、今は突然現れた無粋な魔物によって損なわれてしまっている。
住人の避難は前もって派遣されていた騎士たちの手で迅速に行われ、魔物のほかに外にいるのは戦える者だけだ。
「青少年たち、ちゃんとやってますかね?」
「信じるしかないだろう。信じて、彼らが帰る世界を守る。それもまた“先輩”の仕事だ」
白いフードマントを被った男性ふたりが、立ち塞がるように魔物の前に進み出る。
魔物の多勢にこちらは二人……普通ならば無謀と言われても仕方ない戦力差、なのだが。
「では“いつも通り”頼むぞ、リュナン」
「了解ですよオグマさん。大船に乗ったつもりで詠唱お願いします!」
突風で外れたフードから、青褐色の長いポニーテールとホーリーグリーンの髪が現れた。
二十年前の旅路で災厄の眷属とは嫌というほど戦った英雄であり、幾度となく息を合わせた仲間のオグマとリュナンにとっては、この程度の魔物は敵ではない。
「昔取った杵柄いきますよー! よっこいしょー!」
「そんなおじさんぶって、腰を痛めたりするなよ?」
「あはは、気をつけまーす」
そんな軽口を叩きながら、リュナンは使い込んだ斧槍を手に魔物の群れへと突っ込む。
敵を引きつけるように、わざと挑発するように。
時折振るう豪快な一撃は、けれどもできるだけ街を壊さないように。
そうして魔物の注意を引いて暴れる仲間を眺めながら、オグマは一歩下がるとふっと口許を綻ばせる。
「冴え渡り天駆ける流星……」
凪いだ水面を思わせる静かな声が魔術を構成する詠唱を紡ぐ。
術者の周りの温度が更に一段階下がり、空気が冴えていく。
「その刹那の煌めきに泡沫の夢を見よ!」
指先に集まった青白い光が、高く掲げられると上空に散り、流れ星となって降り注ぐ。
広範囲の敵を一掃する氷の上級術は、地を這う魔物だけを正確に射抜いた。
「ひゃー、いつ見ても綺麗ですねえ」
「気を抜くなよ、リュナン。これで終わりとは限らないからな」
「わかってますよ。ここはカカオ青年の故郷でもあるんですから、何がなんでも守りますって」
テラが送り込んでくる魔物が無限だとは思わないが、一度開いた時空の裂け目からいつまた次が来るかわからない。
調子こそ軽いがリュナンもそれはわかっているようで、斧槍の柄にはいつでも戦えるように手がかけられている。
(我々も全力で帰る場所を守ろう。だから皆、どうか無事で……)
魔術の余韻でまばらに降る流星を見上げ、オグマは白い息を吐き出した。
北大陸クリスタリゼにある雪灯りの街、ネージュにて。
白雪降り積もる街の美しい景観は、今は突然現れた無粋な魔物によって損なわれてしまっている。
住人の避難は前もって派遣されていた騎士たちの手で迅速に行われ、魔物のほかに外にいるのは戦える者だけだ。
「青少年たち、ちゃんとやってますかね?」
「信じるしかないだろう。信じて、彼らが帰る世界を守る。それもまた“先輩”の仕事だ」
白いフードマントを被った男性ふたりが、立ち塞がるように魔物の前に進み出る。
魔物の多勢にこちらは二人……普通ならば無謀と言われても仕方ない戦力差、なのだが。
「では“いつも通り”頼むぞ、リュナン」
「了解ですよオグマさん。大船に乗ったつもりで詠唱お願いします!」
突風で外れたフードから、青褐色の長いポニーテールとホーリーグリーンの髪が現れた。
二十年前の旅路で災厄の眷属とは嫌というほど戦った英雄であり、幾度となく息を合わせた仲間のオグマとリュナンにとっては、この程度の魔物は敵ではない。
「昔取った杵柄いきますよー! よっこいしょー!」
「そんなおじさんぶって、腰を痛めたりするなよ?」
「あはは、気をつけまーす」
そんな軽口を叩きながら、リュナンは使い込んだ斧槍を手に魔物の群れへと突っ込む。
敵を引きつけるように、わざと挑発するように。
時折振るう豪快な一撃は、けれどもできるだけ街を壊さないように。
そうして魔物の注意を引いて暴れる仲間を眺めながら、オグマは一歩下がるとふっと口許を綻ばせる。
「冴え渡り天駆ける流星……」
凪いだ水面を思わせる静かな声が魔術を構成する詠唱を紡ぐ。
術者の周りの温度が更に一段階下がり、空気が冴えていく。
「その刹那の煌めきに泡沫の夢を見よ!」
指先に集まった青白い光が、高く掲げられると上空に散り、流れ星となって降り注ぐ。
広範囲の敵を一掃する氷の上級術は、地を這う魔物だけを正確に射抜いた。
「ひゃー、いつ見ても綺麗ですねえ」
「気を抜くなよ、リュナン。これで終わりとは限らないからな」
「わかってますよ。ここはカカオ青年の故郷でもあるんですから、何がなんでも守りますって」
テラが送り込んでくる魔物が無限だとは思わないが、一度開いた時空の裂け目からいつまた次が来るかわからない。
調子こそ軽いがリュナンもそれはわかっているようで、斧槍の柄にはいつでも戦えるように手がかけられている。
(我々も全力で帰る場所を守ろう。だから皆、どうか無事で……)
魔術の余韻でまばらに降る流星を見上げ、オグマは白い息を吐き出した。