66~対峙~

「アナタたちには“分岐した未来”と言ったらわかるかしら? そこでの顛末は聞かせてもらったわ。そこの職人のボウヤに倒されて、瀕死の状態で時空の狭間に飛び込んだってね」

 一瞬視線がかち合ったカカオは息を詰まらせ、全身に緊張を巡らせる。
 楽しそうに語るテラが、次の瞬間にはその笑顔のままこちらの首をはねる……そんな映像が妙に現実味を帯びて脳裏をよぎるのだ。

「……おかしいと思ったのよねぇ。時空の精霊がいるとはいえ、過去や未来から協力者が現れるなんて。最初のひとり、殺し損ねちゃったし」

 今度はクローテの首筋に冷たい刃を押し当てられるような錯覚。
 まだ戦ってもいないのに、つい最近倒したテラの分身とは明らかに格が違うと、誰もがそう感じていた。

「分岐した未来のアタシは、ちゃあんとアナタを殺したのね? ダメじゃない、あそこで死ななきゃ物語がおかしくなっちゃうわ」
「う……」

 そう言いながら立ち竦むクローテにゆっくりと迫るテラ。
 マニキュアで飾られた長い指が舐めるような動きでその頬に触れ……

「おかしくしたのは貴様だ」
「ッ!」

 瞬間、テラの手が弾かれる。
 間に割って入ったのはガレとアングレーズ……未来から来た二人だった。

「話をすり替えているわね。もともと歴史に介入してる異物はあなたなのよ、テラ」
「勝手に弄って歪めておきながら、思い通りにならないとおかしいなどと……筋違いにも程があろう!」

 日頃穏やかな彼らに、今はその面影はない。
 歪められた歴史の中でかつて大切な存在を喪ったふたりの目は、真っ直ぐに宿敵を射貫くようで。

「やあねぇ、暑苦しい」

 テラはうんざりした様子で一度クローテから離れると、今度はブオルの方へ。

「そっちのアナタはどう? このまま歴史を修正して元の時代に帰れば、そう遠くない未来に惨めな死が待ってるのよ」

 クスクスと嘲笑うテラに、仲間たちが一斉に殺気立つ。
 ブオルは落ち着いた声音で「大丈夫」と告げた。

「お前につけば歴史を歪めてその未来を回避できる、ってか。お誘いの答えはノーだ。俺が命を賭したということは、仲間でも、民でも、誰かを全力で守ったんだろうからな」

 途端にテラから張りついた笑顔が消え、表情から温度が消える。
 ひん曲がった口から、ちっ、と舌打ちが零れた。

「百点満点の英雄サマかよ。つまんねー答え」

 空気がざわつき、テラの気配が変わる。

「どいつもこいつも気に入らねえ目だ……」

 周囲が、元は本体だったモノが集まり、テラと融合する。

「テメエらの死体をここに飾って、くり抜いた目玉をサッカーボールにしてやるよッ! メデタシメデタシってなァ!」

 上半身をそのまま残し、出来上がったのは大蛇の下半身。
 長い髪を振り乱して吠える化物に、一行はそれぞれの武器を構えた。
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