66~対峙~
――――おれがなにをしたというんだ。
ただ、おそわれたからくっただけだ。
バケモノ……『化物』?
ヒテイするのか、我の存在ヲ。
嫌いだ、嫌いだ、みんな嫌いだッ!
ぼくを否定する何もかも、バケモノ退治してヘラヘラもてはやされるエイユウなんて!
だから全部壊してやる。
当たり前のように存在する“ハッピーエンド”の物語なんて。
誰もアタシを否定シナイ世界……アタシだけの物語を作る。
ストーリーテラー……そうだ、アタシは……――――
暗く冷たく、不気味に湿ったテラの本体の中。
そんな、一番近い場所に来たからか、メリーゼの中にはテラの記憶らしき光景が流れ込んできた。
今回は動揺や苦しむこともなく、ただひとつ、深く呼吸をして彼女は左右で色の異なる目をそっと開く。
「……女神様」
『何かしら、メリーゼ?』
「テラも……もしも始まりが違っていたら、こんなことにはならなかったのでしょうか」
女神から即座の返答はなかった。
その間は、返す言葉を選んで、思案するもので。
『……そうかもしれませんね。ですが、現実に“この歴史”ではそうならなかった。メリーゼ、まさかテラに、』
「いいえ、情けはかけません。テラに消された多くの世界のためにも、そんなことはできない」
ほ、と女神が安堵の息を零す。
同情に剣を鈍らせれば、狡猾なテラは必ずそこを突いてくるだろう。
時の女神の契約者で決戦の要でもあるメリーゼの死は、恐らくアラカルティアの滅亡に直結すると言っても過言ではない。
『まずは終わらせましょう。そして歴史を本来のものに正すのです。それから……』
「女神様……?」
『いいえ、なんでも』
引っ掛かる物言いにメリーゼがこれ以上追及することは叶わなかった。
「ムカつく目をしてやがる……エイユウの目だ」
広場のような場所に着いた途端に響いた声。
カカオたちの全身を、ぞくりとした悪寒が駆け巡った。
(なに、この嫌な感じは!?)
肌が粟立つ感覚にパンキッドの足が我知らず一歩下がる。
目の前に現れたのは、ぼんやりと佇む道化師の女……これまで幾度となく現れ、戦ってきたテラの分身。
長いマゼンタの髪はポニーテールを解き、顔を多い隠すように前へと垂れて。
そこから僅かに覗いた黒く濁った白目の眼光が相対する敵を捉えている。
「なんで、分身がこんな威圧を放っているんだ……!」
『肉体のない俺にも……いいや、精霊の身だからこそわかる……これはもう、』
分身なんかじゃない。
ランシッドがそう言うと、時の女神も呻くように声を発した。
『あのテラから感じるのは本体の気配……もしや……』
「ああ、ご推察の通りさ」
ニタニタと笑いながらテラは髪をかき上げる。
「お前らが本体だと思っているモノはもうただの抜け殻……今はアタシが本体だ」
『ですが、それだけではありませんね。この膨れ上がる圧は、まるでテラが二人いるような……』
女神が言及すると、テラはいつもの顔に……掴みどころのない道化師に戻る。
「やだ、そんなコトまでわかるのぉ? そう、実はねぇ……」
けらけらと笑い、歌うように、紙芝居を読み聞かせるように……
「アタシは喰ったのよ。もうひとりの“テラ”を」
そう告げると、赤々とした口を開き、舌舐めずりをして見せた。
ただ、おそわれたからくっただけだ。
バケモノ……『化物』?
ヒテイするのか、我の存在ヲ。
嫌いだ、嫌いだ、みんな嫌いだッ!
ぼくを否定する何もかも、バケモノ退治してヘラヘラもてはやされるエイユウなんて!
だから全部壊してやる。
当たり前のように存在する“ハッピーエンド”の物語なんて。
誰もアタシを否定シナイ世界……アタシだけの物語を作る。
ストーリーテラー……そうだ、アタシは……――――
暗く冷たく、不気味に湿ったテラの本体の中。
そんな、一番近い場所に来たからか、メリーゼの中にはテラの記憶らしき光景が流れ込んできた。
今回は動揺や苦しむこともなく、ただひとつ、深く呼吸をして彼女は左右で色の異なる目をそっと開く。
「……女神様」
『何かしら、メリーゼ?』
「テラも……もしも始まりが違っていたら、こんなことにはならなかったのでしょうか」
女神から即座の返答はなかった。
その間は、返す言葉を選んで、思案するもので。
『……そうかもしれませんね。ですが、現実に“この歴史”ではそうならなかった。メリーゼ、まさかテラに、』
「いいえ、情けはかけません。テラに消された多くの世界のためにも、そんなことはできない」
ほ、と女神が安堵の息を零す。
同情に剣を鈍らせれば、狡猾なテラは必ずそこを突いてくるだろう。
時の女神の契約者で決戦の要でもあるメリーゼの死は、恐らくアラカルティアの滅亡に直結すると言っても過言ではない。
『まずは終わらせましょう。そして歴史を本来のものに正すのです。それから……』
「女神様……?」
『いいえ、なんでも』
引っ掛かる物言いにメリーゼがこれ以上追及することは叶わなかった。
「ムカつく目をしてやがる……エイユウの目だ」
広場のような場所に着いた途端に響いた声。
カカオたちの全身を、ぞくりとした悪寒が駆け巡った。
(なに、この嫌な感じは!?)
肌が粟立つ感覚にパンキッドの足が我知らず一歩下がる。
目の前に現れたのは、ぼんやりと佇む道化師の女……これまで幾度となく現れ、戦ってきたテラの分身。
長いマゼンタの髪はポニーテールを解き、顔を多い隠すように前へと垂れて。
そこから僅かに覗いた黒く濁った白目の眼光が相対する敵を捉えている。
「なんで、分身がこんな威圧を放っているんだ……!」
『肉体のない俺にも……いいや、精霊の身だからこそわかる……これはもう、』
分身なんかじゃない。
ランシッドがそう言うと、時の女神も呻くように声を発した。
『あのテラから感じるのは本体の気配……もしや……』
「ああ、ご推察の通りさ」
ニタニタと笑いながらテラは髪をかき上げる。
「お前らが本体だと思っているモノはもうただの抜け殻……今はアタシが本体だ」
『ですが、それだけではありませんね。この膨れ上がる圧は、まるでテラが二人いるような……』
女神が言及すると、テラはいつもの顔に……掴みどころのない道化師に戻る。
「やだ、そんなコトまでわかるのぉ? そう、実はねぇ……」
けらけらと笑い、歌うように、紙芝居を読み聞かせるように……
「アタシは喰ったのよ。もうひとりの“テラ”を」
そう告げると、赤々とした口を開き、舌舐めずりをして見せた。