64~剣と鞘と~
カカオとメリーゼが転移させられたのは、人工物と生物が融合したような、やはり黒々として暗い場所だった。
雰囲気を見るに、テラの居城らしき建造物の内部、そのひと部屋だろうか……二人は辺りを見回し、その不気味さに息を呑んだ。
「ここは……中に連れて来られた、のか?」
カカオの呟きでメリーゼはハッと我にかえる。
「カカオ君……ごめんなさい、あなたまで巻き込まれてしまうなんて」
転移の陣はメリーゼの足元に発生していた。
自分を助けようとして、カカオも道連れになってしまった……咄嗟のこととはいえ、仲間を危険に晒してしまったことに少女は申し訳無さそうに彼を見上げるが、
「謝んな」
対するカカオの返答はぴしゃりと、けれども優しい一言で。
「二人ならなんとかできるかもしれないだろ。だから、これでいいんだよ」
仲間なんだから、と続ける彼の横顔は、微塵も後悔などしていなかった。
「それに、オレはお前が……」
「え?」
だが、カカオの言葉は途中で遮られることとなる。
『アラカルティアの希望……“剣”と“鞘”。よくぞここまで来てくださいました』
「「!」」
突然の声に、二人はすぐさま警戒を張り巡らせた。
暗い部屋の一角が仄かに照らされ、その詳細が明らかになる。
「アンタは……」
そこにはひとりの女性がいた。
長い長い、それこそ身の丈よりものびたエメラルドグリーンの髪がまず目に入る。
次いでその顔立ち……表情こそ天地ほどの差があるが、ふたりにとって見覚えのある顔をしていた。
「テラと、同じ顔……?」
テラがよく見せる醜く歪んだ表情からはわかりにくいが、素の顔は確かに同じに見える。
そして、それが意味することは。
「もしかして……いえ、貴女は……テラに滅ぼされた世界の“時の女神”ですね。そしてわたしたちを呼んだのも」
『ええ、その通りです』
声質もテラと似ているが、時の女神のそれは穏やかに心地よく響くものだった。
「け、けどテラに喰われたんじゃ……」
『今もそうです。ここはテラの体内も同じなのですから』
「っ!?」
どくん、どくんと脈打つ音が聴こえ、ふたりは凍りついた。
「体内……本体の、ってことか……?」
時折姿を見せることがあった、目の前の女性の姿をベースに作られたと思われる道化師……あれはテラの分身だと聞いていた。
まさかその本体が人間よりも遥かに巨大な建造物となっているとは、想像すらしなかったことである。
敵の本拠地どころか、いつの間にかその内部まで来ていた……ともすれば、自分たちも彼女のように“喰われて”しまうかもしれないのだという事実に青ざめる。
『普通の生物の体内とは少し違いますが……ここに繋がれている限り私の力はテラに吸われ続けているのです』
「じゃ、じゃあ早く逃げねーと!」
『そう、逃げださないといけない……そのために貴方たちを呼びました。私ひとりでは、それが叶わないから……』
よく見ればこの部屋には出口がなく、女神の手足には黒い紐状の光が絡みついている。
恐らく、カカオたちを転移させたのも彼女が自由に使える僅かな力を振り絞ってのことだろう。
『時空の精霊と繋がりながらアラカルティアの世界に生きる“ヒト”である少女よ。我が身を貴女に託します』
時の女神はメリーゼを真っ直ぐに見据え、か細く白い手を彼女のそれに重ねた。
雰囲気を見るに、テラの居城らしき建造物の内部、そのひと部屋だろうか……二人は辺りを見回し、その不気味さに息を呑んだ。
「ここは……中に連れて来られた、のか?」
カカオの呟きでメリーゼはハッと我にかえる。
「カカオ君……ごめんなさい、あなたまで巻き込まれてしまうなんて」
転移の陣はメリーゼの足元に発生していた。
自分を助けようとして、カカオも道連れになってしまった……咄嗟のこととはいえ、仲間を危険に晒してしまったことに少女は申し訳無さそうに彼を見上げるが、
「謝んな」
対するカカオの返答はぴしゃりと、けれども優しい一言で。
「二人ならなんとかできるかもしれないだろ。だから、これでいいんだよ」
仲間なんだから、と続ける彼の横顔は、微塵も後悔などしていなかった。
「それに、オレはお前が……」
「え?」
だが、カカオの言葉は途中で遮られることとなる。
『アラカルティアの希望……“剣”と“鞘”。よくぞここまで来てくださいました』
「「!」」
突然の声に、二人はすぐさま警戒を張り巡らせた。
暗い部屋の一角が仄かに照らされ、その詳細が明らかになる。
「アンタは……」
そこにはひとりの女性がいた。
長い長い、それこそ身の丈よりものびたエメラルドグリーンの髪がまず目に入る。
次いでその顔立ち……表情こそ天地ほどの差があるが、ふたりにとって見覚えのある顔をしていた。
「テラと、同じ顔……?」
テラがよく見せる醜く歪んだ表情からはわかりにくいが、素の顔は確かに同じに見える。
そして、それが意味することは。
「もしかして……いえ、貴女は……テラに滅ぼされた世界の“時の女神”ですね。そしてわたしたちを呼んだのも」
『ええ、その通りです』
声質もテラと似ているが、時の女神のそれは穏やかに心地よく響くものだった。
「け、けどテラに喰われたんじゃ……」
『今もそうです。ここはテラの体内も同じなのですから』
「っ!?」
どくん、どくんと脈打つ音が聴こえ、ふたりは凍りついた。
「体内……本体の、ってことか……?」
時折姿を見せることがあった、目の前の女性の姿をベースに作られたと思われる道化師……あれはテラの分身だと聞いていた。
まさかその本体が人間よりも遥かに巨大な建造物となっているとは、想像すらしなかったことである。
敵の本拠地どころか、いつの間にかその内部まで来ていた……ともすれば、自分たちも彼女のように“喰われて”しまうかもしれないのだという事実に青ざめる。
『普通の生物の体内とは少し違いますが……ここに繋がれている限り私の力はテラに吸われ続けているのです』
「じゃ、じゃあ早く逃げねーと!」
『そう、逃げださないといけない……そのために貴方たちを呼びました。私ひとりでは、それが叶わないから……』
よく見ればこの部屋には出口がなく、女神の手足には黒い紐状の光が絡みついている。
恐らく、カカオたちを転移させたのも彼女が自由に使える僅かな力を振り絞ってのことだろう。
『時空の精霊と繋がりながらアラカルティアの世界に生きる“ヒト”である少女よ。我が身を貴女に託します』
時の女神はメリーゼを真っ直ぐに見据え、か細く白い手を彼女のそれに重ねた。