63~見出した光~

「そういえば……もうひとつ謝らなければならないことがあったな」
「にゃ?」

 周囲を探りながら進む最中、しばらくしてまた口を開いたクローテにガレは首を傾げる。

「私がお前の尻尾を掴んでしまったせいで我々が固まって行動していることだ。分散していれば、他のみんなを見つけるのも早かったかもしれないだろう?」
「ああ、そういうことでござったか」

 聖依獣の血を引く二人は他の仲間より五感が鋭敏なため、探知能力が高い。
 実際、彼らの足は余計な戦闘を避けながら、迷うことなく進んでいる。

「確かにそうかもしれぬが……一人で行動するより安全でござろう? これで良かったのでござるよ」
「む」
「……ほら、だって」

 言葉を止めたガレが視線で行く先を示すと、そこには旅の初期によく見たテラの“駒”達がうじゃうじゃと集まる広場があった。
 そして残念なことに、ガレたちが進む道はその広場を通った先に続いているのだ。

「避けられない戦いというのは、やはりあるのでござるよ」
「なるほど、それもそうか」

 仕掛けるなら速攻で。
 互いに目配せをするとガレが構え、一気に地を蹴る。
 同時にクローテは目を閉じて上級術の詠唱に入った。

「時間稼ぎは任せるでござる!」

 大柄な見た目とは裏腹に軽やかな動きで黒猫は跳び、いくつかの人形の頭を踏み台にして敵の中心に滑り込む。
 手にしたブーメランに雷を纏わせると、ぐるりと振り回して手近な敵を薙ぎ払った。

 その派手な立ち回りは注目を集め、人形たちは寄ってたかってガレに攻撃を集中させる。

「おっと! にゃっ、ははは、動きが単調でござるよー!」

 けらけらと笑いながらイシェルナ譲りの体術で敵の攻撃を捌いて、きっちり反撃を当てていく。

(本当に……頼もしい奴だ)

 一瞬だけ微笑みに口許を緩ませたクローテが、水のマナを両手に集め、激流を作り上げる。

「母なる大海よ、その抱擁で悪しき穢れを雪ぎ、無へと還せ!」

 水は龍へと姿を変え、クローテを中心に渦を巻き、有無を言わせぬ力で全ての敵を呑み込み押し流してしまう。
 大規模な術だが、魔術で生み出した水は本物のそれと違い術者や仲間に牙を剥くことはない。
 綺麗に洗い流された広場に、最後はガレとクローテを残すのみとなった。

「お見事にござるな」
「ガレが時間を作ってくれたお陰だ」

 とん、と互いの拳を軽く打って笑い合う。
 クローテの表情には出会った当初のような強張りはなく、心からガレを信頼しているそれだ。

「お前がいれば怖いものなしだな」
「!」

 その、瞬間。

――お前がいれば怖いものなどありはしない――

 記憶の中から別の声が響いた気がして、ガレは思わず固まった。
 目の前の少年よりも大人びた、甘やかで落ち着いた声の持ち主は……

「……ガレ?」
「あ……」

 現実に呼び戻されたガレは、不思議そうに見上げるクローテを見つめ返し、

「……必ず、取り戻してみせるでござるよ」

 その場しのぎのものでもない、心からの顔で笑ってみせた。

 世界を救うために消えた、未来を失った者たちの戦い……その終わりは、近い。
 ガレは変化していく己の記憶にそのことを感じながら、また一歩前へと踏み出すのだった。
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