63~見出した光~
一寸先は闇、という言葉を体現したような先の見えない暗闇に仄かに光を発する足場が浮かぶだけの空間。
これまで転移した中でもひと目で特殊だとわかる、アラカルティアの世界にはない場所……テラの本拠地である異空間に飛び込んだカカオ達は、強い力に引っ張られて散り散りに飛ばされてしまっていた。
仲間とはぐれて周りの様子もわからない、そんな絶対絶命の状況で。
「すまない! 本っ当にすまなかった!」
必死な声音で平謝りする者がひとり。
水色の装束を纏い、ゆるく癖のある紫がかった銀髪を三つ編みにした中性的な美少年……クローテが、兎のような長い獣耳をぺたんと寝かせ、長い睫毛に縁取られた青藍の目をぎゅっと瞑って心底申し訳なさそうに頭を下げている。
そして、彼がひたすら謝るその相手は……
「だ、大丈夫でござるよう……ちょ、ちょっと痛かっただけで……ほら、治癒術もかけてもらえたゆえ」
「とか言いながらまだ涙目じゃないか! あああなんてことをしてしまったんだ……とっさのこととはいえ、」
ガレの尻尾を掴んでしまうなんて。
地面にへたりこむガレは、平気だと笑顔こそ作っているが引き攣っており、ぷるぷると震えて無理をしているのがわかる。
この空間に来た時、他の仲間たち同様に彼らも弾き飛ばされてしまったのだが、その時に事件は起こった。
強い力に流されながら、どうにか留まろうと抵抗したクローテは本能的に目の前にあった長く頑丈そうなロープを掴んだ……つもりだった。
けれどもロープだと思ったそれはガレの長い尻尾だったのだ。
お陰で彼らは離れ離れにならず、結果的には生存率を大幅に上げたと言えるだろうが、その代償はあまりにも大きかった……ここに飛ばされる直前のガレの断末魔が、今もクローテの耳に残っている。
種類は多少違えど、同じように尻尾を持つ身としてどれほどの苦痛を与えてしまったのか余計に考えてしまうのだろう。
だからクローテは珍しく取り乱して頭を下げているのだ。
「ふふ」
ふにゃ、と気の抜けた笑みを浮かべるガレを怪訝に思い、クローテが顔を上げた。
「な、なんだ?」
「いや、こんなに慌てるクローテどのはレアでござるなーと」
「むっ……」
ガレは何も気にしていないどころか、今の状況を楽しんでいるらしい。
そのへらへら顔を見ていると、なんだか真面目に心配していたのが馬鹿らしくなってきて……
「治ったようだな。行くぞ!」
「にゃんっ、蹴らないでクローテどのぉ!」
クローテはムスッと口を尖らせて、歩く所作の延長線上で後ろから小突くようにガレを軽く蹴るのだった。
これまで転移した中でもひと目で特殊だとわかる、アラカルティアの世界にはない場所……テラの本拠地である異空間に飛び込んだカカオ達は、強い力に引っ張られて散り散りに飛ばされてしまっていた。
仲間とはぐれて周りの様子もわからない、そんな絶対絶命の状況で。
「すまない! 本っ当にすまなかった!」
必死な声音で平謝りする者がひとり。
水色の装束を纏い、ゆるく癖のある紫がかった銀髪を三つ編みにした中性的な美少年……クローテが、兎のような長い獣耳をぺたんと寝かせ、長い睫毛に縁取られた青藍の目をぎゅっと瞑って心底申し訳なさそうに頭を下げている。
そして、彼がひたすら謝るその相手は……
「だ、大丈夫でござるよう……ちょ、ちょっと痛かっただけで……ほら、治癒術もかけてもらえたゆえ」
「とか言いながらまだ涙目じゃないか! あああなんてことをしてしまったんだ……とっさのこととはいえ、」
ガレの尻尾を掴んでしまうなんて。
地面にへたりこむガレは、平気だと笑顔こそ作っているが引き攣っており、ぷるぷると震えて無理をしているのがわかる。
この空間に来た時、他の仲間たち同様に彼らも弾き飛ばされてしまったのだが、その時に事件は起こった。
強い力に流されながら、どうにか留まろうと抵抗したクローテは本能的に目の前にあった長く頑丈そうなロープを掴んだ……つもりだった。
けれどもロープだと思ったそれはガレの長い尻尾だったのだ。
お陰で彼らは離れ離れにならず、結果的には生存率を大幅に上げたと言えるだろうが、その代償はあまりにも大きかった……ここに飛ばされる直前のガレの断末魔が、今もクローテの耳に残っている。
種類は多少違えど、同じように尻尾を持つ身としてどれほどの苦痛を与えてしまったのか余計に考えてしまうのだろう。
だからクローテは珍しく取り乱して頭を下げているのだ。
「ふふ」
ふにゃ、と気の抜けた笑みを浮かべるガレを怪訝に思い、クローテが顔を上げた。
「な、なんだ?」
「いや、こんなに慌てるクローテどのはレアでござるなーと」
「むっ……」
ガレは何も気にしていないどころか、今の状況を楽しんでいるらしい。
そのへらへら顔を見ていると、なんだか真面目に心配していたのが馬鹿らしくなってきて……
「治ったようだな。行くぞ!」
「にゃんっ、蹴らないでクローテどのぉ!」
クローテはムスッと口を尖らせて、歩く所作の延長線上で後ろから小突くようにガレを軽く蹴るのだった。