61~見送る者たち~

「彼らは旅立ったよ、デュラン」
「おう。見送りお疲れさん」

 地下深くから城に戻った王を迎えたのは、騎士団長であり英雄でもある男。
 そしてかつての旅の仲間……デューことデュランダル・ロッシェその人であった。

「……仕掛けてくると思うかい?」
「十中八九な。時空干渉以外でも、テラの奴はこれまで何度かこの世界に揺さぶりをかけてきた」

 だからこそ、と続けるデューは髪よりやや濃い色の顎髭を撫でる。

「王都に限らず各地の主要な都市から小さな村まで、まんべんなく人員を送り込んだ。まあ、何事もなかったら土産でも買ってこいと言ってあるけどよ」
「それは楽しみだね。僕もすっかり出かけられなくなったからなあ」
「パスティヤージュにはフィノたちが、マンジュにはイシェルナやカッセもいる。こちらの足りない手を補ってくれるだろう」
「久しぶりに彼女たちにも会いに行きたいなあ」
「終わってからにしろよ、英雄王サマ」

 どこか気の抜けた会話をしつつ、トランシュの足どりは僅かにふらついていた。

「……おいおい、大丈夫かよ」
「うーん……ちょっとだけ眠い、かな」
『強力な結界を張った反動だな。少し休んだ方がいい』

 背中から第三、第四の腕を生やした契約精霊の“万物の王”も顔を出し、トランシュを覗き込む。
 城に引き込もって鈍っていると言ってはいるが、トランシュの体力は人並み外れており、まだまだ衰えてはいないはずで……大精霊を束ねる精霊王の力を行使するということは、それだけ消耗の大きい行為なのだ。

「じゃあ、少しだけ休ませてもらうよ。その間は……」
「おう、どんと任せとけ!」

 大丈夫かなあ、などと軽口を叩きながらトランシュは自室の方へと向かっていく。
 それでも無理をせず言われた通り休むのは、デューを信頼している証拠だ。

「さーて、任されたからには……ここが気の張りどころ、だな」
『あら、張り切りすぎて腰とか痛めないでくださいよ?』
「はっはっは、オレの腰はばっちり現役だぜ!」
『意味がわかりませんが』

 水煙を纏った青白い肌の美女、水の大精霊“水辺の乙女”は、自信満々に胸を張り、これぞまさしくドヤ顔といった感じに口の端を上げる契約者に呆れて溜息を吐いた。

「後輩たちが頑張ってるんだ。先輩として、あいつらが帰るところを守ってやらなくちゃな」
『……ええ、そうですね』

 二十年前、災厄に奪われた空を取り戻そうとデューたちは戦った。
 その時は送り出される側、そして今回は送り出す側。

「いくぞ」

 小さく、低く発した声は、けれどもしっかりと通るものだった。
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