60~終わりへのスタートライン~
『いや……手がない訳じゃないよ』
ランシッドが静かに発した声に、場の注目が集まった。
『そもそも毎回干渉された時代に飛んでいたのは、俺達が後手に回っていたから。既に行われていた時空干渉を追いかける形になっていただけだ』
それは以前にも触れていたことだった。
異変を察知してから、その場所に向かう……それがこれまでのパターンであり、カカオ達は常にそうせざるを得ない状況に置かれていたのだ。
『神出鬼没のテラの居場所がわかっていなかったことと、もし直接乗り込めたとしても恐らく奴にはまるで敵わないだろうこと……後手に回っていた理由はこのふたつ』
「今そうやってワザワザ言うってことは、もしかしておじちゃん……」
『クリアできそうなんだよ。そのふたつの問題がね』
分身とはいえ、カカオたちは今回の戦いでテラと互角かそれ以上に渡りあってみせた。
以前は全く歯が立たなかったのに……日ごと着実に変わっていく彼らの成長ぶりに、時精霊は希望を持ったのだ。
『テラ本体の強さがどれほどのものか……あまり確実とは言い難いが、それでも前より格段に、君たちの拳はテラに届くようになったと思う』
「ランシッド様がそう仰るということは、賭けに出られるだけのものは揃っているのですね」
『ああ、その通りさダクワーズ。かつての君やデューたちのようにね』
生前からランシッドをよく知るダクワーズは、その言葉にカカオたちひとりひとりへと視線を移した。
世界の希望を背負った若者たちの姿は、二十年前のそれと重なって見えるような気がして……
「けどお父様、テラの居場所がわかるのですか?」
と、もうひとつの問題に触れたのは娘のメリーゼだった。
異世界に干渉して次々に滅ぼすテラが、このアラカルティアのどこかにいるとは考えにくい……そうなると、どうやって探せばいいのだろうか。
『まあそれも“わかるかもしれない”ってところなんだけど……たぶんイケるよ。ダクワーズがいて、本来の力も出せるようになったからね。それにこっちには“鍵”がある』
「鍵?」
ランシッドの視線がゆっくりと動き、そして、
「……へ? それがし、でござるか……?」
仲間と同様ににその視線を追っていたガレに合わせ、ぴたりと止まる。
赤銅色の猫目が、きょとんと瞬いた。
『そりゃあそうだよ。何せこの中で唯一、テラの本拠地に行ったことがあるんだから』
「そ、そういえば……!」
ガレは一度テラの術で操り人形にされ、連れ去られたことがあった。
「けれども移動は一瞬の転移でござったし、場所もよくは……」
『行ったことがある、という事実だけで充分さ』
ふわりと浮いてガレに近づくと、その胸板をトンと軽く叩いてランシッドは笑う。
『俺は時空を司る精霊。今までだって色んな情報を辿って君たちを必要な場所に転移していたんだ』
だから“一度行ったことがある”というのは、とても大きなヒントになるのだと語って。
『君の中にあるテラの残滓……辿らせてもらうよ、ガレ』
僅かな可能性も見逃さない……見逃してたまるか。
時精霊の顔は、希望の糸口を掴んだ者のそれだった。
ランシッドが静かに発した声に、場の注目が集まった。
『そもそも毎回干渉された時代に飛んでいたのは、俺達が後手に回っていたから。既に行われていた時空干渉を追いかける形になっていただけだ』
それは以前にも触れていたことだった。
異変を察知してから、その場所に向かう……それがこれまでのパターンであり、カカオ達は常にそうせざるを得ない状況に置かれていたのだ。
『神出鬼没のテラの居場所がわかっていなかったことと、もし直接乗り込めたとしても恐らく奴にはまるで敵わないだろうこと……後手に回っていた理由はこのふたつ』
「今そうやってワザワザ言うってことは、もしかしておじちゃん……」
『クリアできそうなんだよ。そのふたつの問題がね』
分身とはいえ、カカオたちは今回の戦いでテラと互角かそれ以上に渡りあってみせた。
以前は全く歯が立たなかったのに……日ごと着実に変わっていく彼らの成長ぶりに、時精霊は希望を持ったのだ。
『テラ本体の強さがどれほどのものか……あまり確実とは言い難いが、それでも前より格段に、君たちの拳はテラに届くようになったと思う』
「ランシッド様がそう仰るということは、賭けに出られるだけのものは揃っているのですね」
『ああ、その通りさダクワーズ。かつての君やデューたちのようにね』
生前からランシッドをよく知るダクワーズは、その言葉にカカオたちひとりひとりへと視線を移した。
世界の希望を背負った若者たちの姿は、二十年前のそれと重なって見えるような気がして……
「けどお父様、テラの居場所がわかるのですか?」
と、もうひとつの問題に触れたのは娘のメリーゼだった。
異世界に干渉して次々に滅ぼすテラが、このアラカルティアのどこかにいるとは考えにくい……そうなると、どうやって探せばいいのだろうか。
『まあそれも“わかるかもしれない”ってところなんだけど……たぶんイケるよ。ダクワーズがいて、本来の力も出せるようになったからね。それにこっちには“鍵”がある』
「鍵?」
ランシッドの視線がゆっくりと動き、そして、
「……へ? それがし、でござるか……?」
仲間と同様ににその視線を追っていたガレに合わせ、ぴたりと止まる。
赤銅色の猫目が、きょとんと瞬いた。
『そりゃあそうだよ。何せこの中で唯一、テラの本拠地に行ったことがあるんだから』
「そ、そういえば……!」
ガレは一度テラの術で操り人形にされ、連れ去られたことがあった。
「けれども移動は一瞬の転移でござったし、場所もよくは……」
『行ったことがある、という事実だけで充分さ』
ふわりと浮いてガレに近づくと、その胸板をトンと軽く叩いてランシッドは笑う。
『俺は時空を司る精霊。今までだって色んな情報を辿って君たちを必要な場所に転移していたんだ』
だから“一度行ったことがある”というのは、とても大きなヒントになるのだと語って。
『君の中にあるテラの残滓……辿らせてもらうよ、ガレ』
僅かな可能性も見逃さない……見逃してたまるか。
時精霊の顔は、希望の糸口を掴んだ者のそれだった。