59~その拳、届く時~

「滅ぼしたどの世界の奴らも、外側から軽くつついてやっただけで簡単に消えていった……雑魚どもがここまで這い上がってきたのは褒めてやる」

 ここまで、というのはこのテラと対峙するところまでということだろう。
 時空干渉で異なる時代、恐らく無防備なタイミングを狙われて、どうにかできることの方が稀だが……カカオ達には幾多の偶然と、本人達が積み重ねてきたものが助けとなり、乗り越える力となっていた。

「口調がすっかり変わっているな。もう余裕はないということか?」

 ふ、とクローテが青藍の目を細め、口の端を上げた。

「ハッ、テメェこそあの時のブルッてた面が嘘みたいじゃねェかよッ! お仲間チャンと群れるとそんなに安心するのかァ?」
「借り物の顔をそんな醜悪に歪めるな。品がない」
「あァ!?」

 煽り合戦は彼に軍配が上がったようで、テラの顔が一層歪む。

「……今度こそ……ズタズタのバラバラにしてやるッ!」

 瞬間、道化師の姿は三体に分裂した。

「うっそ、増えた!?」
「もともとあれ自体が分身みたいなものらしいし、そこからまた増えるのくらいワケないんじゃないか?」

 驚くモカに、ブオルは冷静な分析を述べる。
 一人でもとてつもない強敵だというのに、全く同じ見た目がいきなり三人に増えた光景に、げんなりした顔で少女が呻く。

「インチキでしょ、それ……」
「そうかな?」
「へ?」
「まあでも、頭数が増えられたら厄介には違いないか」

 言いながらブオルが斧を構え、敵の一体に狙いを定める。

「多方向から同時攻撃されたら危険です! 分散して一体ずつ対処しましょう!」
「こっちも人数いるんだしね! じゃ、アタシはあっち!」

 前衛がまず散開し、固まっていた陣形を崩す。
 彼らがこれまでの旅でどれだけ戦い慣れてきたのか……淀みなく流れていく戦況を眺めながら、ランシッドはしみじみと考えていた。

 一方で、宿敵を前にそれぞれの胸中にも思うところが。

(あの時感じたような威圧が、対峙しただけで全身を支配するような絶対的な絶望感がない……?)

 オアシスでのことに、肉体を操られて連れ去られたこと。
 テラとの接触が一番多かったガレは、己の内側からくる変化に疑問を巡らせ、答えに行き着いた。

「分身……か」
「あぁ?」
「ブオルどのが言ったこと、なんとなくわかり申した……しからばっ!」

 トン、と微かな音を立ててガレが大きく飛び退くと、その身が紫の雷を纏う。

「あらぁ、またブレス攻撃かしら? そんなの二度は通じな、」

 テラの言葉はそこで途切れた。
 避けるどころか何をしたのかすらわからないほど一瞬の出来事で、地を蹴り一気に距離を詰めたガレが、手にした刃でテラを一閃のもとに両断したからだ。

「おしゃべりが過ぎたな……まずは、一体」

 呆気なく崩れ去る分身の一体を尻目に、ガレの腕から発せられた電気がぱちりと弾けた。
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