59~その拳、届く時~

 分岐した未来から来たもうひとりの“時の調律者”との別離からしばらくは、不気味なほどの静寂の中を歩いてきた。
 言葉もなく進むカカオ達の面持ちは、けれども絶望に沈んだりはしていない。

 異なる時代からブオルやガレ、アングレーズをカカオ達のもとへ導き、テラとの戦いで命を落とすはずだったクローテやモカの危機を救って。
 新しい未来を創るため、時精霊は禁忌とも言える干渉を繰り返し、ここまでの道のりを大きく変えてきた。

(もうひとりのお父様がしてきたことは無駄じゃない……無駄になんてさせない……!)

 きゅ、とメリーゼの唇が引き結ばれる。
 その瞬間、ガレとクローテがぴたりと足を止め、身構えた。

「この、頭から押さえつけられるような重圧と背筋を駆け上がる悪寒……!」
「……近い」

 それが何を意味しているのか、カカオ達にもすぐにわかった。
 ふたりは五感鋭い種族であると同時に、一行の宿敵であるテラとの接触が他の仲間よりも多い。

「あらぁ、こんな時代まで追いかけて来たのね」

 ふわ、とマゼンタの長いポニーテールをなびかせて降りてきた道化師は、大玉に腰掛けて脚を組み、張りついた笑みで一行を見下ろす。

「ああ。ここまで来たぜ……やつあたり野郎を止めるためにな!」

 カカオがそう応えた瞬間、テラの眼から温度が消えた。

「…………はん。ほざくじゃないか、虫ケラ」

 ガラリと雰囲気を変えたテラは大小無数の玉を作り出すと片方の白目が黒く濁った双眸を細める。

「英雄ですらないちっぽけなモブが、いい加減目障りになってきたんだよ!」
「あら、最初から英雄なんて呼ばれている人はいないんじゃなくて?」

 アングレーズがバトンを回しながら詠唱し、ドーム状の光の壁を作り出した。
 効果はほんの一瞬だが、かわりに全ての攻撃を無効化する完全防御の術が、四方八方から飛んできた玉の爆発を防ぐ。

(肌がぴりぴりする……向き合うと、本当に恐ろしい敵だと実感するわ。けど、)

 震えて立てないほどじゃない。

「本当に……目障りになりやがって」

 他の仲間も同様に、怯えた表情を見せる者はなく、それがテラの舌打ちを誘った。
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