58~分岐した未来~
分岐した未来で、カカオ達が命懸けで倒したテラが実は生きていた……それはそのまま、アラカルティア存亡の危機を意味する。
「モカちゃん達の犠牲も無駄だったってことなの? そんな……知らないわ、そんな未来……!」
唇を震わせ、青ざめた顔でアングレーズが否定の言葉を吐いた。
『知らなくて当然だよ。テラが行動に移すのは、今度こそ邪魔者のいない……英雄と呼ばれる者がいなくなった未来だからね』
英雄も人間である以上、いつまでも健在でいられる訳ではない。
平和で穏やかな時代が続けば戦う必要性も減り、彼らのような力をもつ者もそう現れなくなるだろう。
何より、時空の精霊が消えてしまうならそもそも対抗手段を失うことになる。
もしもそこにテラがいきなり出現したら……
「……無駄じゃないよ、アン」
「モカちゃん……」
「そんな悲惨な未来があったから、このおじちゃんは精霊の禁を破ってまでボク達を助けてくれてた。実際、アンやガレっち、ブオルおじちゃん、パン姐にシフォ兄……みんながちょっとずつ未来を変えてくれた」
友人を元気づけるモカの声は低く微かで、怯えを払いきれていないものだった。
それでも、押し出すようなそれが仲間たちに前を向かせる。
「そうだな。それに、今オレ達は誰ひとり欠けてねーじゃねーか」
カカオがそう続けると、消えかかった時の調律者から笑う気配がした。
『……そうだ。こちらが介入した結果とはいえ、お前たちはここまで本当によく頑張ってくれた。やり直し、分岐して切り離された今、もはや不確定となったその先は……俺にもどうなるかわからない』
「ならば、それがし達の時代は……?」
『未来もまた不確定に戻った。テラを阻止できれば大きく変わるだろうね』
希望は再び灯ったのだと時の調律者は言う。
しかし同時に、半透明だった彼の体が急速に薄れ始めた。
「お、おい……!」
『どうやら、時間か……けど、最期に託せて……良かっ、た』
その瞬間、メリーゼが思わず駆け寄ってしゃがみ、小さくなったもうひとりの父の体を両手で包み込むように掬った。
「お父様……!」
『メリーゼ……随分久しぶりな気がするなあ……』
何せ俺の知るメリーゼは、と言いかけて、時の調律者は彼女の顔を見つめ、微笑む。
『……髪、切ったんだね。それも分岐か……とても良く似合って……』
「!」
そう残して、精霊は消えてしまった。
「あ……」
父は後ろにいるはずなのに、メリーゼの胸中には不思議な喪失感が生まれた。
けれども……
「……ありがとうございます、もうひとりのお父様」
「メリーゼ……」
ぎゅ、と彼女は拳を握り締め、立ち上がり、仲間たちを振り返る。
「さあ、創りましょう……新しい未来を!」
その瞳に涙はなく、代わりに強い決意の光が宿っていた。
「モカちゃん達の犠牲も無駄だったってことなの? そんな……知らないわ、そんな未来……!」
唇を震わせ、青ざめた顔でアングレーズが否定の言葉を吐いた。
『知らなくて当然だよ。テラが行動に移すのは、今度こそ邪魔者のいない……英雄と呼ばれる者がいなくなった未来だからね』
英雄も人間である以上、いつまでも健在でいられる訳ではない。
平和で穏やかな時代が続けば戦う必要性も減り、彼らのような力をもつ者もそう現れなくなるだろう。
何より、時空の精霊が消えてしまうならそもそも対抗手段を失うことになる。
もしもそこにテラがいきなり出現したら……
「……無駄じゃないよ、アン」
「モカちゃん……」
「そんな悲惨な未来があったから、このおじちゃんは精霊の禁を破ってまでボク達を助けてくれてた。実際、アンやガレっち、ブオルおじちゃん、パン姐にシフォ兄……みんながちょっとずつ未来を変えてくれた」
友人を元気づけるモカの声は低く微かで、怯えを払いきれていないものだった。
それでも、押し出すようなそれが仲間たちに前を向かせる。
「そうだな。それに、今オレ達は誰ひとり欠けてねーじゃねーか」
カカオがそう続けると、消えかかった時の調律者から笑う気配がした。
『……そうだ。こちらが介入した結果とはいえ、お前たちはここまで本当によく頑張ってくれた。やり直し、分岐して切り離された今、もはや不確定となったその先は……俺にもどうなるかわからない』
「ならば、それがし達の時代は……?」
『未来もまた不確定に戻った。テラを阻止できれば大きく変わるだろうね』
希望は再び灯ったのだと時の調律者は言う。
しかし同時に、半透明だった彼の体が急速に薄れ始めた。
「お、おい……!」
『どうやら、時間か……けど、最期に託せて……良かっ、た』
その瞬間、メリーゼが思わず駆け寄ってしゃがみ、小さくなったもうひとりの父の体を両手で包み込むように掬った。
「お父様……!」
『メリーゼ……随分久しぶりな気がするなあ……』
何せ俺の知るメリーゼは、と言いかけて、時の調律者は彼女の顔を見つめ、微笑む。
『……髪、切ったんだね。それも分岐か……とても良く似合って……』
「!」
そう残して、精霊は消えてしまった。
「あ……」
父は後ろにいるはずなのに、メリーゼの胸中には不思議な喪失感が生まれた。
けれども……
「……ありがとうございます、もうひとりのお父様」
「メリーゼ……」
ぎゅ、と彼女は拳を握り締め、立ち上がり、仲間たちを振り返る。
「さあ、創りましょう……新しい未来を!」
その瞳に涙はなく、代わりに強い決意の光が宿っていた。