58~分岐した未来~
決して平坦ではない道をしばらく進むと、ふいに魔物の気配が途切れた。
戦闘続きだった一行には、ありがたいことなのだが……
「この辺りは妙に静かね」
「そうだなあ。敵の親玉ってヤツには近づいてるはず……だよな?」
妙に思って周囲を見回すアングレーズと、時空の精霊を見上げるブオル。
マンダリンオレンジの目は、人ならざる精霊の身であるランシッドなら何かわかるのではないかと期待のまなざしを送っていた。
『確かに“総てに餓えし者”に近づいているこの状況なら、本来なら加速度的に危険度が増すと考えられるだろうね。けど、同時に聖なる封印の結界にも近づいているワケだから』
「……つまり?」
『これは予測だけど、魔物は結界付近を避けているのかもしれない。その結果、逆に親玉から少し離れた場所の方が多いのかもね。事実、ここは障気も心なしか薄い』
休憩するなら今だよ、とランシッドは提案する。
一刻も早くテラのもとへ向かわなければならないが、ここまでの道のりでカカオ達の消耗が予想以上に激しくなっていた。
それに、精霊のランシッドにとっても、マナを喰い尽くされ障気まみれのこの地を進むのは厳しい。
……と、
『……た』
「え?」
メリーゼが突然、ランシッドの方を振り向いた。
「お父様、今何か……?」
『いや、俺は何も……いや、待って』
愛娘の言葉に不思議に思った父だったが、一拍おいてその理由に気づく。
『魔物でもない。俺たち以外に誰かいる……けど、この気配は……?』
「こんな何もいないところに? お、おばけ!?」
『……はは。おばけもある意味間違ってない、かな……』
カカオがぎくりと身を固くさせて視線を彷徨わせると、今度は全員に聴こえる声。
しかしそれが余計に混乱を招いた。
何故ならば……
「お父様……お父様の声、ですよね……?」
父がいるはずの方向と、声がした方を交互に見やるメリーゼ。
誰が聴いても、誰よりも聴いているメリーゼからしても、それはランシッドのものと酷似していた。
『何者だ……また性懲りもなくテラの手先が小細工でもしているのか?』
『……まあ、そうなるよね。俺だって同じ立場なら疑ってかかるよ。だって俺は……』
俺は“お前”だから。
そう言いながら現れたもう一人のランシッドはいわゆる省エネスタイル……実体化の消耗を抑える時の小さな獣の姿になっていたが、時には揺らぎ、薄く消えかかるほど儚いものだった。
「なっ……」
『ずっと待っていたよ。お前達が、ここまで辿り着くのを……』
時精霊の獣は驚愕するランシッド達に、ゆっくりと語り始める。
『俺は未来の……いや、正確にはもう“分岐した未来”のランシッド。時空の精霊“時の調律者”だ。そこの未来から来たふたりに聞いてないか? 世界を救い、帰らなかった英雄の話を』
『!』
その言葉は、場に緊張を走らせるには充分すぎるものだった。
戦闘続きだった一行には、ありがたいことなのだが……
「この辺りは妙に静かね」
「そうだなあ。敵の親玉ってヤツには近づいてるはず……だよな?」
妙に思って周囲を見回すアングレーズと、時空の精霊を見上げるブオル。
マンダリンオレンジの目は、人ならざる精霊の身であるランシッドなら何かわかるのではないかと期待のまなざしを送っていた。
『確かに“総てに餓えし者”に近づいているこの状況なら、本来なら加速度的に危険度が増すと考えられるだろうね。けど、同時に聖なる封印の結界にも近づいているワケだから』
「……つまり?」
『これは予測だけど、魔物は結界付近を避けているのかもしれない。その結果、逆に親玉から少し離れた場所の方が多いのかもね。事実、ここは障気も心なしか薄い』
休憩するなら今だよ、とランシッドは提案する。
一刻も早くテラのもとへ向かわなければならないが、ここまでの道のりでカカオ達の消耗が予想以上に激しくなっていた。
それに、精霊のランシッドにとっても、マナを喰い尽くされ障気まみれのこの地を進むのは厳しい。
……と、
『……た』
「え?」
メリーゼが突然、ランシッドの方を振り向いた。
「お父様、今何か……?」
『いや、俺は何も……いや、待って』
愛娘の言葉に不思議に思った父だったが、一拍おいてその理由に気づく。
『魔物でもない。俺たち以外に誰かいる……けど、この気配は……?』
「こんな何もいないところに? お、おばけ!?」
『……はは。おばけもある意味間違ってない、かな……』
カカオがぎくりと身を固くさせて視線を彷徨わせると、今度は全員に聴こえる声。
しかしそれが余計に混乱を招いた。
何故ならば……
「お父様……お父様の声、ですよね……?」
父がいるはずの方向と、声がした方を交互に見やるメリーゼ。
誰が聴いても、誰よりも聴いているメリーゼからしても、それはランシッドのものと酷似していた。
『何者だ……また性懲りもなくテラの手先が小細工でもしているのか?』
『……まあ、そうなるよね。俺だって同じ立場なら疑ってかかるよ。だって俺は……』
俺は“お前”だから。
そう言いながら現れたもう一人のランシッドはいわゆる省エネスタイル……実体化の消耗を抑える時の小さな獣の姿になっていたが、時には揺らぎ、薄く消えかかるほど儚いものだった。
「なっ……」
『ずっと待っていたよ。お前達が、ここまで辿り着くのを……』
時精霊の獣は驚愕するランシッド達に、ゆっくりと語り始める。
『俺は未来の……いや、正確にはもう“分岐した未来”のランシッド。時空の精霊“時の調律者”だ。そこの未来から来たふたりに聞いてないか? 世界を救い、帰らなかった英雄の話を』
『!』
その言葉は、場に緊張を走らせるには充分すぎるものだった。